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39.隣村の者たちとマリー (村人視点)

女性陣がご飯を作っているころ、門の外では先ほど外壁で頑張った男性陣が、雑魚寝が出来る家を作っていた。家と言っても箱型で屋根がついているだけの簡単なもので、10人ほど横になれば一杯になるぐらいの大きさだ。来ている奴らも8人だから問題ないだろう。

その中には食事が出来るように、大きなテーブルを1つ入れた。


「ここで今日は休んでくれ。あとで藁を持ってくるから寝る前にテーブルを外に出して、藁を敷いて寝てくれ」

唖然としている隣村の者を一瞥しながら、淡々と説明した。正直この者たちに長く関わっていたくなかったのだ。

隣村の村長は我に返り、いつものように余計なことを言う。


「客人をこんな物置のようなところに押し込めやがって、里が知れる」

だったら、この村に助けを呼ぶなよ。

「粗放ものなんでね。作法なんて知らないんだ。なんならこの家すぐに壊して村の外に出てもらってもいい」

「野たれ死ねというのかこの魔の森で。なんという恐ろしい者たちだ」


「物乞いをしに来た者たちが、なんて言い草だ。もしかして、隣村の者を騙った物取りなのか?」

「馬鹿にするのも程々にしろ!」

「物乞いでも物取りでもないなら、対価はなにだ?」


黙って俯いている他の男たちは、荷物持ちとして借出されただけの話し合いの余地ありで、村長と一緒に煽っている3人は取り巻きで、正直ここから排除したい者たちか。


本当に面倒な奴の相手をすることになった。俺の役割は家を作って簡単な説明をすることであって、交渉する役目じゃない。だから苛立つことをことを言われてもスルーすると決めていたのに、つい反論しちまった。

お前らが勝手に来たせいでこんなにもみんながバタバタしているというのに、村のことを悪く言われたらイラっとする。


だけど他にいる奴らも同じ気持ちだったらしく、よく言ってやったという顔でマリーの言うサムズアップをしているから、問題ない。

いや最近このポーズが流行っているから、ただ単にしたいだけという可能性もないわけではないが、まあそれはいい。

(本当にマリーは不思議なものを流行らせる)


ここで返事をしない奴らの相手をするほど暇じゃない。さっさと藁を運び込んだら飯にしたい。先ほどからめっちゃ旨そうな匂いが漂ってきて、腹が空いてしょうがない。

間違いなくスープの味付けはマリーだろう。同じような材料を使っているというのに、なんで味に差が出るのか不思議でならない。それぐらい旨いのだ。


そんな細かいことはいい。さあ、飯だ飯。

それは他の奴らも同じようで、お腹を押さえている。

「手っ取り早く、さっさと作業を済まようぜ」

「おー、そうだな。魔力使うと腹の減りも早い」

「全くだ」


何か言いたげな奴らを放っておいて、さっさと門の中に入り藁を積んでいる倉庫に向かう。

そのまま荷車に積めるだけ積み、また門の外に出て先ほど作った建物の中に放り込んだ。

これで俺たちの仕事は終了。


あのデカい猪肉を捌いているらしいから、ビールも絶対に旨いに決まっている。

想像しただけで涎が出てきた。

まずい、さらに腹が減った。


「飯の前に風呂だ。汗を流しておかないと女どもがうるさい」

「確かにな。でもまあ、風呂入ってからのビールの一杯が最高に旨いんだから、仕方ないな」

「仕方ない。仕方ない」

「それにマリーにへそ曲げられたら、旨い肉が食えない」

「言えてる。あいつチビの癖にこえーよ」

「旨い肉と旨い酒を人質に取られたら、謝るしかねー」


噂をすればなんとやら。

マリーの登場だ。


隣村の奴らに食べさせるおにぎりを持っているのか。

隣で付き添うようにスープや飲み水を運ぶのは父親のホセと母親のリタ。物理的にも敵なしの二人がいれば、何かあっても対処できるだろう。

それどころかマリーが動けば、最強の布陣を相手にすることになる。かわいい顔して精霊たちは容赦ないから、保護者の二人よりマリーに何かやらかした時には・・・。想像したくない。


「これはなんだ」

「おにぎり」

「だから、なんだ」

「米を炊いて味付けしたもの」

また文句言ってやがる。恵んでもらう食べ物に文句をつけるとか、本当に腹が立つ。


ほらみろ、リュビとかいう火の精の毛が逆立ってるじゃないか。

あれ、見えてないのか?

命知らずにもほどがある。


「敵対行動している人には姿みせないよ」

俺の相棒(土の精)からの言葉で納得いった。


「米?コマイよく似ているが、まさか家畜の餌じゃないだろうな」

「・・・聞いてたけど、本当にめんどくさい人。嫌ならあなただけ食べなければいいでしょ。食べ物を粗末にする人が一番信用できない」

「ガキがギャアギャアと囀りよって、話にならん」


「話にならないのはあなたよ、村長。気に入らなければ交渉しなければいい。昔あなたが言った言葉でしょ?覚えていないとは言いませんよね?」

「女子供は・・・」

「黙るのはあんただ。嫌ならここからで今すぐ帰れ。残った人と交渉する」


やっぱりそうなるよな。

どうなるのかと固唾をのんでいたが、そこはマリー。

買ったけんかをそのまま両親に渡して、その間に村長一派以外にグンミが浄化を掛けて身綺麗にする。


何が起こったのかわからない隣村の人たちに、そのままおにぎり握らせて齧り付かせて食べさせてみるとか、どこのやり手ばばあだ。


戸惑っていた者も一口食べて旨ければ、そのまま無言で齧り付いて食べきった。手についた1粒だって大事そうに全部。

無くなったのを寂しそうにしているところに、スープを配りおにぎりもさらに渡す。


皆がある程度食べて落ち着いたところで、村長が自分たちだけが食べていないことに気づいて慌て始めた。満足そうな顔をしている皆をみて、さきほどまでの怒鳴り声がトーンダウンしている。


そんなものを食わせるのかと啖呵を切った手前、食べたいと言えない。

奪って食べようにもホセとリセが見ている前では出来なくて、段々と項垂れて行った。


ざまあ。


心の中は一つだったに違いない。

マリーが目を爛々とさせ、口の端が上がってメッチャいい顔をしている。

きっと俺たちも同じ顔をしている自信がある。

みんなでサムズアップをして、その場を去った。


この後の交渉は完全にうまくいったに違いない。

さて、旨い飯の前に風呂だ!


次回「森の異変」


読んで頂き、ありがとうございました。

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