59.殲滅
皆さん、台風は大丈夫ですか?
命大事に、しっかりと対策をされてくださいね。
同じようにファイアーストリームを3発打ち、犇めくビックマウスの群れに多少の隙間が出来た。
その隙にリュックを下ろして、果実水を出し、ごくごくと飲む。
魔力が満タンになったろころで、更に3発!
目に見えて数が減ったのが分かり、少しだけホッとする。
「グンミ、ミミ、ルコ魔力たりなくなったらここに果実水おいて置くから飲んで」
「「はーい」」
グンミ、ルコは以前あたしに見せたウォーターカッターで、ミミは凄い数の石を飛ばして、倒していた。精霊たちは流石だった。
カランキ村の人たちは、まあ・・・察しの通り腰を抜かしたままだ。
日頃から魔獣も害虫も出ない場所なら、見慣れないだけじゃなく、戦い何て出来ないのは仕方ないのかもしれない。
村の人たちは結界に阻まれてこちらに1匹も魔獣が入ってこないからか、戦いなれているのか、意外にも冷静に戦っていた。
これが経験値というやつなのかな?
だけど数が多すぎる。殲滅するまで、どれだけ時間がかかるかわからない。
他の村の人にも飲んで体力回復してもらったほうがいい。
コップに果実水を入れて、一人一人に配った。
「お代わりがいる人は、ここから飲んで!」
口から大きく空気を吸い込み、腹の底から叫んでみんなに知らせた。
「おお、マリーありがとうな。もうひと頑張りだ」
うん。あたしももうひと頑張り。
「シエロ、あたしを乗せて上に飛んで」
「いいよ。上から殲滅する?」
「シエロ、あたし殲滅できるほど、魔力足りない・・・」
「マリー、魔力の使い方がまだまだだね。魔力はイメージだと知っているよね?だったら僕の使い方を知っているはずだ」
あたしを乗せ真上に飛んでいきながら、シエロは諭すように言う。
シエロの使い方?
シエロのスキル構成は『飛行』『転移』『神託』『神気』『裁き』
この中のスキルで殲滅?
となると、『裁き』しか考えられないけど、話の通じない相手に、どうやって裁きを受けさせるわけ?
考えろ、考えるんだ。
シエロが言うなら、確実に名目があれば出来るといことだ。
「えーと、暴走している魔獣が疫病をまき散らしているのは、有罪?」
「中々いい目の付け所かな。今回はみんなに余裕がないし、時間がないから答えを出すよ。スキル名を唱えて」
「裁き」
「誰に?」
「ビックマウス」
「罪名は?」
「暴走して、人間に疫病をもたらせた罪」
「それじゃあ、ちょっと弱いかな。でもまあ、いいかぁ」
『ビックマウス、そなたらは聖女に害をなす存在。裁きを受けよ』
え、人間だとだめで、なんであたしならOKなわけ?
おかしいでしょ、おかしいよね?
空から、え、晴れた空から?
突然雷が鳴り響き、辺り一面に落ちた。
それはもう、ファイアーストリームどころの威力ではありません。言葉の通り、殲滅です。
目の奥が痛くなるほどの光と鼓膜が破れそうなほどの爆音。
知らない人が見れば、世の末がやってきたと勘違いしそうだ。
はああああああぁあっ。
もう、この事態を理解したくない。
なんでこう、常識を知らない奴らばかりあたしのところに来るわけ?
助かっているけど。助かっている以上に気苦労が多いと愚痴りたくなるのは、ものすご―――――く認めたくないけど、幸せなことなんだろうね。
あれだけの群れを傷一つ負うことなく立っていられる、それが事実。
ああ。説明しないまま、やっちゃった・・・。
――というか、あたしでもこうなること知らなかったし!
みんな大丈夫かな?
・・・大丈夫じゃないね。
結界に中にいても、仲間が出した光と音は防げない。目や耳を押さえて蹲っている人が殆どだ。
ごめんなさい。
下に降りたら、土下座で済めばいいな・・・。
その前に、当たりを見渡す。カランキ村までどれぐらいの距離だろうか。
見渡す限りプスプスと地面が焦げている跡しか見えない。
ビックマウスの影も形も見えないとか、どれだけの威力よ。
目を凝らして向かっていた方向を見ると、レンガの瓦礫が見える。
あそこかな?距離にして2・3キロぐらい先?
瓦礫の周りでも煙が経っているのを見ると、村の中にまでビックマウスは侵入していたのかもしれない。まさに危機一髪!
これは早くカランキ村に行ってあげたほうがいい。
辺りの様子を見ると死体が残っていないとは思うけれど、残っていた場合新たな感染源になる場合がある。早く燃やして浄化をかけて行かないと、体力がない人にはさらに大変なことになる。
「母さん!大丈夫?おじちゃんたちも!」
「マリー、言っておいてくれよ」
「ご、ごめんなさい。だけど、あたしも知らなかったのっ!シエロの『裁き』はヤバイぃい」
村の人たちは頭を振りながら地面に座る。
ふっふーん僕偉いもんね、とばかりに鼻高々なシエロを見て、仕方なさそうに溜息をついた。
分かって頂き、なによりである。
「あ、それより、カランキ村にもビックマウスが押し寄せていたみたい。瓦礫の中までプスプスいってる」
その言葉に青ざめたのはカランキ村の人たち。
「あ、とりあえず魔獣は全部消えてるはず。だけど状況が分からないから、急いだほうがいいかも」
先ほどまで腰が抜けていた人たちだったが、勢いよく立ち上がって村に向かって走り始めた。
それを合図に村の人たちも立ち上がった。
まだ荷台にいる男たちを見る。
いつまでこの状態なのか、いくら何でも起きなさすぎじゃない?
こいつら邪魔。
みんなの認識が一致しているが、流石にここに放置しておくのは問題。仕方ないので、魔道具を発動させ動かすことにした。
「これなら二人いれば動かせる。他の者は先に村へ行ってくれて構わない」
そういえばそんな仕組みがあったことを思い出した。
納得である。
おじさんたち4人に荷馬車2台を任せて、荷馬車に母さんを含む大人4人とシエロにあたしとエディが乗って、カランキ村に向かって出発した。
うん、出発した。
で、着いた。
先にカランキ村に走っていった村の人を見ることなく。
「シエロ!転移するなら言ってよ。びっくりするでしょ!」
何の為にシエロにあたしとエディが乗ったのか。
荷車も多分一緒にできたはずだ。面倒な者は後から来させたいのはわかるけど、カランキ村の人たちは流石に一緒に連れてきてあげたかったかも。
あ、息を切らしながらも、着いた。この世界の人はやっぱり身体能力高いね。2・3㎞を5分で走るって、オリンピック選手も真っ青だよ。
そんなことより、けが人がいないか確認しなきゃ。
すぐに母さんたちが荷馬車から出てきて、村の状況を確認に行く。
エディは先に壊れた外壁を作るといって、ミミと一緒に作り始めた。
あたしといえば、息を切らしているカランキ村の人たちにコップを差し出し、体力回復をさせるために果実水を飲ませた。
「おじちゃんたち、これ飲んで体力回復したら村を案内して。ケガ人を見るから」
勢いよくごくごくと4人とも飲むと、すぐに立ちあがる。
「あ、聖女様!こんな施しを、ありがとうございます!!」
う、わあああぁ・・・、それ止めて。
頭を抱えて座り込みそうになるのを必死に耐え、足腰に力を入れて地面に立つ。
必死の仁王立ち。
それを面白そうに見ているシエロが気に入らない。が、あえて無視だ。
「そんなことより、早く案内して!」
「「お願いします!」」
だから・・・子供に敬語って、ほんと止めて。
何事かと様子を見に来たカランキ村の人たちの視線に耐えながら、病人が集められている場所に向かった。
いたたまれない。
誤字・脱字報告ありがとうございます。
ノートパソコンのカーソルキーで、いつの間にか消しちゃってるとか、打ち方が悪いのかな?
次回「60.カランキ村の現状」
読んで頂き、ありがとうございました。