58.茶番と魔獣退治
ご飯を食べて後片付けが終る頃にも、気を失ったおじさんたちは起きない。
色々と考えるのも面倒になってきた。チートな天馬、精霊のことが全部バレているなら、荷物全部あたしが運んじゃうよ?
その代わり、このおじさんたちを運んでもらわないといけないけどね。
8人中4人が小悪党。荷馬車に4人を乗せて4人で引っ張る。
これは無理がある。
母さんにどうするの?って目で訴えかけてみた。必殺上目遣いなんて、母さんには効かないからしないよ。
「このまま時間をかけるよりは、早く『カランキ村』に行きましょう」
隣村、隣村の奴らとしかみんな言わないから初めて知った。隣村は「カランキ村」というのか。
村のことをもうちょっと知りたいと思ったけれど、急ぐというので荷車の荷物を荷馬車に詰め込んで、残りの人で空いた荷車に男たちを乗せた。
もちろん荷車に乗せたように見せかけて、リュックにしまった。
流石に野菜20箱は乗らない。
この時点で物理的におかしいとはみんな思っているけど、声に出して聞かれないだけ有難い。
――って、なんでカランキ村の人に拝まれてるの?!
ああ、びっくりしたシエロをだよね?
うん、きっとそうだ。
カランキ村の人たちの聖女だの、まだ幼いからそれなら幼聖じゃないかだの、ボソボソという声は聞こえない。
心臓に悪いったらありゃしない。荷馬車に素早く乗り込んでしまおう。
くすくすと笑いながら、アマンダが入ってきた。
「マリー、凄いことになってるわね」
「・・・あれって、なにがあったの?」
「ん?あれって、マリーを拝んでること?」
改めて言われるとちょっと、引く。
あたしはむくれて口を尖らせた。
「ごめん、ごめん。それはね、「マリー、マリーが聖女って本当か?!」」
荷馬車にかけ込んできたエディに、アマンダの声はかき消された。
んなぁっ。
あたしは大きく口を開け、信じられなことを言うエディを見た。
「シエロが言ってた。我は神の御使いシエロである。15歳で覚醒されるはずの聖女の力を幼き子が持っている。これこそが奇跡である。って、本当か?」
なんだって?!
シエロ、なんてことをしてくれちゃってるわけ?
これをあたしが肯定したら、確定じゃん。だからといって、神の御使いとまで名乗ったシエロの言葉を否定はできない。
―――なんて、酷い話だ。
誰だこんな茶番劇を描いた奴。
頭が痛い。
ある程度バレているのだから、ここで誤魔化しても仕方ない。
となれば、堂々と力を行使した方が楽かな。
父さんには凄く心配かけちゃうけど。
「シエロがいうには、そうみたい。だからといって、「すげー、マリーカッコいいな。流石俺の妹!」」
言い訳みたいに白状するあたしの声を遮って、エディは肯定してくれた。カッコいいとまで言ってくれる。いつも単純肉バカなんて思っててごめん。とってもいいお兄ちゃんだった。
「変な妹だなんて、言わないの?」
「マリーが変なのって、いつものことじゃん!」
あっそ。心の中で謝って褒めたのに、エディはどこまでもエディだった。
でも、まあ、ありがとう、エディ。
ホッとして顔が緩々だったのか、アマンダがほっぺをつついてくるので、その手を叩いておいた。
この旅でアマンダの印象が凄く変わったよ。油断ならない人だって。
正直アマンダが罠にかけたのかと疑ってしまうぐらいには。
そんなわけないのにね?
アマンダがニヤリと笑った。
あ、これは突っ込んではダメな奴だ。母さんと同じ匂いがする。
仕方ないので誤魔化すように愛想笑いをしておいた。
話を変えたくて、気になっていた隣村、カランキ村のことを聞いた。
穏やかな丘と丘に囲まれた盆地にある村で、山からの豊かな水が流れ込むので貯水池を設けることも出来、開墾や村を作るのに最適な場所だそうだ。
しかも魔素が少なく平地しかない為、魔獣もいないし、隠れる場所がないので害獣も出ないらしい。
それは普通に暮らすにはいいかもしれないけれど、人力だよりの村だ。大変だったろうな。
これが普通の村なら、魔改造だらけの今の村、異界に近い?
行ってみてから、確認すればいいか。
「だけど、丘の森に異変が起きて水が流れてこなくなり、野菜が小麦が育ちにくくなってきた。その上小さい魔獣がやってくるようになった。それから疫病が流行り始め、退治もままならなしし、益々困窮していったみたいよ」
それは、踏んだり蹴ったりだね。
村長がちゃんと備蓄していたら、もう少しはましだったと思う。
問答無用で倉庫建てて、村長じゃない人が管理できるように出来ればいいな。
ぼんやりとそんなことを考えていたが、カランキ村の現状はそんなものではなかったことを、このあと知ることになる。
もうそろそろお昼かな?それとも着くかな?というころ、それは起こった。
「魔獣だ!」
その声に、緊張が走る。
アマンダは短剣を握りしめ、エディはミミと一緒に作ったミスリルの剣に手を掛けた。
「こんな大きなのは、今まで出たことがなかったのに・・・」
結界石が効いているので、魔獣を目の前に怖いかもしれないが、襲われることはない。
全体の動きが止まったので、荷馬車から出てみた。
魔獣と呼ばれたものを見た。
村で見たことのある魔獣よりも小さいが、確かにこの魔獣なら疫病をもってそうだと思う。
ビッグマウス。
それが数匹どころか、数百はいるだろうと思える大群が見えた。
紅く光らせ鋭い歯をむき出しにして、エサを見つけたとばかりにこちらに向かって来た。
腰を抜かして動けないカランキ村の人たちを、村のおじさん達があたしの近くに引き摺ってきた。
「マリーちゃん、頼んだ」
え、あたしも戦いたい。
「マリー、ここから動いてはダメよ」
母さんがやって来て、釘をさす。
しかもあたしの横で弓を弾き始めてしまっては、動けなくなった。
結界の中からなら傷一つつけることなく、戦えるというのに。
逆にテーレのこの強化結界なら、ビックマウスぐらい弾き飛ばすのではないかと思う。
母さんを見るけれど、意見を変えそうにない。
仕方ない。ここから出来ることといえば、木がない方に向いて火を放つこと。
「いっくよ!ファイアストリーム!!」
1m幅でビックマウスがいるところまでのイメージで放ったら、どう見ても200m以上先まで火が伸びた。そして出来たラインがすぐに埋まる。
どれだけいるの!
母さんも唖然としている。
「これは悠長なこと言ってられないわね。マリー先ほどのをどれだけ撃てる?」
「多分、10発はいける。果実水持ってきてるし」
「無理はしない。約束よ!」
「うん、わかった!ここからは極力動かないから」
マリー初の魔獣退治が始まった。
次回「59.殲滅」
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