23.錬金と米 そしてシャンスの能力
夢中になって遊んだ砂遊びは、思いのほか楽しかった。リュビもソルも毛の中に砂が思いっきりかかって、面白いことになっていいる。
あたしも服の中は砂だらけで凄いことになっているが、やり切った感がある。
笑い転げる毎日。
あたしのスローライフだよ。
お昼にはエディと一緒にパンをもぐもぐ。お昼のパンはドライフルーツを混ぜたパンで、少し歯ごたえがあるが、ほのかに甘い匂いと噛んだ時の甘さで美味しい。
ぐびー。果実水は体に馴染むね!
エディもお昼前まで木刀を振り回し気が済んだのか、パンを食べた後は砂で遊び始めた。
この砂の良さがわかるとは、エディ流石だよ。
あたしは果実水飲んで気合十分になっているので、当初の目的魔法少女の続きをしてみることにする。
「れんきん」
おお!形だけはどこぞのショップぐらいのお皿にはなった気がする。
調子に乗って幾つか作ってみると、楽しくなってきた。
カレー皿みたいなの次は、やっぱりお茶碗。大・中・小と4つ作ったところで、エディにスープに入れるには浅すぎないかと言われて、我にかえった。
米、米がない。
村には無いものと諦めていたけど、そうだよね。そうだよ。なければ、作ればいいんじゃない?
「ねえ、グンミ。コメで作ったおさけ、のんでみたくない?」
あれ、辛口も甘口もどちらも味わいがあって美味しい。バブル時代には呆れるほど呑んだけど、嫌いにならなかったなぁ。特に凍らせたお酒なんて、絶品!
しずく酒、呑めないけど、呑みたいね。
黒卵もそうだそうだと、凄い勢いで縦揺れになりましめた。
もう、卵という生き物でいいんじゃないの?あたしの思考読んでいるし、もう生まれてるよね?
相変わらず、よくわからない卵だ。
卵が変なのは今更だ。返事がないグンミを探してみたが、居なかった。
「グンミ?」
さっきまでその辺りを、飛んでたよね?
「マリー、グンミに酒の話はな~」
「そうだぞ。わしはまだ酒にそこまで執着はないが」
えっ、とー、やっちゃった?
ソルとリュビが揃って頷いた。
あああああああ!マジで!あたしどれだけやらかしたらいいの?!
現在お砂糖と胡椒をテーレや森の精が増やしている最中だと言うのに、また魔改造させてしまうとか、規模が大きくなるという自覚がなさ過ぎた。
米が出来たらいいな、そんな軽い気持ちがまずいことに。
軽はずみな言葉を気をつけなければと思っていたのに、欲望に負けてしまった。
ただ、ちょっとだけワクワクすると言ったら、怒られるかな?
米、米だよ。お弁当と言えば、おにぎりだよ。
醤油も味噌もあるんだから、つけて焼いたら絶対に美味しいよね。お魚はないけど、お米にお味噌汁ってありだよね!
そんなことを思いながら、ルンタッタ、ルンタッタと体を揺らしながら、鼻歌を歌っていた。
黒卵も一緒に横揺れする。
お米、お米、美味しいお米。
味よし、香りよし、腹持ちよし、日持ちよし。みんなの救世主その名もお米!
遠出のお供にお米は如何ですか?
なんちゃって。
「なあ、マリー。浮かれるのは早いと思うぞ」
「そうだな」
「なんで?」
「さっきグンミに米を食べるなんて話、出てこなかったぞ。お米のお酒の話はしてたがな」
え、え、ええぇっ
してない。した覚えない。
ショックで膝をついた。
あたし騒ぎを大きくしただけで、自分の望みは叶えられないってこと?
「何やってるんだ」
膝をついたまま動かないあたしに、エディに不思議そうに聞く。
「おコメがおさけで、たべられない」
「意味わかんねー」
自分でも何言ってるのかわからない。
「食べたいなら、作ればいいんだろ?」
復活!
そうだよね。自分が食べたい分は自分が育てればいいのだ。自分が魔女っ娘になってたの、忘れたよ。
「エディ、えらい!」
「そうだろ、そうだろ。だから、美味しいお肉頼むな」
安定の肉大好きエディだった。
それからは早くとーさん帰ってきてよと、まだかまだかと森を見ていた。
それから一時間ほど経った時、やっと森から出てきたシャンスの姿が目に飛び込んできた。
「シャンス!」
ん?大きさ可笑しい。可笑しいよね?
なんでまた大きくなってるわけ?この世界の法則が全くわからない。完全にあたしの大きさを超えているのを見ると、子フェンリルの域は超えてる気がする。
「シャンス、大きくなったね」
『そうだよ。これが僕は大人になったんだ。かあさんにマリーから名前貰ったこと伝えたら、成人の儀をしてくれたからね』
成人の儀なんてあるんだ。フェンリルの世界も人間と変わらないのかな?
『マリーをいつでも乗せられるよ』
森への行き来は楽かもしれないけど、カンガルーみたいなもので袋に入って移動は出来ないのは残念だ。落ちないように、乗る練習が必要だ。
『マリーを落とすなんて絶対にないよ。僕は空間を操れるからね。マリーを僕に固定できるから』
なんですと!来ましたよ。空間魔法。あの収納魔法とかが使えるやつですね。所謂アイテムボックス。あれはあたしに欲しかったね。あればどこでも生きていけそうだし、今日作ったお皿とか砂とか全部持って帰れる。
『大丈夫、全部持って帰れるよ』
その言葉にホクホクしてしまう。
「ソル、おねがい」
「ハイハイ、砂の追加だな。仕方のない奴だ」
はい、仕方ない奴なので男前ソルさんや、頼んだよ!
早く帰りたいのも間違いではないが、砂が欲しいのも間違いではない。しかもとーさんがまだ帰ってきてないからね。戻ってくるまでの時間の有効活用である。
とーさんが心配じゃないのかって?
とーさんがそこいらの動物に、魔獣が出たとしても負けると思っていない。とーさんは、強いんだもん!
しかも!とーさんにもあたしよりは質は劣るけれど、結界と治癒が付与された宝石がミサンガに編み込まれているので、問題ない。もちろん、エディもかーさんも身に着けているよ。
シャンスより遅れて30分ほどした時に、とーさんが息を切らして戻ってきた。
かなりお疲れのようだ。
頑張れ、とーさん!