79.みんなで精霊村に帰ろう!
精霊王がまた眠りにつくと、シンが開けた隠し洞窟内は真っ暗になった。
あたしたちが出ると、その洞窟は始めからなかったかのように、無くなる。
やっぱり空間魔法?!
空間と空間を繋ぐなんてことが出来るなんて、やっぱりいいよね。
ある意味隠し金庫が出来るような物だもん。しかも、入口が塞がってていいという、最高の要塞金庫。
火の大精霊の証を守ってきたのは伊達じゃない。
シンもあたしの称賛に満足のようで、くりくりとした金色の目が細められていた。
可愛いから、撫でてみよう。
うむ、中々いい肌触りだ。
「もういいだろ」
気が付いたら撫でまわしていたらしく、いい加減にしろとストップがかかってしまった。
残念だよ。
それにここを片づけるのにも時間がかかりそうだから、仕方ないね。
そう、リュビと一緒に飛び込んで開けたこの空間には、火の精の証だけでなく、ここにはあらゆる財宝と呼ばれる物があった。
鑑定を掛けるとマジックアイテムと言われる類の物から、金貨・宝石類、そして武器まで幅広く。
それ自体はまだ、盗賊が大きな商隊ばかりを襲ったとか、貴族を狙ったでもわかる。だけど限られた空間の洞窟にあること自体が、普通ではない。しかも、火の精が狩られた時代からあるにしては、状態が良すぎるのだ。まるで王族が隠したかのような・・・。
「ねえ、ジン。ここは何を意味してたの?」
シンが固まった。
「―――名前」
「やっぱり、そうなんだ。空の上位精霊『ジン』あたしって、いい感じに仮の名前つけてたんだね」
「聞かないのか」
「うん。今はいい。お腹いっぱい。それよりも、これらを貰っていくね。ここに置いてても仕方ないし、経済回せる時が来たら、回した方がいいし」
「・・・・・・・・」
リュビがだから言っただろ?的な感じで、シンを見た。そんなの納得できるか!みたいな二人のやり取りが面白い。
あたしには筒抜けなのだから、無言でやり取りしなくてもいいのに。
それに今はとてもハッピーなのだ。
早く村に帰って、みんなでゆっくりしたい。
リュックに袋に入っている金貨を詰めようと風魔法で引き寄せようとしてけれど、入れ物自体が重たくてダメだった。
仕方ないので、その金貨袋1つと目の前にある大きな宝箱に触れてリュックにIN。
残りは次でもいいかな。どうせシンが管理してるんだし。
「シン、念のためこの空間別のところに移動しておいて。それとも、ここだけが違う場所?」
「・・・違う場所だから、問題ない」
「凄いね。流石上位精霊!村でも色々と空間を拡大したりとか、いざという時に逃げれる場所を作るとか、したいことがあるから宜しくね!」
何だかシンが呆れている気がする。
なんでよ。
まあ、あたしは今日は気分がいいから、気にしない。鼻歌交じりにその空間を出た。
出てすぐのところで、ソルとテーレが心配そうに待っていたが、あたしの様子を見て恙なく終わったのだと気づいたようだ。
「みんなで帰ろう!」
リュビ、ソル、テーレがあたしの周りに集まる。
「シン、一緒に帰らないの?」
「一緒に?」
「仲間なんだから、一緒に帰ろう」
その力があるから距離を置いていたのはわかるけれど、あんたの昔の主は遥か昔にいないのだし、義理立てする必要もないでしょ。
昔は昔、今は今。
「なに、呆けているの。リュビと力合わせて精霊王の門番するんでしょ。さっさと帰ろう!」
ほら。
腕に乗ればいいじゃないとばかりに、付きだした。
仕方ないなぁ、とばかりにやってきて、テーレに小突かれた。
「調子にのらない」
「しょうがない奴だ」
ソルの言葉に頷きながら、最後のとどめをリュビが差す。
「素直じゃない」
「まあ、まあ。いいじゃない。これでみんな揃った。明日から気合入れて遊ぶよ!」
「遊ぶって何をするの?」
「えーとね。公園作ってるの。みんなでワイワイ遊べる場所。だから、帰ろう!みんながいる場所に!」
『転移』
戻ったら、ある意味修羅場だった。
酒樽が10以上転がっている。どれだけ飲んだの?!
水の精が樽の乗ってユラユラと揺れ、おじちゃんたちは地面と仲良しこよしやってるし、子供たちはそんなダメダメ酒飲みに、毛布を掛けて回っていた。
あ、ひこちゃん、ぴいちゃん。
シャンスの上に陣取ってた。
あ、シャンスが気づいて、駆けてきた。
おお、ひこちゃん、ぴいちゃん、バランス感覚凄い。落ちないで乗ったままやって来た。
「マリー、酷い」
シャンスが構って欲しそうに、あたまをお腹に押し付けてくる。
「ごめん、ごめんね。勢いで行っちゃた」
ひこちゃん、ぴいちゃんを一撫でして自分の肩に乗せ、シャンスの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
身体はもう成人に近いというのに、とても甘えん坊で可愛い。
大人であればそれだけで終わるが、あたしの場合は体を張って遊ぶに近い。
シンは巻き込まれたくないとばかりに近くの枝にとまり、テーレは見守る。
シャンスが落ち着いた時に、ソルとシャンス、コッコ二羽も撫でまわすことも忘れない。
ああ、こんな時間久しぶりかも。
明日からトットの小屋を作ったら、公園を作ることに専念して、出来たら全力で遊ぶぞ!
滑り台は絶対だよね!
「マリー?」
この雰囲気をぶち壊す恐ろしい声が、頭の方からする。
その声が、母さんの声だと認めたくないけれど・・・。
「どこへ行っていたの?」
えーと。
「遊びに行ってた!」
うん。間違ってない。
「で?どうして、みんながここに?」
ん?
「甘酒のお陰で全部上手くいったから?」
あたしはこの時浮かれていたのだと思う。幸福感に酔っていたのかもしれない。
いつもならこのやりとりで、背中から滝のように流れるような冷や汗と戦っている状態だが、高揚しているあたしには、全く理解が出来ていなかった。
「ちょっとマリー、あなたお酒飲んだの?」
「飲んでないよー。あ、母さんも飲む?美味しいよ」
酒粕をリュックから出そうとした時に、母さんの限界が来たようだ。
「マリー!あなたって子は・・・・・・・・・」
記憶があったのはそこまで。
幸福のまま電池が切れたように、眠った。
起きた時には・・・。
――言わずもがな。
読んで頂き、ありがとうございました。
評価&ぶブックマーク&誤字脱字報告ありがとうございした。
時間があるときに、ゆっくり直させて頂きます。
出張前にストック書けるかな。