25.黒助(くろすけ)
真っ白な視界が色づき始めると、目の前に森の精に似た容姿の真っ黒でふわふわでまん丸、大きさはソルぐらいのモノが飛んでいた。
思わず叫んだ。
大きいまっくろ「くろすけ」
『ほおー。我の名は黒助か。なんとも渋い』
あ、いや、名前のつもりじゃなかったのだけど。
というか、足元にいた卵がない。ということは、この飛んでいる子はあの黒卵?
見かけは可愛いけれど、雰囲気とか言い方が尊厳あるもので、あたしの卵から出てきたとは思えない。卵から生まれたように見せかけて、実は卵に変化していたわけじゃないよね?
そのほうがしっくりくる。
というのも、黒助という名前を容認した時に黒助本人と繋がったと感じたのだけど、その繋がりも仮初のような感じで凄く違和感がある。
でも一番は目の前に飛んでいる黒いのが、あのかまってちゃん卵というのが、腑に落ちない。
何かに化かされている気がする。
一体この子は何?
じぃ―――――。
怪しさ満点の(仮)黒助を見ているとステータスみたいなのが見えてきた。
なになに。
黒助 マリーの契約獣
無属性 『鑑定』『予知』『応援』『』
精霊じゃない?獣ってこの子が?!持っているスキルは凄い。あ、この子が鑑定が使えるから、あたしも簡易鑑定が出来るようになったのか。これは嬉しい。
『予知』か、危ないことを察知して教えてもらえるなら対策が出来るから嬉しい。
でもこの『』は何だろう。スキルのレベルが低いから、見えてないスキル?もっと見ていたら見えてくるかと凝視してみたが、見えないままだった。
とーさんならもっと詳しくわかるかな?
とーさんに期待して見てみたが、何故か首を振られた。
「どういうこと?」
「この子はかなり上位の者らしく、残念ながらとーさんではほとんど見えない」
「えっ」
だってとーさん、テーレのステータス見えたよね?テーレはドライアドという上位の精霊。それがみえたにも関わらず、見えないってどんな存在よ!!
怪しい、怪しすぎる。
「なにもの!」
「黒助」
そう言って、あたしの背中にくっついた後はいきなり眠り始めた。
本気で意味わからない。
でも背中にあたる真っ黒なふわふわな毛並みから伝わる波動は、とても気持ちがいいもので、先ほどの疑心はなくなり安らぎに満ちたものとなった。
ま、いっか。危ない者だったらテーレたち精霊たちが見過ごすわけないし、ここまで敬うような気配は出さないだろう。それにガチャで出てきた卵だもんね。信じてあげないと!
「ホセ、こういうことも含めての迷惑料も含んでいると思って欲しい」
迷惑料!テーレがそれだけのことを言うということは、この子はやっぱりすごい子なのね。
テーレもその他の精霊たちも口には出していないし、表情もいつもとそこまで変わらないけれど、心が歓喜に満ち、健やかに育ってほしいという願いが伝わってくる。同時に、あたしに対しても忠義みたいなものが流れてくる。
『絶対に守るから』
精霊王に次ぐ何かであることに違いないみたいだけど、それを今告げるわけにはいかない理由があるってことだよね。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
嫌な予感。これが黒助の『予知』の恩恵?正直今回限りはその恩恵は有難くなかった。
スキル授与の前に前世の記憶を取り戻したのも、そのあたしに『ガチャ卵』なんて不思議なスキルを与えたのも、多分――――。
ガチャ何てすごく嬉しい響きで単純に喜んだけど、ガチャ何て言葉とーさんもかーさんも知らなかった。わかるあたしに出たこと自体がおかしかったんだ。その時に可笑しいと気づかないあたしも、転生者がはしゃぐのわかってわざとこのスキル名にした者にも、腹が立つ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
あたしはあたしらしくスローライフをするのだ。世界の渦中に飛び込んでいくような冒険をしたいわけじゃない。この村を発展させて大きくして、みんなと仲良く暮らすの。そんな大層な使命を果たすのは勇者とか聖女とか仰々しい称号をもっている人がするものだ。あたしのように、幼女がなるものじゃない。
そうだよ。そうだよ!
あたしの使命は空の精を探し、お酒を造って宴会して、少しずつサクレを増やして行くこと!それ以外に道を示されていないし、問題の先送りにしているだけかもしれないけれど、それがなんだっていうの。
5歳の幼児にスキルを付けた身勝手なやつが悪いのだ。5歳だからね、啓示なんて言われてもいないのに、気付くわけがない。ただの幼女なんだから、仕方ない、仕方ない。うんうん。
それに、これはあたしの勝手な思い込みかもしれないし、想像が逞しいだけかもしれない。何かを頼まれてもいないのに勝手に動いて、予測つかない事態になってはダメだと思う。世界は広い。あたしが全部できるなんて烏滸がましい。
だから5歳児のこの小さな手が掴める幸せを追求しよう。
あたしは、あたしの人生を生きる!
一先ず、この村の魔改造を頑張ろう!と拳を上げると、
「「「おお!!」」」
心の声に同意するように、精霊たちが声を上げた。
とーさんはそれをみて大きなため息を溢したが、そのままどこか達観したように笑い出した。同じようにかーさんも両腕を腰にあて、苦笑いしながら「そうね」と溢した。
よくわからないけれど、どうやら魔道具を作ることがOKになったらしい。
ワクワクする!
朝から気合十分。
さて、今日は何を作ろうか。
お立ちよりありがとうござます。
次回から2章が始まる予定です。
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出来るだけ早く更新できるように頑張ります。
これからも、よろしくお願いします。