52.マリー隣村のことを知る
「母さん、持っていく物揃えたよ」
「じゃあ、準備は出来たわね。ところで卵たちはどうするの?」
「グンミに見てもらっておこうかと思う」
「そうね。持って歩いて割れたら・・・」
母さんとの会話を聞いていたシエロが、不思議そうな顔をしている。
「マリー、背中のカバンに入れないの?」
リュックに入れる?
「生き物って普通マジックバックには入らないんじゃないの?」
「まあ、普通ならね。これは神特製のマジックバッグだから、生まれてこない限り問題ないよ。しかも使用者権限がマリーだけになっているから、誰かが触ることも出来ないし」
分かってはいたけれど、改めて説明されると凄い性能だ。
まるでPRGゲームで活躍するアイテムボックスそのもの。
魔法や精霊がいる時点で、たしかにファンタジーなこの世界では科学では解明できない。
そんなものだと理解した方が早い。
しかも神がいる世界なら、摩訶不思議が普通だということだ。
ほいほいと貰っていいものじゃない気がする。
だけどシャンスにそっくりなふさふさで可愛いこのリュックを、とても気に入っているから返すつもりはない。ここは子供らしく「ありがとう」でいいよね?
「あ、それとマリーから5m離れたら勝手に手元に戻ってくるから、うっかりどこかに忘れることもないよ」
「凄い!神様大盤振る舞いだね!」
「有能な僕を遣わせたぐらいだからね。凄いに決まっている」
なんか噛み合ってない気もするけれど、実際シエロのスキルは凄いのは間違いない。
だから空気を呼んで、シエロが凄いと言っておく。
「そうだね。シエロ転移も出来るから凄いもんね」
シエロとの会話を聞いていたグンミが、キラキラと水色のボディを輝かせ、無意識に羽をフワフワと尻尾のように揺らしていた。
なんて可愛いのだろう!
ごめんね、あたしの都合でお留守番とか決めちゃって。もっと主張してもいいんだよ!
グンミを抱き寄せてウリウリと頬ずりをした。
「一緒に行こう!いいよね、母さん」
フリーズしている母さんを久しぶりに見た。何に驚いたのだろう。
ゆさゆさと揺さぶって覚醒させる。
「母さん、母さんってば!」
ブツブツと呟いている声を拾ってみる。
「転移、あの幻のスキルが・・・」
ああ、なるほど。確かに驚くよねあれは。本当に何が起こったのか、全くわからないまま転移していたのだから。そんなスキルのことを知らなければ、プチパニックを起こしてたね。
だけどそれ以上に驚くスキルを見たせいか、あたしの衝撃は少ない。裁きが使われることなく、平和に過ごせるのが一番。
「母さん、だからね。危なくなったらシエロと逃げることも出来るし、リュックも盗られることないから、グンミも連れていくよ?」
「あ、そうね。安全第一だから、リュックが盗られる心配もなく、マリーが逃げられるのならいいわ」
「グンミ!やったね。向こうで大活躍しようね」
母さんはまだボンヤリとしていたが、危険回避できるのなら問題ないと結論を出したようだ。
すぐにリュックに世界樹の種とアリア卵の籠と、二つの卵の籠を入れる。
これでよし。
戸締りも出来ているし、問題ないね。
ちなみにエディもあたしが隣村に行くことが決まった時点で同行が決まっている。スタンビートがいつ起こるかわからないので、土魔法で塀を作る予定なのだ。
今は隣村の人たちのところへ行って、藁を片づけている。
隣村の者8名が野菜の箱を荷車を運ぶことにし、こちらから行く者10名で肉と道中使う予定の水の樽1つを運ぶ予定だ。
そしてもう一つ、急遽箱仕立てにした荷車にあたしとエディ、そして母さんと同じようにお世話に行く予定のお姉さんアマンダが乗る。勿論それを引くのはシエロだ。
一つ目の門を開け隣村の人たちがいる場所まで行くと、あとは出発するだけになっていた。
遅いとブツブツ文句を垂れている不愛想な隣村の村長たちは放置して、他の人たちに元気よく挨拶をする。
隣村の者たちは明らかに小さいあたしをみて、本当に連れていくのかと怪訝な顔をしたが、肩にいるグンミと箱型荷車にシエロを繋ぐと納得の顔を見せた。
水の精が貴重な水を出せることと、浄化できることを知っているので、水の精の使い手が来てもらえるのは嬉しいようだ。
「嬢ちゃん、小さいがよろしく頼むよ」
「任せておいて!」
馬がいるなら俺たちの荷車を引いてくれよ、という言葉は聞こえない。
「シエロ、お願いね」
「仕方ないな~」
そう言いながらも頼られることは嬉しいのか、尻尾がびっくりするぐらい揺れていた。
なんとも可愛い天馬である。
シエロの頭と首を撫でまわしている間に、他の人の準備も整ったようで出立の合図が出た。
急いで荷台の箱の中に入る。
「さあ、行くぞ!」
先頭の荷車は隣村の人たち。
真ん中にあたしたち子供の箱型荷車。
そして最後が村の人たちだ。
隣村の人たちが先頭なのにはわけがある。村長たちが中抜きをしないように、見張る為だ。
なんでそんなことを?というと思う。これには隣村ならではの理由があった。
隣村はどうやら先代領主の肝いりで作られた村で、その時の村長は先代領主の末息子。一緒に付いて来た者も、農民の次男や三男が多くこれが成功しなければ、戻る家もない。そんな背水の陣とばかりに開墾を頑張った者ばかりだった。
なんとか飢えをしのびながら5年かけ、何とか村として成り立つようになった。先代領主の末息子が正式に村長となった。
先代村長は人格者であったが、その後に継いだ息子が甘やかされて育ち、横暴になった。
自分たちが裕福に暮らすために、税と言って半分以上の物を収めさせるようになったのだ。
始めは抗議していたが何とか生活も出来ていた為、仕方ないと諦めたのが間違いだった。
本当に税金を納めなくてはならなくなった時には、その税金分が足りなくて更に徴収するようになる。
少しずつ手元に残る物が減っていく。それでも豊作の時は良かった。少し収穫量が減っても森へ行けば食料が手に入る。その為飢えることがなかったのだが、森に魔獣が増え中に入れなくなると、その生活は完全に詰んだ。
その上、疫病だ。にっちもさっちもいかず、領主に泣きついたが、街でも疫病が流行り薬もないし、商人が行商に来たがらなくなり、物資も滞ってしまった。
最後の手段とばかりにやってきた村が栄えているのを見て、たかれると思ったそうだ。
そんなことを一緒に乗っていたアマンダに教えてもらった。
アマンダって凄いよね。食事の用意をしながらそんなこと聞きだしてるなんて。
村長を外せない理由が分かった。追い出せばいいじゃん。と思っていたあたしは、苦笑いだ。
今回援助をあまりやり過ぎると、街からも援助を求められるということだ。
援助だけだと良いが、領主によっては武力で吸収しようとするだろう。
出来ることがあるのに、政治で出来ないことが多くなるのは世の常なのか。
世知辛いね。
――だけど、あたしには関係ない。
村長にばれなければいいよね?
次回「もふもふ成分が足りない・・・」
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