63.聖女(魔王)降臨と子供たち
白い翼を広げて、神々しいまでに光を帯びたシエロがあたしの前に降り立った。
そのシエロにあたしは、乗る。
一世一代の大仕事とばかりに、胸を張る。
今だけ聖女になり切るのだ!
あ、自ら聖女なんて言わないよ?言質を取られると、面倒くさい。聖女なら対価なしで癒せとかいうやつが出てきたら、天誅とばかりに殴りたくなる。
勝手に思ってもらえばいいのだ。
そしてあたしのいる村は、カランキ村よりも何十倍も優れている。シエロが言っていたように、聖域に達していると思う。そんな素敵な村を『名もなき村』とか、『はぐれ村』などと、蔑んだ名前などで今後呼ばせない。
この村にマウントをとられてきた仕返しは、ここできっちり返しておこう。
聖女らしくないとか、小者臭がするとか言われても、良いもんね。ここでどっちが上なのかを示しておかないと、あたしがやりたいことだ出来ない。それぐらいなら、ある権力を使ってやる!
ウフフッ。
「あたしは精霊村のマリー。この天馬は神の御使いシエロ。カランキ村の惨状に驚き、助けに来た。あたしにはこの村の身分なんて関係ない。平等に振舞う。それに対し反対をするなら、その者たちは癒しても物資の提供はしない」
文句を言いそうな人(村長一派)に向けて、言い放った。
「なぜならあたしは聖者ではなく、生身の人間。弱者を虐げようとする者に、手を差し伸べようとは思わない。善意に悪意で返すなら、その時は容赦しない(シエロが)」
言い終わると、カッと眩しい光が辺り一面に達した。
おお!神秘的!なんて思ったのはどうやらあたしと子供たちだけで、周りの大人たちには脅しにしか見えない、威圧が放たれたようだったと、遠い目をして村の人は言う。
なんで?
静まり返ったカランキ村の隅々まで、シエロによってあたしの声は届いたらしい。
それはいい。ただその声がシエロによってカスタマイズされていたようで、カッコよかったが、どこの魔王降臨かと思ったと。
まじか!
どうやら心の声が駄々洩れだったらしい。
頭を抱えて、蹲ることになった。
ここから始める魔王伝説?
笑えない。笑えないけど、子供たちや弱っている人たちに無体なことしないなら、それでいいよ。
子供たちからはキラキラした目で見られてるのは、悪くないし。
「母さん、もっと小さい子が村の外れにいるみたい。サンが案内してくれるから、あたしと一緒に行って。アマンダはこの子達にスープを食べさせて欲しい」
「あ、エディも一緒に来てくれると嬉しい。多分家も作った方がいいと思う」
「おじちゃんたちはこの子達が食べた後、何人かシエロについていって、一緒に魔石拾いの警護をお願い」
みんなが任せておけとサムズアップ!
意外と皆さん、気に入ってます?
あ、その前に、「グンミ浄化お願い」
「バッチリだよ」
言う傍からブルーのエフェクトが子供たちを包んだ。
子供たちはそれを触りたくて、手を振り回しているが、残念ながら触れない。
消えた後、自分たちが綺麗になっていることに気づいて驚いている。
そうでしょ、そうでしょ。いつの間にかエフェクトをつけるなんて、カッコいいこと覚えたグンミの浄化は綺麗だよね。
子供たちの心鷲掴みだ。
心を開いて貰ったところで、木の皿に入れたスープを配ってもらった。
スプーンを使うことも出来ないで、具を手掴みで食べているのを見た時には、Oh~。思わず外人になってしまった。
浄化を掛けてよかったよ。
「誰も取らないから、ゆっくり食べて」
アマンダ、ファイトだ!
「サン、あなたも案内が終ったあとちゃんと渡すからね」
お腹が先ほどから食べたいと訴えているのを我慢して、小さい子たちが居る場所に案内してくれるサンに声を掛けた。
「ああ」
短い言葉だったけど、照れているのが分かる。
あたしと背格好が変わらないけれど、口調からしてエディと同じ年ぐらいかな?
サンが奥へ奥へと道に見えない獣道を歩いていく。
「あそこだ」
たどり着いたのは、洞窟だった。
「暗いけど、雨で濡れないのがいいんだ」
確かに雨に濡れて体力を奪われるよりはいいだろう。だけど、剥き出しの岩だらけでは、冷たいし、痛いし、ゆっくりと寛ぐことは出来ない。
これは急いで中に入って、確認しないと。
その前に子供たちの汚れだけではなく、除菌も出来るイメージで洞窟の中に浄化を掛けた。
中に入るとそれはもう、子供たちは見るに堪えないぐらい痩せ細っていた。
「水を飲むのも、精一杯でどうしていいのか、俺」
サンの声にまぶたがおぼろげに揺れる。
まだ生きている。だけど今のままだと今日明日にも命の灯が消える。
「母さん・・・」
病気の人の状態はある程度覚悟していた。
だけど、子供たちの状態までは予想もしていなかった。一番大事にされないといけないのに、食べるものがないという口減らしが、こんな近くの村でされていたなんて。
――泣いている場合じゃない。早く治癒をして果実水を飲ませないと。
薄暗い洞窟の中にも、希望を届けたい。
「エリアヒール」
キラキラと金平糖のような小さい光が子供たちの周りを照らした。
少しだけ穏やかな表情になり、光を嬉しそうに見ているのがわかるとホッとした。
「サン、母さんがやっているように子供の頭を持ち上げて」
恐る恐る頭を少し持ち上げるサン。
母さんが頭を上げている子と交互に、水差しで果実水を少しずつ流し込む。
青白かった顔に少しだけ赤みがさしたのを見届け、次の子へと流し込む。
洞窟で寝たきりになっていたのは6人だった。
「本当は8人だったんだ」
サンの呟きを拾った母さんは、サンを抱きしめた。
「頑張ったわね、サン」
母さんに抱きついて、ワンワンと泣きだしたサン。
食べられない状態がどれぐらい続いたのかわからない。その時からサンはずっと守らなければと気を張っていたのだと思う。
こんなの、嫌だ。
知らない村や町のことまで考えない。
この子たちを、あたし、養う!
きっと母さんも反対しない。それどころか、母さんも同じように思ってくれてる。
「シエロに働いてもらいましょう」って言ってるから。
「マリー、ここは早く出たほうがいい」
エディ?
「奥をミミと見てきたんだが、亀裂が入っている。崩落が始まると危ない」
そういえばエディと一緒に来ていたことを、忘れてたよ。
大事なことを調べてくれてありがとう。流石、お兄ちゃん!
中にいる子供たち6人を揺らさないようにゆっくりと外に運んだ。
この子たちを早く精霊村に運びたい。だけど、シエロは護衛についてるし?
あれ?
次回「64.転移と母さん無双?」
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