50.馬が言うには
誤字報告、ありがとうございます。
あの怪しい斑模様の青色の卵から生まれてきた馬。本人は神の御使いの天馬だという。
まあ、背に羽があるから天馬というのは、間違いないと思う。だけどふざけながらあたしの卵から出てきたのは、納得できない。
これからしっかりと説明をしてもらおうじゃないの!
「さあ、説明してもらおうじゃないの」
「神託を・・・」
「そんなのは、今はどうでもいい。どうして、今頃神託なのかっ!ってこと。もっと早くてもよかったよね?いろいろ巻き込んでおいて、今更なんだけど」
「それは・・・」
「ハッキリしなさい!色々振り回されて苛立ってるのっ!」
「は、はいっ!順を追って説明させて頂きます。ただ、その・・・言い訳に聞こえると思いますが、マリー嬢の前世の記憶の覚醒は、本当ならば15歳の成人の儀のはずでした。その時に聖女として神託の予定だったんです。それまでは普通の幼女として、サクヤを育て森を少しずつ浄化しているはずでした。二番目にスキルを行使した時も、普通のペットとして慈しみ育てられる者が生まれるはずだったのです」
「じゃあ、なんで」
「はい。5歳という幼女でありながらも思考回路は完全に大人。想像力を活かし、様々な植物を生み出すことで森の精が活性化し、それに反応するように水の精が現れ精霊の泉まで村に行き渡らせた。もう完全にこれだけで村は聖域と呼ばれてもおかしくない場所になったのです」
「ああ・・・」
「それからも火の精、地の精たちが集えば、そこに必然が生まれる」
「・・・・・・」
「色んな事が前倒しになり、神たちも慌てました。どのように導いていくのか方針が定まらないまま、どんどんと状況が変わっていきます。本来ならば普通に天馬として現れる予定でした。ですがここはもう一刻の猶予もないと判断され、僕、いえ私がやってきました」
あははははっ。
笑うしかないね。
まあ、ちょっとわからないでもないかも。
どうしてこうなった?と自分でも思ってたから。
予想外ばかり、ってつらいね。
「じゃあ、やっぱり黒助は・・・」
「想像の通りかと」
「ですよねー」
色々と諦めた。
まあ、ここまで来たらやりたいことをやるしかない。
やれることをやるよ。
「で、神託って」
「あ、はい。ダンジョンを攻略して魔力の安定に尽力を。魔力の安定がなされれば、この辺りの流行り病は自然と消えていくだろう。とのことです」
「まあ、予想通りかな。OKです」
「では、わたくしはこれで・・・」
家を飛び出そうとしている馬の尻尾を引っ張った。
何をこの馬は言っているのか。
「卵から生まれた馬なんだから、あたしの為に働くのが筋よね?」
「あ、いえ、それは」
「つべこべ言わずに、働いてもらうわよ。卵1つ使ったせいで、あたしの馬がいないの。わかるわよね?」
あ、名前つけなきゃ。
一応御使いというのだからちゃんとした名前を付けたほうがいいわよね。
「あなたの名前はシエロ。よろしくね」
「・・・シエロ。ああ、もう仕方ないなぁ。ちゃんと毛づくろいとかしてよね」
なるほど、ツンデレさんでしたか。
多分この感じが本当のシエロなんだろうね。
よく見れば神々しいばかりに銀色に輝く毛並みに、幼さが残こる顔つきながらも、横顔はキリっとしてて血統の良さがにじみ出ている。
馬として働いてもらうと決めたけど、面倒な人が居そうな場所は避けなきゃね。
最悪はシャンスとセットにしておけば、誰も盗もうとかしないと思うけど。
「あ、それから色んなお詫びもかねて、神様からこれ預かってるよ」
渡されたのは子供用の可愛いリュックサック。
白い耳と尻尾がついているだけでなく、ふさふさの綿毛で覆われている。めちゃくちゃ可愛い。
どこかシャンスをデフォルメしたような感じに、テンションがアゲアゲである。
あのもふもふがいなくて寂しいのを思い出して、リュックサックをぎゅっと抱きしめた。
やっぱりもふもふは正義。
によによしていたら、シエロが呆れたような声で説明を始めた。
「それ、マジックアイテムだから、沢山物入るから」
「マジックアイテム!」
いきなり大きな声を出したあたしに、シエロがビクッとしながら頷く。
「色々と黒助殿とか、(空とかこれから)迷惑をかけているから、と」
これだけで今日の怒りが溶けてしまった。
チョロインとか言われてもいい。
やっぱり心躍るよね。
可愛いだけじゃなく、たくさん入る収納袋。
これは早速活用しない手はない。
誰のためのご都合主義?なんて怒っていたことも忘れ、どこまで入るのか試すことにした。
タンスにベッドにテーブルと手当たり次第に触れてみるけれど、全て入った。
これは凄い!
「マリー準備できたの?」
「あ、お母さん。馬が生まれたの。この子が荷車引っ張ってくれるよ」
「え、馬?」
じっとシエロを見ていた母さんは、またかという顔をした。
あ、やっぱりわかるよね。明らかに羽がある馬とか普通にいないし。
「名前はシエロだよ。細かいことはいいよね?」
「あ、それよりもこれ!マジックアイテム。もらったの。これで沢山果物とか、米とか持っていけるよ」
母さんは先ほど仕舞ったテーブルやベッドを次々にリュックから出しているのを、目を見開いたまま見ていた。
「そうね。とりあえず入るなら入れておきましょう」
流石、あたしの母さん!
「村の倉庫に行きましょう」
「はーい。シエロも一緒に来てね」
どこか嬉しそうにしながらも、仕方なさそうに付いてくるシエロ。
こんな変な天馬が御使いって、大丈夫なのかな?
あ、そういえば、シエロの特技というかステイタス見てなかった。
シエロ 天馬・・・神の御使い
『飛行』『転移』『神託』『神気』『裁き』
見るんじゃなかった。
本来馬として扱っていい子じゃないことだけは、しっかりと理解した。
後でしっかりとブラッシングをしてあげよう。
【シエロの呟き】
『僕はまた神様に遊ばれた・・・。聖女となるマリーに初めて会うのに、これは酷い。
あのセリフを言いながら登場するのは鉄板で、絶対に受けて好感度が上がるっていうから、頑張って言ったのに。
物凄いドン引きされた上に、可哀そうな子、痛い子のように見られて、もうここには居られないと思った。
――だけど、シエロって名前付けて貰えた。僕はこれで世界に認められる。
ずっと憧れていた外界で、色んな空を見てみたい。楽しみだ』
【神のつぶやき】
あれが受けんかったのか。何故じゃ。
アラフォーというからには、絶対に知っておるはず。
ウムっ。
次の神託の時は、また名セリフを考えねばならぬな。
読んで頂き、ありがとうございました。
ということで、シエロはある意味被害者でした。