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55.マリー感傷に浸る

ということで、早速母さんに一度戻ることを伝えた。

勝手に行動しない良い子なのだ、あたしは。


「そうね。果物は精霊達も食べるし、なにかあった時の為にもっとあってもいいわね。そのバックに入れておけば、腐らないのでしょ?」

「うん」

「だからこの際だからセレサもポムも入れておけばいいわ」


母さんの了解を得たあたしは、小屋の中でシエロに跨った。

「果樹園にGO」


って、もう果樹園だ。

シエロ、本当に壊れた性能だね。これこそ、チートってやつだね。

流石神の御使い。


「ねえ、食べていい?」

今はタダの食いしん坊だけど。


「どうぞ」

了承すればあっという間に飛んで行った。

あたしは地道に収穫しようとテクテクと歩いていると、森の精たちがフワフワと飛んできた。


「どうしたの?」

「禊、おわったー」


バタバタしていて忘れていたけど、水の精が森の精の力も借りて、黒助を禊の儀式をしていたんだっけ。

氷の塊があった場所に目を向ければ氷の層は薄くなっていて、ぼんやりと中に何かが入っているようにしか見えない。

あれが溶け切った時に終了なのかな?

「水の精は?」

「泉の中で眠ってる」


精霊の泉に浸っているのなら、安心だ。英気を養って欲しい。

気になるのは、黒助がどう変わっているのかだ。


「マリー、果物いるー?」

相変わらずのほほんとした話し方の森の精に、微笑まずにはいられない。


「沢山欲しいな。ポムとセレサ、マンダリンの3種類があると嬉しい」

「いいよー」


集まっていた森の精がそれぞれに飛んでいく。

月と星の灯りの中、薄紅・桜色・シクラメン・ローズといったピンク系の綿毛が飛ぶ様子は、風流でいい。お酒が飲める年齢なら、このままその様子を酒のつまみにして、ずっと見ていられるのに。

残念ながら酒も飲めないし、何かをやらかしたら雷が落ちる子供となれば、袋一杯になったら戻るしかない。


早く自分で責任がとれる大人になりたい。



――けど、今の甘やかされる立場を手放すのは、勿体ない気もする。

子供だからと笑って失敗を許される年齢はこの世界では短い。

悪いことは悪いと叱ってもらえて、良いことは良いのだと褒めてもらえるのは幸せなことだ。

大人になれば誰も叱ってもらえないし(上司の八つ当たりはある)、出来ることが当たり前だから褒められることがないから、自画自賛をして前に進むしかない。それを身をもって体感してきた。


だからこそ、前の(前世)のアラフォーだった思考回路と子供の単純な思考に振り回されている。

多分だけど、良い意味でも悪い意味でも、前世の知識が邪魔してるんだろうね。

守りたい人、嫌われたくない人が増えるたびに、極端になる気がするよ。


―――それに聖女なんて、面倒。

誰だそれ?って笑ちゃう。


ぼんやりと感傷に浸っていた時間は僅か。「袋一杯」と頭に乗ってポンポンと跳ねる森の精に、意識を引き戻された。

はい、はい。

「ありがとうね」


お礼を言うと森の精は、「頑張ったんだよー」と報告するかのように、母なるサクレに飛んで行った。

サクレが枝を揺らして、それに応えていた。

サクレにピンクの森の精がふわふわ・・・。


やっぱり、日本酒飲みたい。

この世界に来て夜に一人になることなんて今まで一度もなかったから、こんな気分になるのかも。

さあ、意識を切り替えよう。


「シエロ、いい加減戻って来て」

何処に食べに行ったのかわからないけれど、あちこち飛んでいたのは見えたから、十分なほど食べたはずだ。


「美味しかった!」

口の周りを果実でベタベタにしていたので、取りあえず拭いてやる。

どこの子供だ。って、今は子供なのか?

まあいいや。


家の中に入ってすぐに明かりをつけて、机の引き出しに入れていた結界石を3つほどとり、ハンカチに包んでリュックのポケットに入れた。

そのまま台所に行き、ストックとして置いてある小樽を次々と入れる。

これは醤油。これは焼き肉のたれ、重たいのは味噌。念のため砂糖と塩、胡椒。干した茸。

これでバッチリ!

明かりを消して家から出ようと思ったが、目の端に布の切れ端が映った。

切れ端かぁ。

最悪を考えたくはないが、もしもの時の為にタオルと布の端切れを掴んでリュックに入れた。


夜営場所に戻る前に、もう一度果樹園に行く。

「水の精、森の精、お疲れ様でした。黒助をお願い。サクレ、村を父さんたちをよろしくね」


任せて!と言わんばかりに、大きく枝がしなり揺れるサクレに手を振る。

「シエロ、戻って」


小屋に戻るとホッとしたような顔の母さんが目の前にいた。

やっぱり一人で帰らせたことが心配だったんだ。胸の中が温かい。

照れくささを感じながら、母さんに抱きついてみた。

ああ、母さんの匂い。一人じゃないって思える。

無条件で甘えられる子供って、やっぱりいいかも。


「戻ったよ」

「お帰り。何事もなかった?」

「うん。こっちは何かあったの?」


何となく母さんのニュアンスが、そう言っているように聞こえる。

「まあ、予想通りよ。水を寄こせだの、果物を寄こせだの、本当に面倒だ事」

「シエロちゃんを見たいとやって来た人もいたから、追い返したのよ。女性の部屋を夜に訪ねるとか、マナー違反だって言ってね」


まあ、予想の範疇だね。無理やり入ってこようとした人は母さんの結界に阻まれて、弾き飛ばされたそうだ。まさかそんなものがあるとは思っていないから、母さんの魔法で飛ばされたと隣村の人は思ったらしい。

魔法を人に放つなどと!と一人でプンプンして出ていったとアマンダが可笑しく言う。

「だってね。足が震えてるのよ。小鹿のようになりながら悪態をついても、何も怖くない」


張り切ってこの旅に付いていくといったぐらいだ。元々アマンダは母さんタイプの人間なんだろう。次に来たら私が飛ばす!と鼻息荒い。

頑張れ、アマンダの未来の旦那さん!


一応アマンダには何かあってはいけないからと、リュックのポケットに入れていた結界石の一つを手渡した。

「念のため、これを身に着けていて」

「これって、結界石?」

「そうだよ。隣村の人から見えないように服の下に、首からぶら下げて身に着けておいて」


目を真ん丸にしているアマンダが何を言う前に、母さんも話を続ける。

「そうよ。大事な嫁入り前の娘さんを預かっているのだから、これぐらいは当然だわ」


有無を言わさず、母さんはアマンダの首へと掛けた。

他の人に見られたら大変とばかりに、早く見えないように仕舞ってと二人がかりでいえば、反射的にアマンダは服の下にしまった。


これが結果的にこの行為がアマンダを、村を守ることになった。

隣村の村長一派は、本当にろくでもない男たちばかりだった。


それは、夜中に起こった。



次回「事件勃発」


読んで頂き、ありがとうございました。


作中に「サクレ」と何故か「サクヤ」が混ざっていたようです。

気が付いたものは直しました。「サクレ」が正解です。

教えていただいた方、ありがとうございました。

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