40.森の異変
いやあ―――、中々スッキリしたよ。
自分の首をジワジワと絞めていくのをみて、どれだけドMなんだと思ったくらいだ。それぐらい今まで自分に逆らう人がいなかったのだろうね。
お山の大将とは、こういうことを言うのだろう。
さて、小難しいことは任せて、ここに足りないものを作っておこう。
『ソル』
『呼んだか?』
相変わらずイケメンな物言いの地の精だ。イケメンなもふもふを堪能しながら、話をしないとね。
『ここにね、トイレを作って。ただし魔石は使わないただのトイレ』
『穴開けて座るだけのを作ればいいか?』
『ソル、わかってるね』
『ソル、グンミ』
『なあに、僕にも仕事?』
『そうそう、仕事。ここにね、手洗い場を作りたいのだけど、ここまで水を引いてこれるかな?』
『引くのは簡単だが、村の中みたいに流した水の浄化もするということだよな?』
『魔道具作って大丈夫?』
『土の中に埋めてわからないようにしたい』
『まあ、出来るだろ』
『僕は普通の水を引き寄せてくればいいんだよね?』
『そう、お願いできる?』
『いいぞ(よ)』
ということで、念話を使った秘密会議は終わった。
これも報告しておかないと後が怖いので伝えようとしたが、父さんは他の相談役も含め交渉に入ってたので、母さんを召喚。
先ほどのことをコソコソと話す。
「確かに居るわね。勝手にあちらこちらと穴をあけられても困るから、作ってもいいでしょ。ただし!」
「わかってるよ。あたしはなにもしない。ソルとグンミが頑張る」
「それでいいわ」
満足そうにする母さんにホッとしながら、隣村の人たちの後姿を見た。
体力があるものが選ばれてここに来たのなら、隣村の状態は思っていた以上に酷いのかもしれない。衛生管理なんて考えたこともなさそうだし、水の精と契約している人がいかないと駄目かも。
それと取り決めたお肉と野菜だけではなく、すぐに食べられる栄養価の高い果物も必要だと思う。
シャンスが行くから必要なら収納からだせるし、そこは父さんが判断すればいいから問題ないね。
あ、そういえばシャンスは戻ってきたのかな?
気配を探ってみたけれど、この村にはない。狩りが楽しくなって遊んでいるのかな?
『シャンス――――!』
暫くして念話が返ってきた。
『マリー!森の様子がおかしい』
その声の後、シャンスから気配が途切れた。
『シャンス、シャンス!!』
フェンリルのシャンスが焦るほどのことって何?!
「テーレ、テーレは何処?!」
突然大声を出しだした子供に、周りの者はどうしたのだと目を向ける。
目立ちたくないとか言っている場合ではない。
「マリー?どうかしました?」
「シャンスから森の様子がおかしいと。その後連絡が付かない」
「まさか、森の様子が変わればドライアドの私にわからないことなど・・・」
気配を探っているテーレの邪魔をしないように、静かに見守る。
瞑っていた眼がカッと見開く。
「マリー魔力を貰ってもいい?種と卵に意識を移していたせいで、どうやら気づかなかったみたい。これは私の失態」
悔しさを滲ませて項垂れるテーレを抱きしめながら、ギリギリの魔力を渡す。
「テーレが悪いわけじゃない。今日通った森で異変が起こることがまずあり得ないの」
「落ち着いたら状況を教えて」
「異変が起きたのはあの洞窟の更に奥深い森。フェンリルたちがそれに対応しています。シャンスもそこに加わったようです。今はもう森は落ち着きを見せているので、大丈夫です」
「良かった。問題は解決したのね」
「ええ、ただ・・・」
「ただ、なに?」
「今後のこともあるから、ここに森の王フェンリルの長が話し合いに来たいと」
「「フェンリルの長?!」」
耳を澄ませていた母さんと一緒に叫んだ。
隣村のことも一段落もしていないうちから、森の異変。
これってもしかして、繋がってるのかな?
それとも単体?
どちらにしても魔力が関係していそうな気がする。
いつの間にやってきてたのか、謎獣の黒助が頭に乗ってポンポンと跳ねた。
ん?あれ?朝方映った映像が森の異変?
黒助を見るが、返答はない。
しゃべれるはずなのに、相変わらずしゃべらない黒助に焦れる。
契約で繋がっているから無理やり話させることは出来るけど、そんな関係上手く行くわけがない。今はまだその時じゃないと諦めた。
立て続けて起こっていることに関連付けるものは何もない。
一先ずシャンスが返ってくるのを待つしかない。
フェンリルの足なら戻ってくるのは一瞬だろう。
ただ待つのは、性に合わない。
「母さん、ご飯の準備気合入れてしなきゃ」
「え、ご飯?」
何言ってるのこの子という顔に、むくれる。確かにご飯にはうるさいけど!
「絶対にお腹減らして帰ってくるよシャンス。お肉がないと落ち込む」
「ああ、そうね」
森の異変が収まったからと、呑気に構えている母さんに必死になってもらいましょう。
「フェンリルの長を迎えるなら、食事の準備は大事だと思わない?」
早くそれを言いなさいよ!とばかりに、あたしを一瞥してそのまま村の中に走っていった。
一緒に聞いてたじゃない、とは大人なあたしは言わないよ。
「テーレ、村のことはまた話し合いで決まると思うから、優先順位を種と卵に戻して」
「それではマリーが」
「シャンスも戻ってくるし、あたしにはリュビもグンミもソルもいる。誰よりも安全でしょ?」
「だけど・・・」
「精霊たちにとって、また失ってしまってはいけないものでしょ?代えはないのだから」
「わかったわ。だけど覚えておいて。マリーだって私たちにとって唯一無二の存在だということを」
「・・・ありがと」
嬉しい言葉にやる気十分。
果実水飲んで、魔力補って、気合を入れるよ!
次回 「41.白いもふもふが村に沢山やってくるらしい」
読んでいただきありがとうございました。