86.パンケーキブーム到来の前のチョコレート
さあ、やってきましたお料理の時間です!
張り切ってきましょう!――と、言いたいところだけど。
家の台所にある目の前の材料、どうしちゃったの?!美味しいものを食べたい、精霊たちの本気が窺えて怖いんだけど。
小麦、砂糖、牛乳とポイップ、卵まではこの村にあるとわかっていたから、大丈夫。この材料で作ろうと思ってたから。だけど、この艶々とした琥珀色した液体。これはこの村になかったよね?メイプルシロップを出す樹を作ったの?あれば確かにあれば嬉しい樹になるけれど、さて。
少し小指ですくって、舐めてみる。
――これ、めっちゃ純度の高い蜂蜜だ。
前世の祖父がミツバチを養殖していた時に貰ってた蜂蜜。香りがよく、甘くて、とろみがあって。普通のパサパサのパンが一気に喫茶店のパンに早変わりしたあの美味しさ。これだけでもずっと舐めていられる。
でも、これってどこで手に入れたんだろう。答えてくれそうなテーレを見るとすぐにわかった。
「これ?クロのダンジョンで採れるわよ」
「クロのダンジョン?」
「そう、女性が喜ぶものを出せば、女性がやってくると思ったみたい。発想はいいけど、詰めが甘いわよね」
まあ、クロらしい判断だと思う。あのダンジョンが街に近ければ、女性の冒険者もいるだろうから可能性があるけれど、あの辺鄙な森の奥だと精霊か、あたしか、村の人になるから、間違いなく女性なんて行かないと思う。どこか抜けてるよね。
だけど、これ一回でも食べたら、食べるのも良し、売るのも良しで、一度は行ってみたいと思うかも。それぐらい需要のある美味しさだ。
「蜂蜜以外には何が出るの?」
「甘くない真っ黒な塊とか、味のないシュワシュワした水とか?」
「あ、あと色んな綺麗な石も埋まってたかしら」
テーレのシュワシュワって言い方が、可愛い。
それにしても完全に前世であたしが好きだったものだ。黒助だった時にあたしが見た夢で知ったのかな。わざわざ甘くないチョコレートにしたのは、好みで甘さが変えることが出来るからなのか、嫌がらせなのか。
甘くないチョコと言われたら、アラフォー時代カカオ60%前後のチョコレートを引き出しに入れて、ちょこちょこと食べながら頑張ってた、あの時代を思い出すよ。
あ、ダジャレじゃないからね。
念のため確認。
「ねえ、テーレ。その甘くない黒い塊持ってる?」
「あれが食べたいの?一応持ってるわよ。はい、これ」
あ、うん。匂いは確かにカカオなんだけど、この丸っこくて黒い塊って、思わず蹴りたくなるようなフォーム。とりあえず美味しくなるなら、形を変えてもらわないとね。
丸いまま口にする勇気がないので、ナイフで削ってみる。
ふわっと香る独特の香りの欠片を口に入れてみた。
お!
チョコレート職人がいたら、涙流してこの材料で作りたくなるような気がする。日本の優れたチョコレートと比較しても変わらない。まあ、それぐらい美味しいということだ。
砂糖とポイップクリーム入れたら甘くなって、テーレの好みになるかな?カカオバターなんてないし、どこかのレシピに生クリーム(動物性)って書かれてたのを見たことがある気がする。動物性なんてないから、ない物は仕方ない。ある物で代用だ。
レッツチャレンジ!
器にカカオの塊を入れて湯煎で溶かし、砂糖とホイップクリームを入れてゆっくり混ぜる。
混ぜる混ぜる混ぜる。
更に、混ぜる混ぜる混ぜる。
ああ―――――ぁ。これ何時間か混ぜる感じ?
攪拌機で混ぜる感じでGO
ダメだこれ。繊細な魔力操作がいるから、余計に疲れてきた。
だけど、仕方ない。ソルにハンドミキサー作ってもらってないから、頑張るしかない。
ファイト一発!
はぁはぁはぁ・・・・。疲れた。
頑張った甲斐あって、見た目はいい感じじゃない?
ちょっと舐めてみる。
ううん・・・。美味しいけど、ザラザラする。
網で濾すんだっけ?でもあれって、カカオから作る場合だよね?やっぱり乳化の問題でザラツキが出たのかな。砂糖とホイップせめて分けて入れるべきだったか。
だったらケーキの上に掛けないで、サクッと混ぜてチョコレートパンケーキにしてしまえ。
そうと決まれば、元々用意してあった材料を使ってパンケーキの元を作って、作ったチョコレートの半分を入れて。さて、焼いてみよう!
フライパンにお玉で掬って、一枚分投下。
おう。
香ばしい匂いだ。
ああ、久しぶりのチョコ。焼ける間も体が揺れちゃう。
ぷつぷつが出来てきたから、ひっくり返して更に数分。
出来ましたよ。記念すべき第一号チョコパンケーキ!
出来たては熱いし、出来たら少し冷ませてしっとりしたのが食べたい。お皿に一枚置いて、さらに一枚焼くために投下。
これを繰り返して、8枚出来た。
まずは精霊達と食べよう。えーと、テーレ、ソル、リュビ、グンミ、シン、あたし・・・。
忘れてないよ。シャンス!
・・・。なんであんたが来た?!
クロ!
「我のダンジョンで出た物から出来たのだ。我にも権利はあろう?」
「僕のことも忘れてないよね?」
わ、忘れてないよ。シエロ。
「我も・・・」
長・・・。
結局、味の調整をすると皆に言い聞かせ、まずあたしが食べた。
即席に作ったにしては美味しかったが、重曹もベイキングパウダーも入っていないからか、ふっくらしていなくて、味はいいけれど触感が微妙だった。チョコレートのざらつきもそのままだったし。
――――ということで!
膨らまし粉という名で、テーレに植物を作ってもらい、ソルにハンドミキサーを5つほど作ってもらうことにした。
そうなるとすぐに食べられないと駄々を捏ねられたので、みんなでチョコレートを湯煎して、好きな味にしてもらうことにした。
甘いミルクチョコレートが食べたい者。
ちょっとダークなチョコレートが食べたい者。
お酒が好きなボンボンショコラが食べたい者。
もう、チョコレート試食会でいいよね。
ん?のこりのパンケーキ?
失敗作なんて誰にも出せないよね。
だから、こっそりリュックに仕舞ったよ。
何故こっそりかって?
蜂蜜かけて食べたらそれなりになりそうだし、食べ物は大事にしないとダメなんだからね。
何事も建前が大事なのだ!
読んで頂き、ありがとうございました。
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仕事少しは落ち着くといいな。