76.洞窟探検
黒助がお腹が空いたと流し目で見るので、面倒くさくなり果物を渡した。ポーションにもなる果実だ、本来ならこれで足りるはずだが、ちゃんとした食事を摂ってないようなので、少しだけ魔力も渡した。
クロの恍惚した顔がちょっと、ヤバい。
存在だけでエロいとか、絶対にあたしの周りに居てほしくない。
子供と魔性の男、合わない、合わなさすぎる。
せめて後10年後が良かったよ。
長にも食事の約束していたから、母さんに頼んでお肉を焼きやすいように切ってもらった。
―――までは良かったのだ。クロを見た時、いきなり臨戦態勢になったのは流石だと思う。
「ああ、母さん、これ、あの黒助。水の精で禊の後、『黒』と『白』に分裂してね。その黒の方」
「―――そう。もしかして、これが原因?」
母さん、当り。だけど、指さしてはいけません。
ロックオンされると魔力吸われるよ?
ほら、指ごと吸われた。
「なんなのっ!これ!!」
うんうん。本当に節操がなくて、仕方がない奴だ。
女からしか吸わないとか、どこのインキュバスだよ。
「公害にならないように、ダンジョンに行って貰うから安心して。長も見張ってくれるし」
「そ、それなら、いいわ」
まだ納得していないけれど、初めてされたことに動揺した母さんは、台所に駆けこんだ。
ご飯という名のお肉お願いします。
お肉の準備をしてもらって、ご飯を食べようとしている時にルコが呼びに来た。
向こうに行くならと、母さんに父さんたちの分もお肉を焼いて貰って持っていくことにした。
母さんも一瞬行きたそうにしたが、色々と気が動転しているのだろう。
ご飯を作らないと!と大量の肉を切り始めた。
シエロは当然のようにあたしと一緒に来たがったが、長と共にクロをダンジョンに連れていく役目をお願いした。
何かあれば、シエロが居れば安心だからとヨイショして。
とても単純じゃなく、素直な子で良かった。
任せておいて!とふんすと鼻息荒く、長と一緒に行ってくれた。
ダンジョン、これで早く解決しそうで良かった。
シエロが聖水を作るなら精霊の泉の水がいいというので、樽に大量に入れた。
で、癒しの魔力を注ぎ込む!
これでよし!
樽をリュックにしまい、さっさとグンミと共に洞窟探検と行きましょう!
『転移』
みんなでご飯を食べた後、父さんたちと共に洞窟へ入った。
「マリー、こっちにきて良かったのか?」
「うん。なんとなく勘がこっちだと言ってる気がして」
エディの目がキラキラしだした。
うわぁ、適当に言ったのに。
「そうなのか!じゃあ、お宝もあるかな?」
「それはどうだろうな。相手はアンデットらしいからな」
父さんまでワクワクし始めたよ。
言ったら悪いけど、この村の洞窟にそんなに良いものがあるとは思えないよ。だけど、ワクワクするのは分かる。本当に危険ならすぐに転移をすることにして、いざいざ参ろうぞ。
なんて、言っている余裕がなかった。
ほんの数十メートル掘り進めば、すぐに地底湖に当たった。
うわぁ、うわぁ。
完全に沼だよ。間違って入ってしまえば、足が捕られてそのまま沈むのが確定する様な、ヘドロ一杯の沼。
その上今から戦うのは、ドロドロ、ヌルヌル、ベトベト一番近寄って欲しくないタイプだった。
そうそうに臭いは浄化で遮断。
「なんだこれ!!」
エディは気持ち悪そうに顔を顰めた。
見た目はドジョウかウナギっぽい。ところどころ身が落ちているので、よくわからない。
「テンポ?」
父さんの言うテンポが何なのかわからないけれど、取りあえず聖水でやっつけるのが先だということだよね。どうすれば?
「エディ、この聖水に剣を浸してから、あいつを叩け!」
なるほど、そうやって使うのか。あたしはてっきり聖水を掛け続けるのかと思った。
父さんもミスリルの斧を聖水に浸し、向かってくる敵を切りつける。
中々に二人ともカッコいい。
だけど切りつけてなくなった身は、湖に潜ってしまえばまた元に戻ってた。
「マリー、半分聖水をこの湖に流せ」
「はい!」
樽の半分ぐらいに穴を開けて、湖に流し込んだ。
じょわじょわと何かが溶けるような音がした。
腐ったものが溶けている?
それならば更にこの水を浄化してしまえばいい。
「ルコ!グンミ、気合入れていくよ」
「はい(なの)!」
「「浄化」」
気合入れて叫ぶようにスキルを行使した。
気合が伝わったのか、カッ!と地底湖全体が光で包まれた。
そんな中で、カンカンと骨とミスリルの当たる音だけが響く。
骨の数を減らしていったのか、当たる音が少なくなり、大きな物が崩れるような音がしたと思ったら、目の前に骨が散乱していた。
「終わった?」
「ああ、終わったな」
この沼の主が居なくなったからなのか、少しずつ霧が晴れるように水の色が変化していく。
だけど全部を綺麗にするにはまだまだ聖水も、魔力も足りない。だが、見た目『沼』から『池』ぐらいにはなった。
このままでは害はないけれど、中途半端はなんとなく落ち着かない。
「ねえ、グンミ、ルコ。ここに精霊の泉の水、どれだけ流し込んだら綺麗になると思う?」
「うーん・・・。本体が居なくなったから、この大きさなら3~5樽ぐらいかな?」
それぐらいなら、持って来れるかな?なんて考えていたら、『祈ればいい』なんて、シエロから念話が届いた。
「祈り?!」
思わず、声に出た。
『聖女といえば、聖なる祈りでしょ。聖水流したのだから、祈りは届くよ』
物語の中では確かに、そんなことを書いてあるのもあったと思う。だけどその聖女が自分というのは、何とも微妙過ぎて乾いた笑いになる。
でも、やってみようと思う。家族だけしか見ていないところで、どんな風になるのかも確認しておきたい。この世界での聖女とは何を意味するのだろう。
穢れにより魔物へと変わり、アンデットになってしまった「テンポ」安らかに眠れ。
そう思った途端に頭に浮かんのだのは、有名な童謡のあの曲だった。
いつの日にか帰ろうという故郷を思った歌。
『ありがとう』
すぅーと池から一筋の光が洞窟の上へと昇って行った。
ああ、天へと還ったのだ。そう、思った。
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