38.取りあえずご飯とトット
凄い音に父さんたちも驚いていたが、突如と出来ていく外壁をみて事態を悟ったのか、大きな手で顔を覆うだけになっている。
慣れってすごいね。
案の定あたしを先頭に、止めなかった青年たちも一緒に怒られている。
だけど作ったことは正解なので、散々相談するようにと怒られたあと褒められた。
ちょっと叱られ損のような気もするけれど、報連相を忘れたことは事実なのでありがた~いお小言を受け止めておいた。
「結局どうなったの?」
「隣村ではどうやら冬に疫病が流行ったらしく、春になった今もまともに狩りに行ける男たちがいない為、食料が極端に減り厳しいようだ」
「え、大丈夫なの・・・」
「隣村の奴らには嫌な目に合わされたが、滅びて欲しいと思っているわけじゃない。援助することにしたのだが」
ああ、察した。ここにあるものが精霊たちにより魔改造されている為、出回っている物より全て質が良すぎるんだ。表に出せばいつか争いの種になる、取引をするタイミングは計っていたが、それが今となると・・・。
種と卵のことがあるし、穏便に事を運びたい。
表に出しても精霊のお陰でよく育つと言いやすい野菜と、干し肉とかなら大丈夫じゃないかな。
―――ただ今を乗り越えただけで大丈夫なのかと言われたら、また1ヶ月後、2ヶ月後同じことになるだろう。今動けないなら畑も耕せてないと思うから、大量の物資と一緒に隣村に行って苗を植えるといい気がするよ。
ただそこまでする必要があるかどうかは、荷物と一緒に行った人が判断すればいい。
その荷物は。
「シャンスが荷車引いて隣村まで運ぶ?」
「シャンスを貸してもらえるなら、道中も楽に進めるだろう」
「このあたりにシャンスに敵うものなんていないし、力持ちだし、変な気を起こさせないという良いことずくめだもんね」
「シャンス!」
忠犬宜しく大きなふさふさな尻尾を振りながらやってくるシャンスが、可愛すぎる。目の前に転がったシャンスに突入してお腹のもふもふに突進して堪能する。
一緒に転がっていたため「手が離れるのが早すぎる」という呟きは残念ながら、聞こえなかった。
もふもふに満足すると、置き去りにしていた隣村の人たちを思い出した。
「あ、父さん。隣村の人たち今日はゆっくりしてもらうのはいいけど、寝るところどうしよう。屋根付きの長方形の倉庫みたいのでよかったら、すぐに出来ると思うよ。ベッドとかは流石に作れないから、藁を敷いてその上から布をかぶせた上に寝てもらったらいいかな?」
父さんは仕方ないなぁと言う顔をした後、すぐにあたし向きの役割を伝えてきた。
「建物の方はエディ達男組でするから、母さんと一緒に食事を頼む」
「うん。母さんのところに行ってくる。シャンス行こう!」
「お肉、おいしくして」
「それは確かに、あたしの出番だね!」
隣村の人たちの意識をあたしから逸らせてくれる父さんに感謝しながら、食事の用意に向かった。
「母さん、シャンスに頼まれてお肉熟成しに来た」
「おいしいお肉」
「じゃあ、今日食べる分だけお願いするわ」
「たくさんたべる!」
「シャンスの分は別でちゃんと用意するわよ。貢献者なのだから」
褒められ撫でられてご満悦のシャンスはそのまま何を思ったか、ご飯とってくる!と軽々と壁を乗り越えて出ていった。
どれだけ食べる気なのだろうか。
まだまだ子供のシャンスに笑いながら、野菜を切ることにした。
「お野菜たっぷりのあっさりスープでいい?」
チラッと見た限りは、かなり疲労がたまっていそうだし、満足に食べている様子がなかった。いきなり味付けの濃いものを食べるのは、胃に負担を掛けそうな気がする。
だけどずっと睨むようにこちらを見ていたおじさんは、そんな気遣いを全て無駄にしそうな気がするよ。自分たちだけ肉食べて、わしらには野菜だけだとか言いそう。世界は自分を中心に回っていて、言うことを聞くのが当たり前のような人どこにでもいるからね。そんな人が交渉に出てきたら、それは揉めるね。
「それがいいと思うけど、村長が来ているからなにかしら文句は言うでしょうね」
「あの髪の毛のない、ひげを生やしたエラそうなおじさん?」
「そうよ。あの鼻っ柱をポッキリと折ってしまえば、スッキリするのだけど」
「あれは、病気じゃ。直らんよ」
「村長一派がいなくなれば、手助けも喜んでしたのにね」
同じように野菜を切っている村のおばちゃんたちも、同じようなことをいう。
あたしが受けた印象のままのようだ。
強欲そうに見えて実は謙虚なんていうギャップ萌えは、どうやらないらしい。
「マリーが熟成した美味しいお肉は与えない方がいい。煩くなる」
「普通のお肉も量がどうのこうのいいそうな奴だから、少しでいい」
凄い言われようだ。その辺りの加減は是非大人に頑張って貰えばいいから、あたしはせっせとスープを作る。
薄く切ったお肉を焼いていると、いい匂いが漂ってくる。
ああ、じゅうぶんな卵あったならすき焼き食べたいな。どこかに卵を産む鳥いないかな?流石に植物じゃないから鶏のようなものは作れないしね。
・・・、・・・。
卵がなる木とか、駄目だね。出来そうな気がするけど、常識を覆すのは間違っている。
それよりも、ガチャ卵から生まれてきてくださいと言う方が理にかなってるよね?
―――あたし色々とこの世界の不思議に嘱されているよ。
誰かこの世界の常識を教えてください。プリーズ!
「マリーどうかしたのかい?」
「何でもないよ。卵があったら美味しい物食べられるのになって思っただけで」
「卵ね。それだったら今回隣村との取引で、トットと交換するというのがいいんじゃない?」
「トット?」
「そう、飛ばない鳥で卵を毎日産むんだ。一度買いたいと申し出た時は高く吹っ掛けられたから、買ってないが、今回丁度いいかもしれないね」
「そうね。対価があった方が、いらない詮索されなくてもいいし」
これは朗報だ!どうやら鶏に近い鳥がいるらしい。
隣村であまりいないなら、他から買ってもいいし夢が広がるよ!お菓子が作れる!!
そんなこんなで話し合った結果、こちらからは干し肉10袋と野菜の詰め合わせ20箱を出すことにし、引き換えにトット10羽となった。もっと引き取りたかったが、食糧難で困っているのに卵という栄養の高い食料を奪うわけにもいかず、それで手を打つことにしたという。
ただし潰すだけのトットを掴まされる可能性があるので、そこは父さんが見届けに行くようだ。
そこまで信用ない隣村って、どこまで酷いの。
これから配膳するスープに文句言われたら、喧嘩を買ってあげるよ!
次回「39.隣村の者たちとマリー (村人視点)」
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