32.大精霊の願い 「種を探して・・・それから」
どれぐらい眠っていたのだろうか、起きたらものすごくお腹が空いていた。
「「マリー!」」
母さんと父さん、エディも一緒に覗き込まれていた。
「う、うん。大丈夫」
お腹空いた・・・とはすぐに言えない雰囲気なんだけど、どうしよう。
「とりあえず、もうすぐ夜になる。今日は動くのは危ないから明日戻ろう」
「え、戻るの?!」
「当たり前でしょ!家ならともかく、得体のしれないこんな森で倒れるとか心臓がいくつあっても足りない。旅何てやっぱり無理だったのよ」
「そうだ。マリー、空の精を探して説得するのも大事かもしれない。だがな、俺たちにとって大事なのはマリーやエディの安全だ。何が起こるのかわからないことには、正直首を突っ込んでほしくない」
「え、でも・・・」
それ以上の言葉は言えなかった。
あたしを心配して言ってくれていることは、痛いほど伝わってくる。その気持ちを踏みにじるのは、辛い。きっと意地でもそれを通してしまうと、今までと違って信頼を失ってしまうことは容易に想像できる。
かといって、大精霊の痛いほどの想いも踏みにじれない。
どうすればいい?
「とりあえず、お腹空いただろう。ご飯を食べよう」
「・・・はい」
お昼までのテンションと違って、みんなうつむき加減でご飯を食べている。あたし、心配かけてばっかりだよね。ごめんね、いつもいつも倒れてばっかりで。
だけど、大精霊の願いに触れなかったら良かったのかと言われれば、それは絶対に違うと言い切れる。
父さんや母さんだって契約精霊がいるぐらいだ。人間側の都合だけでなく、精霊の立場も少し理解できていると思う。だから精霊に振り回されて、あたしが傷つくのは違うという言葉を呑んだ。
でもね、父さん、母さん違うんだよ。今起きている現象は、あたしが心の底で望んでいたこと。
どこか物語の中にいる気持ちが全くないとは言えない。転生してきて、物語の中の主人公に憧れチートなんて普段使うことなんてない言葉にときめいて、現在思い描いた生活が出来ている。
大舞台に立つつもりはなし、世界を手に!なんて馬鹿なこと言うつもりはない。
だけど小さな手に出来る幸せが嬉しくてこの世界を楽しんでいるから、反省はしているけれど今更自重なんてする気はない。
もうだって、甘いものがない生活なんて考えられないし、お風呂が毎日入れないとか、トイレがボットンとか、無理なんだもん。毎日美味しいもの食べて、楽しいねって村の人みんなと笑いたい。
ごめんね、精神は大人のくせに中身はしゃいだ子供で。
だからうちのチートな精霊たちが、無理がないように探索に行けばいいのだ!
『テーレ、シャンスこの近くに洞窟があるはずなの。探して。入口はたぶん大木か蔓か木の根などで隠されていると思う。だけど無理はダメ。危険を感じたらすぐに戻って、戦力を整えてまた来ることもできるのだから』
『・・・マリーありがとう』
『僕も頑張るよ』
魔力を使うことになるかもしれないし、ここは張り切ってご飯を食べておこう!
張り切ってご飯(塩おにぎりと色んな具が入ったスープ)を食べていると、母さんに大きなため息をつかれた。
あ、これバレてるね。
一番わかりやすいのは、エディの土の精霊ミミの表情だ。やる気を漲らせて口袋から次々と魔石や宝石を出している。
ちょっと、ミミ!今から戦争でもけしかけるつもり?!そんな物騒な物早くしまって。
リュビ、張り切らないで。あなたが張り切ったら、この森辺り一面燃えてなくなる。
テーレも落ち着いて、この車を木で覆って結界を強めてくれるのはいいけど、真っ暗で何も見えなくなっているから、それは大丈夫!
精霊に誤魔化すなんて人間の狡さをしろというのが、無理だったね。一つ勉強になったよ。
どこまでも真っ直ぐで加減のわからないあたしの愛する精霊たち。
「マリー?」
母さんの語尾のあがったこの呼ばれ方は、背中がヒヤッとする。
「説明してちょうだい。精霊たちは何をしようとしているの」
「あー、えーと、探索?」
「何を探すの?」
「大精霊が残した種」
「種?」
「そう、種がこの辺りにある洞窟の奥に隠されているはずなの。それを見つけてほしいって」
簡潔に言えばそういうことだ。
気持ちが悪くなるほどの情報網はそれだけじゃないけど、まずは種を見つけなければ、始まらない。
本当にそれだけなのかと訝しげに見られるが、間違ってはいない。
種を見つけて芽吹かせるのがちょっと色々と大変なだけだ。
それはまだ少し先のことになるので、とりあえず種を見つないと。
「そんな大事な種とは、一体何の種だ?」
父さんにその答えをあたしが言う前に、種を探す準備が整ったようだ。
父さんの森の精霊「ダン」が厳かに唄い始めた。内容はよくわからないけれど、祈りだと思う。
その詩がテーレを光らせていく。
テーレが声にならない何かを発した時、辺り一面土の上にある蔓や根っこがずぶずぶと土の中に入り込み、根の跡が残るでこぼこした地面と斜面のある崖、坂のような道がわかりやすくなっている。
そこをシャンスが駆け出し、洞窟を探し始めた。
その間異変が起こらないかどうかを、リュビやグンミ、ルコ、ミミが警戒したまま見守っている。
静寂に包まれたこの空間は緊張に包まれていて、あたしたちの荒くなった息遣いと、シャンスの駆け回る足音だけが響いている。
時間にしてどれくらい経ったのかさえ、わからない。だけど30分は経っていないと思う。
シャンスの見つけた!という褒めて!と言わんばかりの声が響いた時には、シャンスらしくて笑ってしまい、いい感じで力が抜けた。
種を見つけた時は、くちゃくちゃに撫でてモフって、褒めてあげなきゃね。
次回「33.種の正体と覚悟」
読んでいただき、ありがとうございました。