1.スキル授与
ガチャの卵で もふもふ達とスローライフを
なろうラジオ大賞の短編として書いたものを連載にしてみました。
まあ、完全に自己満足の世界の話です。
それでも良ければ、暇つぶしにお読みください。
もうすぐ、もうすぐだよ。
何がもうすぐかって?
決まってるじゃない。5歳の誕生日を迎えたからスキル授与式が小さな神殿で、収穫祭のフィナーレとしてあるの!
そうアラフォ女が転生先には、スキルなるものがあった。テンション上がらずにいられる?
ちょっとしたキッカケで前世を思い出し、ファイヤーなんて小さな声で言ってみたけれど、何事も起こるわけもなく、ただアラフォ女が羞恥心に震えるだけの結果となった。
そんな辺鄙な村人1だったのはちょっとショックだったけれど、5歳になりスキルを貰うまでは何もできないと知りホッとした。のどかな生活も今は気に入っている。
まあ、変に記憶があるから家の中の土やほこり、饐えたにおいのする服やシーツなど耐えられなくて、泣きながら掃除したり、自分が臭うのが嫌で川に飛び込んだりと突然の奇行に、家族は目が点になっていたけれど、今では温かく見守ってもらっている。
家族構成は父、30歳前後。
母、20歳後半?
兄 10歳
の4人家族。記憶が落ち着いた今となっては、おかしな子だと捨てられなくてよかったと、本気で思っている。末の娘5歳には、とっても甘い家族で助かった。
「マリー、今日は気がすんだの?」
気が済んだってなんだ。
まあ、5歳児が出来ることなんてたかが知れている。今日はここ、明日はここと地道に掃除をするしかない。今は物置になっている屋根裏部屋を掃除して、頭と服がほこり塗れ中。
「これからみずあび」
「まいにち、まいにち、あきないわね。さいきんは水冷たいじゃない」
そうあたしに声を掛けるのは、隣の家の幼馴染リリー。一つ上の6歳だ。
体中で掃除したようにほこりと汗まみれになったまま居られるほうがどうかしている。
そういうあんたも、ちょっと臭うから水浴びして欲しい。
村ではこれが普通だから声に出しては言えないけど。
絶対に良いスキルを手に入れて、毎日お風呂に入れる環境をつくってやんだと今は息巻いている。
折角スキルで火魔法を手に入れたのだから、盥に汲んだ水をお湯にすればいいのに。
魔力使うことなく残すなら、あたしの為に使ってくれないかなー。毎日竈に火をつけて、晩だけしか魔力使っていないみたいだし。
「リリー、この水に火まほうかけて」
「え、なんのために?」
「水をおゆにする」
「そんなことできるの?」
「やってみないとわからない」
「おもしろそう。出来たら冬さむくないね」
冬にはたくさんの薪を使う。使いすぎて足りなくなって凍死するなんてことにならないように、最低限のことにしか使えない。そんな中流石に毎日お湯で体洗いたいとは言えない。
それでも体を拭きたくて水で拭いて熱を出して家族に怒られたのは、ご愛敬だ。
「じゃあ、やってみる!」
ふんすっと鼻を広げてやる気を見せた。
「ファイヤ」
水の中でボンと音がした後、ほのかに湯気が立った。
「おおっ!すごい」
「ふっふーん。火スキルをもってるからね!」
無い胸を張って、どどーんと踏ん反り返るリリーを煽てておいた。
「火スキルすごーい!リリーすごーい!」
「こんなの、かんたんよ!いつでもやってあげるわよ」
これで次回からもしてもらえる。リリーが単純でよかった。
いい子やー。
そうだ!一緒にいるなら、リリーもこれでキレイにすればいい。
「リリーも一緒に」
「そうね。わたしがお湯にしたんだし。きがえもってくる!」
二人でお湯をかけあって、さっぱりして満足だ。
着ていた汚れた服を残ったお湯の中に入れて、二人でキャーキャー言いながら足ふみしたあとは、川でジャバジャバとすすいで終わりだ。
流石に5歳児では絞り切れない。
洗濯機が懐かしい。
そんなこんな代わり映えのしない毎日を過ごしている間に、収穫祭の日がやってきた。
小さな村だから収穫祭と言っても昔のお祭りのようなものではない。みんなで畑、山で収穫したものを神に感謝をし、料理を食べるというもの。
みんなで、というのが楽しいのだ。
いつか味付けが塩だけから脱却したいけれど、森に入ることを禁止されている5歳児としては新しい調味料を探しに行けない。
そこはスキル授与されてから少しずつ解禁になるはずので、オイオイに。
そして待ちに待ったスキル授与の日。チートまではいかないが、生活に活かせるスキルが貰えると信じてワクワクしている。5歳になった子たちと一緒に、村の小さな神殿と呼べないほどの小さい建物に入っていった。
いつもは閉じている扉が開き、その奥に高そうな珠が一つ置かれてある。
神父だから説教でもあるのかとおもきや、いきなりスキル授与について説明がある。
「これに手を置くだけで、頭の中に神より承ったスキルが浮かんでくる。今日はそのスキルとよく向き合うのじゃ」
その言葉を皮切りに、我先にと子供たちが水晶玉のようなものを囲む。
「スキルは逃げん。一列に並ぶのじゃ」
ワクワクしているのは、あたしだけじゃないもんね。5歳児におとなしく話を聞けというのが間違いだから、簡潔な説明だけなのかと納得がいった。
子供たちの押し合いへし合いの元、体の大きな男の子が一番前を陣取り手を置いて行く。
その度に、よっしゃー!なんだこれ!マジか!など色んな声が続く中、あたしの番がやってきた。
ドキドキしながら珠に手を置くと神父が言ったように声が頭に響く。
スキル『ガチャ卵』『魔力上昇』『育成』
おおっ!
お風呂に必要な『火魔法』『水魔法』『土魔法』でもなかったけれど、前世で嵌ったガチャゲーム。あのポチッとボタンを押す時の高揚を思い出す。
ガチャだよ、ガチャ。
しかも卵で育成といったら、まちがいなくもふもふライフが始まるってことだよね!
諦めてたんだ。
牛や山羊等は村の大事な食糧だし、村で飼えるもふもふはいなかったから。
ああ、今すぐ押したい。ポチッとしたい。
だけどここで卵出したら、間違いなく何するか想像つかない5歳児囲まれ、盗られて奪い合いになって割れるのが目に見える。あいつらは何でもかんでも口にする。
まあ育ち盛りの子供なんて、お腹空かせている欠食児童なのだから仕方ないのだけど、あたしの子(卵)を奪われるわけにはいかない。
一目散に家に戻って藁をかき集め、その前に正座する。
「マリー帰ったの?」
母に声を掛けられたけれど、今はそれどころではない。スキルのこと聞きたいのはわかっている。だけど聞くよりも見たほうがいいよね?!ワクワクが止まらないので、頭の中で言い訳しながらスキルを行使する。
『スキル ガチャ卵』
さあ、生まれてこい。あたしのもふもふ!
突如目の前に現れた怪しげなボタンを躊躇することなくポチッと押すと、辺り一面レインボーの光に包まれた。
鎮座していたのは光り輝く虹色の卵だった。
ここからあたしのもふもふライフの始まりだ。
いやっふ―――!