36.予言?
うーん。良く寝た。
車の中でも背もたれを倒してベッドのように出来るようにしてたから、そこそこ寝心地は良かった。
これだったら野宿でも楽にできる、いや下手な宿よりも野宿の方がきっと快適に違いない。これだったら一ヶ月以上かかるという街に行くのも楽でいいかも。
そんなことをぼんやり考えながら、外で朝食の準備をしている父さんと母さんを見た。
昨日だけで一生分の気を揉んだ。ちょっと、いやだいぶ変わっているあたしを普通に受け入れられたことが、正直ちょっと意外だった。もしかしたら神父さんからもっと深い話があったのかもしれないし、今まで何度も話し合ったのかもしれない。それはあたしにはわからないけれど、父さんと母さんに認めてもらった今は、この世界に受けれられたような気がして嬉しい。
あたしが親だったら、突飛もない話をスンナリと受け入れられただろうか。日本でだったらきっと虐められる対象になりそうだから、他人に話してはいけないと口を酸っぱくして言い聞かせていると思う。
親って本当に偉大。
エディはミミを抱えてまだ眠っている。昨日光鉱石を手に取ってはしゃぎすぎて寝るのが遅くなったためだ。
わかるよ、わかるよエディ。新しい素材、わくわくするもん。
「起きたの」
「うん。よく寝た」
「確かに悪くなかったわね」
「でしょ!」
「だからと言って、これから無茶な冒険はさせられないからな」
あはははっ。
父さん、押さえるところは抑えるね。流石だよ。
それに頷けそうにないから、笑って誤魔化した。多分誤魔化せてないと思うけど。
「昨日言った通り、今回は空の精に会いに行くのは諦めろ。大事な種と卵のこともある。何かあってからでは遅い」
「そうよ。彼らが大事にしている者をちゃんと育て、実績を作って会いに行ったほうが確実でしょ?」
「誠実であることは大事なことだが、未来を急ぎすぎて今あるものを無くすほうがよくない」
これには正論すぎて、反論の余地がなかった。
今までみたいに感情で話をするだけでなく、論理的に話されると頷くしかない。
―――もうすぐなのに、と思わないわけではないが、自分だけで目的を達成することなんて出来ないし、種に問題あるほうが世界にとっても打撃になるのだから、ここは大人しく世界樹の種と巫女の卵に専念しよう。
エディも起きてきて、軽く朝ご飯を食べたら村に帰る準備をする。
帰る準備と言っても、ミミが車の点検をして問題なければ出発するだけなので、すぐにでも出れる。
その間にシャンスは辺りの斥候に見回りに行き、あたしは卵と種を無くさないように二つを一緒にできる籠を作り、その中に綿を詰め居心地がいいようにした。
「テーレ、お願いね」
ミミの点検も済み車はいつでも発車OKの状態で、シャンスの帰りを待っていた。
その時頭の中に助けを求める声と、荒れ狂う真っ黒な獣に真っ赤な眼が映り込んだ。
「なに?!」
それは一瞬で何を意味しているのかまったくわからない。
「どうした、マリー」
「うん。誰かに助けを呼ばれた気がする。だけど誰だかわからない。それと荒れ狂う真っ黒な獣が映った」
父さんはテーレを見るが、テーレはまったくわからないようで首を振った。他の精霊たちを見て首を振る。
ただリュビだけが首を振りながらも、何かを考えているように見える。
「リュビ?」
「なんでもない」
リュビの――いや、勘違いだろう。空が失敗するわけないし。という溢した言葉がやけに残った。
まもなくしてシャンスが問題ないと帰ってきたので、そのまま村へと真っ直ぐに戻ることになった。
「では、村まで帰るぞ。テーレ、案内を頼む」
シャンスが斥候してこの車にこの布陣の精霊たちで何かが起こるは思えないが、予定外の種と卵もあるため、完全に安全圏だと言えるところまでノンストップで進むことにした。
緊張しながら戻った割には、何事もなく順調に戻り予定よりも早く森を抜け村が目の前になった。
「何事もなかったな」
ホッとした声でいう父さんに言いたい。
あたしだって思ったけどさ、何事もないのが普通なんだよ?ちょっと色々予定外が起きただけで。
「本当にね。冒険者をしていた10年前のような毎日だわ」
あたしは頬を膨らませた。
半分は巻き込まれてるだけだからね!
あたしの人生の目標は、スローライフだから!
そんな感じで気が抜けたあたしは、荒れ狂う真っ黒な獣の映像が映り込んだことをすっかり忘れてしまった。
「俺は楽しいからいい」
エディ!
持つべきはお兄ちゃん。これからも巻き込まれて!
まずは光鉱石で錬金頑張ろうね。
そんな話を車の中でしてたら、川の向こう村の前に見慣れない集団がいた。
こんな外れに旅人?
「あれは隣町の奴らだな。痺れを切らしてやってきたのか」
「図々しいあの村のやりそうなことね」
「だが、これを見られないほうがいい。このまま車から降りて歩いて戻ろう」
「でも、父さん。森から戻るのに、手ぶらっておかしいよ。シャンスに車仕舞ってもらって、荷車とシャンスが仕留めたあのでっかい猪出して運んだほうがよくない?」
「そうね。村の人たちがどんな話しているかわからないし」
「そうだな。一泊して狩りをしていたと思わせていたほうがいいな」
「シャンス、お願い」
「僕のお肉無くなる?」
「大丈夫、無くならない。フェンリルのシャンスからお肉奪えるものなんているわけないよ」
「へへへ、僕強くなったからね!お肉運ぶの!」
今日の夕食はこの猪のお肉に決定した。きっと村の人たちも喜ぶから解体も手伝ってくれるし、シャンスのことが大好きな他の子供たちも我先に、焼いたお肉を与えてくれるに違いない。
スキル熟成でお肉美味しくさせて、秘伝のたれを作って付け込めば臭みもなくなるし美味しいご飯が食べられる。
気持ち的にさっぱりが食べたいから、あたしは果汁の効いたタレで、もう一つはシャンスの大好きなニンニクもどきをタップリ使ったスタミナタレで、旅を労わってあげよう。
そんな呑気なことを思いながらふわふわのシャンスにあたしとエディは跨り、シャンスの引く荷車と一緒に村へと戻っていった。
次回「外壁を作ろう」
読んでいただきありがとうございました。
ある程度ストックがたまれば毎日。不足してきたら二日置きに更新になりそうです。