37.外壁を作ろう
村に入る前に隣村の人たちに囲まれそうになったけれど、シャンスの一唸りですぐに止まり慄いた顔で固まっていた。
囲まれなかったことにホッとしたものの、古びた服と痩せこけ顔色の悪い人ばかりなのがとても気になった。
改革する前でもうちの村の人たちは、あそこまで痩せこけてなかったよね?
何かあったのだろうか?
「ホセ、リセ、エディもマリーも狩りはバッチリだったようだな」
「ああ、うちにはシャンスをはじめ精鋭の精霊たちが居るからな、後れを取ることはない。俺の狩人の出番がないくらいだ」
「まあ、過剰な戦力だな」
普通の世間話をしながら門の中に入る。門を手早く閉じたら、すぐに父さんは相談役たちが集まっている場所に駆けて行った。
そう今の村は村と呼ぶには不分相応な完璧な壁がある。父さん曰く見た目は領主がいる街にあるような土壁らしいが、強度は明らかにこの村のほうが高いらしく、何と戦うつもりだと思わず聞いてしまいそうになるレベルらしい。
え、戦わないで諦めてもらうためと、村の中を見られない為だね。
攻め込めると思うから戦おうとするのであって、無理だと思ったら無駄なことはしないだろう、と思って土の精とテーレと気合入れて作ったよ。
壁には結界が張り巡らせされているから、敵意を持ったものはネズミであっても入れない防衛システムが作動している。
ちょっと試してみたいとか、そんなことは思ってないよ?
だけど隣村の人がこの中に入ってきていないということは、作動しているとみていいのではないかな?
ただこれからのことを考えたら、壁を二重にして内壁に入れる村人と、何かあった時に外壁の中に入ることが出来る旅人を分けてもいいかもしれないね。横柄な態度をしないなら、問題が起きる前に援助しておいたほうがいいのだから。
「シャンス、このお肉捌いてもらいましょうね」
「うん。みんなで食べる!」
シャンスとお肉は母さんに任せて。
思い立ったが吉日、いっちょやったりましょか。
「マリー、何をするんだ?」
ワクワクした顔のエディは、あたしの悪だくみに参加したいようだ。
いいじゃないか、いいじゃないか。
土魔法が使えるエディとミミなら、手伝って貰えるよ。
「ふふふっ、エディ覚悟はいい?」
「おお、面白い事なら手伝う」
「じゃあ、まずはミミ、ソルとその他の土の精も集めてもらえる?門の外にもう一回り大きい壁を作りたいの」
嬉しそうに頷いたミミはすぐさま仲間を呼びに行った。
「今回も前回みたいに付与しながら壁を作るのか?」
「うーん。そこまでしなくてもいいかな~。ただ頑丈な壁を作って、あとから光鉱石に結界と浄化を付与したものをはめ込んだらいいかな、って」
「緊急でなければ俺も魔道具作ってみたいし、それがいい!」
すぐにミミ、ソルその他の土の精と他3人の人が一緒にやってきた。
「ソル!ただいま!」
もふもふとモフっりながら、ただいまのあいさつとする。
「相変わらずや」
そんなことをいうソルだって、ちょっと嬉しそうだし。
二人で抱き合っていたら、ソロソロ・・・という視線を浴び、仕方なくモフモフをやめた。
「えーと、今ある外壁の外側・・・草原になっているところに壁を作りたいと思います」
「何のためだ?」
質問してきたのは、土の精と契約している青年だ。めんどくさいと思っているのか、ただ聞きたいのかわかりにくいくらい表情が出ない人だが、言葉に険はない。
「村の防衛力を上げるためと、受け入れ場所を作るためでしょうか」
「難しい言葉を知ってるな」
ちょっと感心したとばかりに目元が緩んだ。
「今後、必要になるかもしれないでしょ?」
「・・・そうだな。俺たちはマリーのおかげで精霊達とも契約が出来て、昔と違う安定した暮らしが出来ている。だけど、来た人たちは明らかに違ったな」
「痩せてて、綺麗じゃないし」
しっかり食べて肉付きが良くなり、お風呂に入るのが普通になってくると、昔に戻りたくないと思うのは当然だ。だけど昔の自分たちを見せられているようで、居心地は悪いと思う。
このまま追い返すのはちょっと気が引ける。だけどこの中に入れたいとは思えない。この村の状況を外の者が知れば、押しかけてくる者が増えるのは想像しやすい。
「だからね、ちょっと一休みできる場所を提供出来たら、いいかなーって」
「そうだな。壊すのは簡単だから作ってみるか」
「「そうしよう」」
ということで、門の外にスルリと抜け出したソルとミミに目印の壁を一つ作ってもらい、その場所で大丈夫なら、そこから横に広げていくことにした。
「イメージはシャンスがどれだけぶつかっても壊れない、ごつくてかたい壁、高さ三メートル」
二人が見本の壁を作るとそれに合わせて、土の精が一斉に魔力を紡ぎ始める。あたしたち人間は土の精に場所や高さをそれぞれが指示し、確認を取りながら進めていく。
あたしもエディも作るほうに参加したかったが、人間が作っているところを見せないほうがいいという意見が出たので、それに従っている。
子供がそんな力持っていることを知って、誘拐してやろうという不届きものが出たらだめだしね。あくまでも精霊が任意でしてくれたことになっている。
前回は間違いなく精霊たちの暴走で外壁が広がったからね。間違いではないのだ、間違いでは。
突如として自分たちを囲う大きな壁が出来ていることに、腰を抜かしている隣村の人たちには申し訳ないが、これは必要なことだから我慢してね。シャンスと同じように、決して威嚇しているわけでも、脅しているわけではないのだ。結果その様にとられても、ね。
腰に手を当て、ちょっと胸を張って威張っておいた。
ふふふっふふふっ。
あ、父さんに言ってない。
項垂れた。
誤字報告ありがとうございます。
次回「取り合えずご飯とトット」
読んでいただきありがとうございました。