67.笑え
ご飯食べてリュックをモフッたからか、色んなことを忘れていたことを、思い出した。
「グンミ、水の精たちはもう少し休眠するの?」
「うん。本当はもう大丈夫みたいなんだけど、今が微妙でしょ?」
「そうだね。確かに少しでも不安定要素、失くしておきたいね」
「後、カランキ村の水がダメになってるなら、森に影響を与えそうだから」
「水脈を浄化しに行くの?」
「うん。ちょっと土の精達とも連携しないとだから、魔力貯めるの」
凄いな。みんな頑張ってる。
カランキ村の水のことをも忘れてたし、水脈のことなんて頭にもなかった。
一人ではできないことをこうやって補っていけたらいいね。
黒助の気配を探ると、以前よりも繋がりが太くなっていると感じる。それに以前は全く感じなかった聖の輝きも。出てきたときの容姿がどんなになっているか、楽しみだ。
黒助と水の精については、グンミに任せておけば大丈夫ね。
そして思い出さなくてもいいことまで思い出した。
これは時間がかかりそうだから、最後にしよう。
「母さん、みんなご飯食べたかな?」
片づけをしていた母さんの背中に声を掛けた。子供たちが食べ終わったなら、村で戸惑っていることがないか聞いておきたい。
「食べたころだと思うわよ。この肉じゃがを持っていたから」
それならこの後みんなの様子を見ておこう。
二人で並んで集会場に行く。いつもなら広場や集会場の周りで、宴会をしているおじちゃん達がたむろしているけど、今日は子供達の手前があるのか、おばちゃん達に言われているのか、静かである。
その代わりおばちゃん達が、湧いている。うん、普段あまり見ないお婆ちゃんまでいる。きっとあの純粋な子供達を堪能したいに違いない。あたしだって子供だけど、変な子供として認識されているし、精霊と契約したこの村の子供達はどこか達観しているというか・・・。
発想自体が柔らかいから、こんなこと出来る?こんな事は?と研究というか興味に邁進しているので、遊びも中々ハードだ。
まあ、これは主にあたしのせいだね。
「あ、リセにマリー」
「おばちゃんたち、サンたちはどう?」
「子供達は、交代で様子を見てるよ」
「マリーちゃんが気に病むことでも、抱えることでもないよ。カランキ村がそんなことになっているなんて、誰も知らなかった。知ろうともしなかったのだから」
「それに、カランキ村だけの問題ではなくなる」
「今後のことは皆で決めていくから、子供たちのことは任せておきなさい。マリーはマリーのすべきことがあるでしょ?」
みんなに頭を撫でられて、嬉しいような、恥ずかしいような、情けないような。色んな感情が入り混じる。
「マリー」
ただ一言名前を呼んだ母さんが頭を撫でて、抱きしめてくれた。
うん、みんなのこと信用しているし、大好きだよ。
頼っていいいのだと、言ってくれている人に恵まれて嬉しい。
「おばちゃんたち、お願いします」
「ハイよ。任せておきな」
何かあれば治癒魔法をかけるから呼んでもらうことにし、あたしは家に戻って体力回復に努めることにした。
ホッとしたらまた眠くなる。ベッドに潜り込めば、すぐに眠りについた。
目が覚めると何故か足元でフェンリルの長が眠っていた。
目が覚めたのが分かったのか、顔がこちらに向いた。
「起きたのか」
「うん。長、どうしたの?」
もふもふの魅惑的な尻尾を、あたしの目の前で意味ありげに揺らす。
目でそれを追っていたが、これは甘やかしてくれる気なのだと勝手に解釈して、おりゃーとばかりに長の腹に飛び込んだ。
もふもふの毛の中を泳ぐ。
おお!高級絨毯だ。いや、このふんわり感は絨毯にはでない。高級シャギーラグのようだ。
長の腹の上でコロコロと転がっていると、本当に癒される。
あたしが求めていたものが、ここにある!
もふもふとスローライフを目指した5歳のあの時から2年。
遠い・・・。
長の尻尾が頭にモフッと乗る。
我に返って、また癒された。
「ダンジョンは急ぐことない。隣村のことは洞窟も合わせて、ホセたちに任せればいい。探していた洞窟も見つかった。それらは管理を火の精たちに任せておけばいい。マリーはとにかく休め」
長も心配して来てくれたんだ。
好きでやってるし、自分が行動した結果なので、自分が動くべきだと決めつけていた。少しだけ頼ることを覚えたけれど、まだまだ自分が、やらなければならないと思い込んでた。
少しは直ったと思ったんだけどな。
「笑え。マリーが笑わなくなれば、精霊が悲しむ」
「精霊が悲しむ」
「そうだ。聖女たるマリーが精霊村と名付けたことで、聖域となった。森の奥で隠れ住んでいた精霊たちが、ここに来たいと思える村になるように、マリーが心から笑うことだ」
確かに最近、全く余裕なかった。心から笑うよりも、怒ったり悲しんだりする方が多かった。
もしかして、黒助は・・・。
また考えに耽りそうになった時、長がそれを遮った。
「マリー窓の外を見るといい」
「窓の外?」
「そうだ、サクレの枝だ」
目を凝らしてみると、小さいフクロウみたいな鳥がいた。
「見つけたか?」
笑いを堪えた言い方に、ほっこりとなりながら頷いた。
「あれが空の精だ。頑なにマリーに会うことを拒んでおいて、変化する森についていけず、どうしていいのかわからなくなって、此処に来たのだ」
「長が連れてきてくれたの?」
「勝手に付いてきていたのだ。見ろ、あの身の置き所がなくて、せわしなく動く首」
「可愛い」
「あの捻くれ者が可愛いとは、マリーも物好きな。きっと腹が減っているに違いない。餌付けするといい。餌付けは肉がいい、肉がいいと思うぞ」
それは長が食べたいものじゃ?という疑惑のまま、空の精を迎えるために着替えることにした。
「長、お肉持ってる?」
「勿論、狩ってきた。仲間も子供たちをあやすのに貢献しているから、食べてもいいよな?」
すでに焼いたお肉を食べる気になっている長が、可愛い。
「勿論!」
首に抱きついて、ぶらぶらと揺られながら外に出た。
それを見た空の精の目が見開いたのが可笑しい。
「空の精さんも、ご飯食べに降りておいで」
次回「空の精「シン」」
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