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61.治療

皮膚の損傷についての描写が少しあります。

ちょっとグロテスク?


治療をする前に色々とひと悶着あったが、邪魔する者がいなくなった。

これで、取り掛かれる。

どこまで出来るかわからないけれど、やれることはやっていこう。


何となく一番奥に寝かされている人のところへ行った。

一番奥ということは、始めの方に発症したか、かなり酷かった人じゃないかと思ったからだ。

間違いない。多分この人が始めの人だ。

浄化もかけて、浅くだけどヒールもかけた。それでも皮膚は全く乾いておらず、血液とかリンパ液が滲み出てきている。

それだけでなく皮膚は紫色に変色し、所々皮膚が削れており、色んな虫が湧いていたのだと一目でわかる。

正直生きているのが不思議なぐらい。

ここまで酷い状態を見たのは初めてで、ウッとリバースしかかるのを必死で止める。

一緒に入ってきたおじちゃんが、一人二人と外に走っていった。


どんな感染症を持っているのかわからない。ビニール手袋なんてないから更に手に結界の強化を掛けた。

恐る恐る触れると確かに冷たいけれど、僅かに体温を感じた。

更に浄化を掛けながら、治癒の魔力を流す。


体液が流れ出るのは収まっていくけれど、それ以上は何をしていいのかわからない。

「母さん、この人に果実水ポーションを飲んでもらいたい。水差しあるかな?」


あたしの言葉を聞いて、唯一踏みこたえるようにいたおじちゃんが、水差しを出してきた。

「どうすればいい?」

「胃に流し込みたいから、この人の頭を少し上げてほしい」

「わかった」

言葉短く寝ている人の頭上に回ると少しだけ頭を上げた。

上げた瞬間、髪の毛がごっそりと抜けた。

おじちゃんが、グッと息を呑んだのが分かった。

涙が滲む。

水差しに浄化を掛け、母さんに果実水ポーションを入れてもらう。

頭を上げたことで僅かに開いた口に水差しを差し込み、口を湿らす程度流し込む。

咳き込む様子がない。

更に喉にまで達するように先ほどより多めに流し込んだ。

僅かだが喉が動いた。

これならもう少し行けるかも。


正直、怖い。

医療に従事していたわけでもない。寝たきりの人をお世話したこともない。これが正解なんてものが全くわからない。この世界では治癒魔法か、薬草しかないのだ。

それでもこのままではもって2・3日。自己満足かもしれないけれど、この人が安らになってくれたらいい。


小さな水差しに入れていた果実水ポーションを全部飲み切った。

「ゆっくりと頭を下ろして」

すると少しだけ表情が和らぎ、先ほどまで殆ど感じなかった呼吸が、わかるくらいにはなった。

良かった。

ただ皮膚はいきなりは治らない。

リュックに入れていた布の端切れをだし、母さんにお願いして浄化を掛けてもらった後、巻いてもらった。

ただ多分噛まれたと思われる足の指だけは完全に壊死しているようで、端切れを巻く前に骨がとれた。

おじちゃんにそのことを確認してもらおうと顔を見ると、号泣していた。

「おじちゃん?」

「聖女様、聖女様、本当にありがとうございます。もう助からないからと、ずっと放置されていた。頑固で口喧しい男ですが、それでも俺のたった一人の親父。足の指が無くなろうと、生きてくれたことが嬉しい。本当に、本当に、ありがとうございます」


頭を床に擦りつけ、もういいからと言っても、泣きながらお礼を言われ続けた。

「おじちゃん、おじちゃんのお父さんが元気になるかどうかは、これからだよ?栄養が全く足りていないから、食事が出来るようにならないと、起き上がることもできない。だからね、食料の管理はしっかりして欲しい」

そう、本当にこれから。

食料の奪い合いなどが起これば、見捨てられるのは弱者だ。


「みんなで見張りを立てて、管理します」

「うん。それはまた母さんに相談してね」

母さんは、しっかりと頷いた。


「今はうちの村の者が管理しているから大丈夫。ここにいる方の治療を始めましょう」

そうだね。まずは、みんな食事ができるところまでは、良くなって欲しい。

「残りの7人も、同じようにやっていくね」

リバースしていた他のおじちゃんたちも戻ってきたので、手分けして治療をしていく。


全員治癒をしたあとは、座り込むほどぐったりした。

母さんが同じように座って、頭を撫でてくれた。

「よく頑張ったわね」

えへへ

うん。頑張ったよ。この世界に生れ出てから一番頑張った!

母さんを堪能していたら、お腹が空いたと抗議された。


「食事を頂きに行きましょう」

「お腹空いたね」

さきほどの腹からの抗議は聞こえないふりをしてくれるようだ。どこかの淑女だったら間違いなく恥ずかしくて倒れるレベルの音だったけど、気にしない。

おじちゃんたちも、笑い堪えるぐらいなら、声に出してよね!


アマンダが食事を作っていた場所に行けば、ちょうど村の人には配り終えたみたいで自分たちの分を作っているところだった。


「あ、マリー、リセ、どうだった?」

食事をとりに来て食べている人もかなり痩せこけている。だから心配だったのだろう。

「何とか、大丈夫だったよ」


これであたしもカランキ村の人たちも大丈夫だったと伝わったはず。

ニッコリ笑えば、アマンダは強張っていた頬を緩めてくれた。

「そう、良かった。頑張ったマリーはたくさん食べて」


スープがもう少しでできるからと、先におにぎりを渡された。

村の人の手前、お塩を混ぜた簡単なおにぎり。

それでも色々と感じたものがあったのか、いつも以上に美味しかった。

少しだけ目尻が緩んで雫が流れたが、みんな見ないふりしてくれるので、美味しいとはしゃぎながら食べた。

みんなが優しい。


おにぎり2つと具たくさんスープを食べて、果実水ポーションで魔力回復もすれば、気持ちも落ち着く。そうなると気になるのが、ここにいない者の状況だ。

何をしでかすか、全く予想がつかない天馬がここにいない。

騒ぎになっていないので、大丈夫だとは思うけど・・・。


「おじさん、うちのシエロはどこに?」

みんなが一斉に目を逸らせた。

え、なに?どういうこと?!



次回「62.魔石と子供たち」


誤字報告ありがとうございます。


読んで頂き、ありがとうございました。

また出張の波に流されてて来ます。


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