46.スキル『ガチャ卵』 炸裂
ご飯を食べた後は、フェンリルの長と家族全員で黒助のことと見た夢の話をした。
父さんと母さんは、苦虫を噛み潰したような顔をした。エディでさえも、口を堅く結ぶ。
きっと何故娘・妹だけがこんなことに巻き込まれるのかと、心を痛めてくれている。
それだけでも、救われる。
フェンリルの長は黒助に視線を投げ、すぐにあたしに戻した。
大きな溜息と共に。
フェンリルでも溜息なんてつくんだ、なんて呑気なことを思ったが、長はバリトンボイスを少し低くした。
「黒助殿、ひねくれるのも大概にしておくのだ。マリーに予知を伝えるのは良い。だが、一言危ないから体制を整えていくべきだ、と言えば済む話を、精神性を高めてその判断をさせるのは間違っている。体はまだ7歳ということを、忘れてはならない。大事なものを失うことの喪失感は、知っておろう」
フェンリルの長は謎獣のことを知っていた?
旧知の知り合いのような物言いに、凄く違和感がある。
もしかして世界樹の巫女大精霊のように、生まれる先を卵に託されただけの、世界に必要不可欠な存在?
まだ確定できていないが、『予知』さんがお仕事をしていらっしゃるようで、ほぼ肯定されている。
はあぁ。
なんなのよ。
あたしが溜息つきたいよ。
いや、溜息どころか、やさぐれたい。
勝手に卵を使わないでくれるかな。
あたしこの世界に生まれる時も、生まれた後も啓示を受けた覚えはない。なのに、勝手にプログラムに組み込まれたコマのようで、腹が立つ。
こうなったら、あたしだけのペットが欲しいと思って何が悪い。
世界が勝手にあたしを使おうとするなら、あたしだって使ってやる。
鼻息荒く決意して早速、発動。
3つぐらいあれば、可愛がるだけでいいもふもふが生まれるはず。
「スキル ガチャ卵・ガチャ卵・ガチャ卵」
あ、やりすぎた。
おやすみなさい。
目が覚めたらベッドの上だった。
やっちゃった・・・。
ちょっと大人げないとは思ったけれど、今は子供。
反省もしないし、後悔は一㎜もない!
世界樹の種と卵セットの籠とは別に、新たに作られた籠に卵が3つ並べられていた。
籠の中を覗くと綿が敷き詰められ、万全の体制になっている。
とても有難い。
さて今回の卵を観察する。
大きさは3つともダチョウの卵のような大きさで、とてもカラフル。
黄色の島縞模様の卵に、ピンクの島縞模様の卵。そして斑模様の青い卵。
島縞模様の2つの卵は表面はザラザラしていて、動物の卵らしさがある。
斑模様の青い卵はツルッとしていて光沢があり、光が反射すると眩しくなりそうな卵らしくない卵。怪しさ満点だけど、もう流石にネタ切れだと思いたい。
3つの卵を撫でながら魔力を少しだけ渡すと、ほんのりと温かさを伝えてくる。
おもわず、ほっこりする。
横で催促されるように光るアリア卵に、少しイラッとする。
仕方ないと魔力を渡すが、無遠慮に魔力を吸い上げようとするから油断ならない。
ホント!図々しいったらありゃしない。
テーレに徹底的に教育してもらわないと、3年も面倒見切れない。
一応建前ではあたしのガチャ卵なんだから、主人であるあたしに遠慮しろっ!
キッと睨むと光るのを止めた。
それでいい。
ああ、疲れた。
長に話聞いて貰ったから、たぶん洞窟を探してくれているはず。
あたしが今できることは魔力回復に努めることと、ささくれ立った心を鎮めることだ。
ここはヒンヤリとクールダウンかな。
グンミ召喚!
「マリー、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。グンミが抱き枕になってくれたら、大丈夫」
「そんなことでいいの?」
ああ、このピュアな心が眩しい!
「グンミはこのままでいてね!」
ギュッと抱きしめると水の精らしく、ヒンヤリとして気持ちいい。
それだけでなく、グンミからマイナスイオンが出ているみたいで、心が洗われていく。
これが浄化されるということなのかな・・・。
そんなことを思いながら、そのままゆっくりと眠りについた。
グンミ、ありがとう。
「グンミ、マリーは眠った?」
「眠ったよ。ちゃんと浄化も終わった」
「ありがとうな。突然暴走したようにスキルを行使し始めたから、驚いたよ」
「マリーは大人だけど、子供。アンバランスだから、隙間が出来る。そこに黒いのが入ったんだ」
「そうか。もう、大丈夫なんだな?」
「うん。大丈夫。だけど、念のため僕はここにいるよ。水は洞窟探索には向かないし」
「そうしてくれると、助かる」
「ホセは、洞窟探索頑張って。マリー起きたら気にするから」
「勿論だ。後でルコも来ると思うから、一緒に頼む」
「任せておいて!」
マリーが落ち着いたと聞いて、ホッとした。
マリーが魔力不足で眠りについた後、フェンリルの長から少しばかり黒助について教えてもらった。
黒助は無属性でありながら、僅かながら全部の属性を使うことが出来る。
その中の一つ、闇属性の精神干渉を使用した際、マリーが抱えていたストレスを刺激してしまい、闇を発生させてしまった。
そのストレス発散が、ガチャ卵だったということだった。
マリーが心の奥底に深い闇を持っていたら、それを増殖させてしまい大変なことになっていたと長は言う。過去それで戦争を始めた人間たちを多く見てきたらしい。
だが、マリーは心からこの世界を楽しむことを第一としている。
その為に、世界に関わらない自分だけのモノが欲しかったのだろうと言った。
なるほど。マリーの傍に居る者は、半分は世界に欲されている者たちだ。
優先順位が違う。
だからそんな時に臨んだ卵は、マリーを笑顔にするものが生まれるだろうと言った。
その物言いが孫娘に対して述べるようで、嬉しい。
今回は胃が痛くならずに、卵の誕生を待つことが出来るようだ。
さて、父としての役目を果たすために、マリーが眠っている間に洞窟を探すとしよう。
読んで頂き、ありがとうございました。
ストレスって怖いですね。
予定にない卵を生みだしてしまった。
どうするんだろ、これw
もふもふの為に、頑張るしかないw