19.ジャムパンと新しいもふもふ
久しぶりのお風呂はとっても良かった。
かーさんの機嫌が最高に良くて、とーさんも心なしか浮き足だっていた。
夫婦の邪魔はしませんよ。
そそくさとベッドに潜り込み、卵に魔力を注ぎ込むと気持ちよさそうにユラユラ揺れる。本当に不思議な卵である。その卵を枕元に置きながらみんなで寝るのは、なんだか楽しい。
明日もいろいろ頑張るのだ!
朝起きておはようの魔力を卵に渡すと、ポンポンっと挨拶が返ってくる。今日も元気そうである。
固いパンをもぐもぐと果実水で柔らかくしながら食べている。
今日はこのパンの改良かな?上手くいけばパンを作っている人に使ってもらいたい。もっちりとしたパンが出来たらジャムを入れて、ジャムパンが食べたい。アンパンも食べたいけど、大豆を煮こんでも小豆ほど甘さは出ないから、豆の改良が出来たらうれしいな。これから寒くなるし、ぜんざいとか美味しいと思うんだよね。
まずは、万能麹に期待である。
「マリーは今日何をするのだ?」
「うーんとね。やわらかいパンにチャレンジするの」
「ほおー。柔らかいパンか。確かにマリーには食べにくいな」
「うん。あまくてやわらかいパンが出来るとうれしー」
「甘いパン!出来るのか!」
エディは食べたことがないパンに、ワクワクした表情をしていた。
「ジャム入れてあまくするの」
「それは楽しみね」
「うん。ジャムたくさんつくってね」
弾んだあたしの声に、精霊たちも新しい美味しいものが食べられるということが楽しみなようで、何をするのだと期待した目で見られた。
その後は粉塗れになりながら、材料を混ぜて捏ねて休ませて、膨らんだところにもう少し休ませてを繰り返し、焼く前に種の中にジャムを入れて包む。
本当はタルトとかパイのほうがジャムとか向いてると思うけど、作り方覚えてないんだよね。生地買ったほうが早かったし。
材料はなんとなくわかるのだけどね。このパンが成功したら、こんな作り方どう?ってパン屋さんに作ってもらうのもいいし、かーさんに作ってもらうのもいいかもしれない。
試行錯誤はしてもらおう。
さあ、焼くよ!と言いたいけれど、流石に5歳児に火を扱わせてはもらえない。
かーさんに窯に入れてもらって、火の様子を見ながら焼いてもらうことにした。
あたし?
あたしは今から茸狩りして、干さないと。だしの素なんてないのだから、せめて茸のだし汁は確保したい。
昆布や鰹節なんて山に囲まれたこの村で期待なんてできないし、海があっても鰹節の作り方なんて全くしらないからね。魚の骨砕いて出汁にするぐらいしかできないし。
トマトとか胡瓜とか大根とかサツマイモとか見たことのない野菜も欲しいし、揚げ物をするための油を確保したいから、オリーブのような実を探したい。
リーアの実もあるだけとっておいて、髪とか肌に使えるようにもしておかないと、ね。冬乾燥するし色んな意味で切実。
今日は特に艶々したかーさんが、髪の毛をアピールするように触っているから避けられないことなのだ、これは。
ということで、はい。
茸狩り頑張ってます。
精霊たちはあたしの茸に対する本気を見たのか、茸の種類が増えた。
これはマイマイという茸で全部食べられるらしい。見た目は舞茸みたいで香りもとてもよい。お吸い物にもいいし、天ぷらにしてもよい。干して栄養価を上げることだってできるから、最高だ!!
マイマイ茸と不思議茸をこんもりと盛った後は、とにかく干す干す。リュビに乾燥させてもらうのもいいけど、何故か干したいのよね。
干し終わったらもうお昼で、庭に座り込んで朝焼いてもらったパンを食べるのだ。
パンを持った瞬間、頬が緩む。柔らかい・・・。
一口サイズに契り、ゆっくりと口の中に入れた。ほんのり甘い柔らかいパンは優しい味がした。
ジャムが入っているところまで行きつき、ガブっと齧る。
思わず膝を叩いてしまうほど美味しい。
芳醇なポムの香りと甘酸っぱいジャムは、最高だった!
「おいしいね~」
精霊たちも納得の味だったらしく、美味しいと好評だ。以前の固いパンだと粉々になるからうまく食べられなかったもんね。味もついてないし。
頑張った後のご飯後は、サクレの根元でお昼寝タイムに突入。
頬を舐められている感触で目が覚めた。
「ん、リュビ?」
ボンヤリしながら目を開けると、何故か真っ白なもふもふが目に飛び込んできた。
真っ白なもふもふ?
うちの子たちに白い子はいない。誰だ?
「テーレ?リュビ?ソル?グンミ?どこにいるの?」
いつもなら絶対にあたしを一人にしないように傍に誰か入るのに。
起き上がって探すが、傍にいるのは真っ黒な卵とこの白いもふもふ。
白いもふもふはよく見ると子犬っぽかった。この村に犬なんていないからどこからか来たに違いないけど、いったいどこから?
テーレが結界を張ってくれているから、この子犬が害をなすことはあり得ない。その点は安心なのだけど・・・。
とりあえず、一緒に遊べと突進してくるこの白いもふもふを堪能せねばなるまい。
抱っこしてもふもふして、一緒に庭を転がってきゃふきゃふとしていると、リュビとソルがそこに参戦してきた。
どこにいたの?そんなこと聞く間もなく、全力でもふもふの中で転がる。
天国だ、天国がここにある。
白い毛が鼻に入ってせき込んでも、楽しいものは楽しいのだ。
息切れしだしたときに、テーレが果実水もってやってきてくれた。ちょっとあきれ顔だ。
あ、いやね。楽しいでしょ?
もふもふの中に入れなくて寂しかったのか、果実水飲んでいるあたしの頭にグンミが止まってグリグリしてくる。
愛い奴だ。
飲んで落ち着いたところでテーレが教えてくれた。
白いもふもふは何とフェンリルの子供!
森奥深くの精霊の泉近くで生まれた3匹のうちの1匹で、この子だけ魔力の波動が安定しないらしくこのまま森で生きていくには厳しいとのこと。今までだと成す術もなく消えていく命を見ているしかなかったが、精霊の愛し児がいる所なら安定した魔力が得られる。それならば預けたいと申し出を水の精から受け取り、グンミと一緒に会いに行っていたと。
リュビとソルはあたしの警護としていたが、中位精霊の遥か上の存在のフェンリルの願いに少しの間だけ、控えていたらしい。
「ねがいって?」
「マリーの魔力を感じたいって」
「もふもふマリー好きだし」
なるほど、あたしの願いと一致した結果なのか。
凄く納得。
フェンリルの子『シャンス』が新しいもふもふとして加わった。
次回『閑話 精霊には人間の常識は通じない ―父ホセ視点ー』予定
出張中につき、微妙に更新遅れるかもです。
8日は更新出来ると思いますがその後が微妙です。