3.サクレの能力
不意に目が覚めて辺りを見回す。
部屋の中はまだ薄暗く、夜明け前だというのがわかる。隣のベッドでは、エディが寝息を立てていた。
ベッドから起きることなく気配を探ると、まだ母も父も寝ているようだ。
はて…?
いつの間に寝たのだろう。
夕ご飯食べた記憶もない。
ああ、あたしサクレに魔力吸い取られて気を失ったんだった。
魔力取られて、ご飯食べていないせいだろう。もの凄くお腹が空いた。
お腹が空いたことを認識してしまうと、猛烈に何か食べたい。何か台所に行ったらあるかな?
あるはず!行ってみようかとベッドを抜け出そうと思った時、小さな光を見つけた。
妖精?
あたしが光を見ていることに気が付いたのか、そのままゆっくりと飛んできた。
不思議と怖くない。それどころか、ホッとする優しく温かな光だ。
小さな手を伸ばすと、光は掌に乗った。
何かを訴えかけるように点滅し、わからないと首を傾げるとそのまま額に張り付いた。
ま、眩しい…。
え、え、えっ!
サクレの精ということは、ドライアド!
そうだとばかりに点滅する。
うひょー!
だから、眩しいって。
驚きよりも眩しさの方が勝って、変な声は表にでることなく心に仕舞われた。
ちょっとだけ、助かった。
ちょっと可笑しな子が、変人になるところだった。
あ、ごめん。
放っておかれたと思ったのか、光の点滅が抗議するように眩しさを増す。
名前?
サクレが名前じゃないの?
あ、それは木の名前か。
名前のセンスがないのは知っている。あたしの子第一号だし、可愛い子にはちゃんとつけたい。
「あなたのなまえは『テーレ』」
心で思ったことが伝わるなら、5歳児の口では上手くしゃべれないからこのまま伝えさせてもらう。
『大地っていう意味よ。前世で親不孝してしてしまったから、この世界の家族に孝行したい。あたしを、家族をそして村を守護する守り神になってくれたら嬉しい』
「わたしはテーレ。マリーと共に」
名前を告げた途端に卵誕生のようにレインボーの光が溢れ、収まった時には小さな小さな女の子が掌にいた。
思わず〇指姫!叫びそうになるのを必死に抑える。
可愛い、可愛すぎる。
お腹が空いたことも忘れてテーレと語らおうかとニヨニヨしていたら、6つの目がマリーを捉えた。
ですよねー。
こんなに光り輝いたら嫌でも横に寝ているエディは勿論、気配に敏い父は勿論母も起きるだろう。そしてここ最近やらかしているつもりはないが、心配をかけたばかりのマリーには説明義務があるだろう。
「その子は?」
エディが声に出す前に、ホセが目を輝かせて食い気味に聞いてきた。
うん。10歳のエディがキラキラなのは可愛いけど、・・・何も言うまい。これ以上言葉を投げかけたら、前世の自分に返ってくる。
「ドライアドのテーレ」
「もう生まれたのか!」
ビクッと体を揺らすテーレに大丈夫の意味を込めて、人差し指で頭を撫でた。
「とーさん、メっ!」
「すまん。死ぬまでに会えると思わなかったドライアドに会えたからな」
「そうなの?」
「そうだ。貴重なんて言うものじゃない。知っている者がみれば、蜂の巣をつついたような騒ぎになる」
そんな貴重な子だったのか。流石あたしの卵!
「それにその子はマリーの守護者になってくれたみたいだ。大事にするといい」
「しゅごしゃ?」
どうやら鑑定を掛けたみたいだ。5歳にして守護者が出来るなんて、あたしもしかして、チート?!
「マリーを護ってくれるってこと?」
そう聞いたエディが、今にもどこかに走っていきそうなぐらいテンションが高い。
何故あたしを守護してくれるというだけで、テンション高いのだろうか。
「じゃあ、今日はマリーの子守をしなくても大丈夫?」
なるほど。元冒険者の父に憧れるエディは、ドテドテとしか走れないあたしに合わせるよりも、確かにチャンバラの方が楽しいよね。
「テーレの能力が確認できてからな」
苦笑いしながら、父は言った。
「だいじょうぶ。マリーまもれる」
テーレは小さな手で小さな胸を叩いて見せた。
母はにっこりと笑った。
「マリーそっくりね」
それはなにが・・・なのか。聞くのが怖くてスルーした。それは遺伝子のなせる業・・・いえ、なんでもないです。
口は禍の元。お口チャック!
これ大事。
大事なことなので、もう一度ジェスチャー付きでお口にチャック!
子供らしく話を逸らす。
「テーレすごい!」
ふんすっ!
やる気十分であたしに右肩に飛びのった。
そのまま外に出ようとするあたしを母が抱き留めた。
「まずは、朝ごはんを食べましょう。それからね」
「「ごはん!」」
テーレとあたし同時に元気に答えて、みんな笑いながらテーブルに向かった。
お腹空いたよー。
テーレは何が食べられるのかな?