2.サクレ
1話 リリーとマリーが入り混じって間違っていたので、訂正しました。
今更ながらなんて間違いやすい名前を使ったのか・・・
ここからあたしのもふもふライフの始まりだ。
いやっふ―――!
なんて、思ってました。
三日温めて生まれてきたのが、まさかまさかのもので…。
絶対に卵から生まれてくるはずがないものだった。
なにこれ?
「苗木だね」
兄エディよ。とどめを刺さないでおくれ。
わかってるんだよ。わかってる。どう見ても苗木だよね。それ以外に見えたら、医者が必要だよね。
一応卵から生まれたならモンスターかもしれないから、トレントとかいう落ち?
もふもふの「も」の字もない。
あれからすぐに光に驚いた家族が集まってきた。
それはそうだろう。スキルの話をしようと話しかけたら、それよりも先にスキルを行使して突如虹色の卵が現れたのだから。これはなんだとワイのワイのと話になるのは、当然だ。
「スキル ガチャ卵」について踏ん反り返って話をし、もふもふに囲まれるのだと熱く熱く語ったというのに、現れたのは苗木。
両手をつけて項垂れたのは仕方ない。
あ、こんな顔文字あった。
現実逃避をそろそろやめて、とりあえず向き合ってみよう。
初めてのあたしの卵(木だけど)なのだから。
「お!おおおおおおおお!!」
突然雄たけびを上げたのは、父ホセであった。
「何、とーさん、こわい」
「マリー!これは凄い凄いぞ!」
主語がないから全くわからない。何が凄いって?
「これは聖なる木 【サクレ】ドライアドが宿ると言い伝えられている木だ」
ドライアド?
もう一度言う、ドライアド!
ファンタジー!!
流石虹色卵SSRだ!
もふもふじゃないかもしれないけど、可愛い女の子か美人な女の人が宿るってことだよね!
流石あたしの卵!
ホセの声で近くにいなかった母リセもやってきた。
「何事?」
「聞いてくれリセ。マリーが産んだ卵が孵ったんだよ」
いや、父よ。産んでない。スキルだよ。5歳で卵産んだら、村人1じゃないし。
心の突込みを無視して、ホセはリセに説明を続ける。
父ホセは木こり&狩人だ。前世で言うヲタクと言っていいほどの、樹木マニア。冒険者をしていたのに、この村に落ち着いたのには理由がある。
それはこの村の山奥が伝承で精霊の森と呼ばれ、これまた伝説の世界樹があったとされているからだ。樹木マニアの熱弁には全くもって頷けないけれど、世界樹は別格だ。
聞いた時にはPRGに欠かせない世界樹かと思ったら、テンションあげあげで思わず『ファンタジー!』と叫んでしまった。
なんのおまじない?と聞かれても、ファンタジーを説明できるわけがない。この世界ではそれが当たり前の世界なのだから。
吹けない口笛で誤魔化して、生ぬるい視線を浴びその場に蹲りたかったのは記憶に新しい。
まあ、確実に増えているあたしの黒歴史は置いといて。
世界樹ではないがそれに準じる木を庭先に植えてもいいのだろうか。
ダメだと言われても、所有権発動して植えるけど。
この村なら村の守り木してしまえば、問題ない気がする。100年前に作られたという村のはずなのに、村人と呼んでいいのかわからないスペックの高い者が多いのは、冒険者が自然に集まって出来た村なのだろうか? 村の歴史なんて聞いたことがないし興味がなかったけれど、今度忘れてなかったら村長に聞いてみよ。
とーさんに聞いたらウンチクが多すぎて、よくわからなくなるからね。
話はずれたけど、聖なる木【サクレ】を早く育ててドライアドに会いたいから早速植える事にしょう。一緒にスキル『育成』があったのも、間違いなくこのためのはず。
とーさんの手からサクレを引き取り、家の裏庭にどてどてと走っていく。
スコップ何て素晴らしい物なんてないから、その辺にある石でとにかく掘る。
じょりじょりじょりじょり、掘っているはずなのに表面が削れただけで全くもって穴が開かない。
それでも掘る。
じょりじょりじょりじょり、じょりじょりじょりじょり。
「マリー、そこを掘るのか?掘ってやるよ」
「エディ!」
地面に手を添え、エイヤーとばかりに魔力を注ぐと表面だけ削れて色が少しだけ変わっていた場所が、サクレが植えれるぐらいまでしっかりと穴が開いていた。
土魔法…いいなぁ。
はっ!エディにお風呂作ってもらえばいいんだ。なんで今まで気が付かなかったのか。自分にスキルがつくというだけで浮かれていたんだな。くーーーーーっ。痛恨もミス!新人研修までしてたお局元アラフォなのに。
あ、また話が逸れた。5歳児って注意散漫だね。甥っ子姪っ子が何をしでかすのか何を言っているのかわからなくて、???ばかりなのがよくわかるよ。自分のことなのに、落ち着かない。
今度こそ。
しっかり植えて土を掛けたら、桶に水を汲んできて掛ける。
さてスキル育成の出番だよ!
「育成!」
ちなみに本当は詠唱は必要ない。想像力で魔力を動かせばいいのだけど、今回態々言ってみたのは、魔力を使っている気分を味わいたいから、ただそれだけである。
もちろん、想像したものが自分の魔力を超えていると失敗する。
スキルを得たばかりの5歳児の魔力なんてたかが知れているので、イメージは自分の背の高さぐらいだ。
20センチぐらいだった苗木がグングンと伸び、自分の背と同じぐらいの50センチで止まった。
あ、やっぱりこれが限界だったみたい。
クラクラする。
「マリー!」
慌てるエディの声を聞きながら、意識は段々と薄れていった。
おやすみーサクレ。
おやすみーマリー。
そう返事が聞こえた気がした。