192.新たな旅立ち
自分も杖を出して何かあった時に備える。不確定要素がたんまりのダンジョンは、自分たちはどうにかなるけど、他の人が心配だ。
『大丈夫、今日はマリー達だけ』
その言葉にホッとした。ならば、自分たちが出るだけだと思っていたのだけど…。
『ダンジョン、ココアのになったよ!』
ん?ココアのに、なった?
『ココアがダンジョンを掌握したってこと?』
まさかね。と冗談交じりに応えたというのに、うん!って嬉しそうに答えが返ってきたあたしの心境は如何に!
えっ?
えっ?!
マジで?
『うん、マジ!ココア、頑張った!』
***
あたしは明日で15歳となる。
思えば10年前の、スキル授与の日から全て始まったように思う。
卵ガチャなんてワクワクスキルから、まさかのサクレが孵ってテーレが生まれて。
精霊達が集まって、生まれて、村が豊かになっていった。
今はもう広さだけでいえば、街といってもいいぐらいの規模になった。
生活が安定したことで精霊村の住民も子供の数を増やしていった。それ以外にも孤児となった近隣の村や町からも子供を引き取ったことで、着実に数を増やしている。その子供たちも中にはチラホラと成人したことで、畑を増やしたり、工房を増やしたり、店を増やしたりと、規模は大きくなっていった。
それにココアがダンジョンを掌握したことで、魔力を大量に消費する必要が出来た。その為この機会にと、精霊島セカンドに移住した人たちとも行き来が出来るように、海底トンネルを作ることにした。船で行き来も出来るが、今更遅いけど、これ以上目立つよりは堅実的だった。
勿論トンネルの中は電車で移動が出来るようにしている。
勿論外の町や村との売買も盛んだ。そこでメインになっているのはブライト商会、マーティンさんだ。
カランキ村やボルテモンテの町は今回立ち上げたスピリット商会が直接取引をしているが、それ以外はマーティンさんに丸投げしている。それなりの価格で卸して、後はよろしくってことで。
利益が勿体ない?
いや、だって、精霊達が競って色んなものを貢いでくれるからね。元手が要らないから、お金だけあっても仕方ないんだよ。
村だけでほぼ自給自足できちゃうから、お金使うことなくてたまる一方。
その内派手に使おうと思う。
あたしが成人の議を教会で受けた後は、精霊村改め、精霊国となることが決まっている。
初代国王?勿論父さんだね。
メッチャ嫌がってたけど、父さん以外ありえない。聖女の親だし、精霊王の加護を貰っている人が王につかないとかおかしいからと、村人全員に説得されていた。
でもまぁ、それなりに予測はしていたのだと思う。国王として意外にどうにかなっている。それは宰相となったパオロ・ペイネさんの力も大きい。それにパオロさんの呼びかけで、家を継げない三男坊が2人ほど総務と財務担当で来てくれたことも良かった。
あたしが作ったなんちゃって家計簿じゃあ、国は経営できないからね。
母さんは元々威厳はあるから問題ない。
国になることが決まり、一番茫然としたのはエディ。
いきなり王子となったことで、いきなり早く結婚をしろと重圧を受ける羽目になっていた。
まあ、ずっとエディに思いを寄せていた幼馴染のリリーが突進していったので、直に決まるだろうと踏んでいる。あたしにとって優しい兄だが、意外に脳筋で恋愛には不向き。女心って何?って感じだから、あれぐらい焔の女リリーぐらいが丁度いい。
え、あたし?
もっと恋愛に向かないね。
元々アラフォーの記憶があるからねぇ。そしてこの世界でも15年経った。ということは…。
だからね、知り合いの男の子なんて全く論外だし、ときめかない。
しかもかわいいもふもふに囲まれて、人外の容姿端麗に囲まれてみて?
ね?無理でしょ?
世界の均衡を保つためにとか何とか云って、出来るだけ自由でいようと思う。
シャンスと共に、視野を広げるという名目で旅立つのだ。
そして15歳当日。
立派に建て替えられた教会で聖女として正式に認定された。
まるでウェディングドレスのような純白のドレスに身を包んだあたしの傍で、シエロが神々しく輝いていた。
その斜め後ろには、世界樹のマグナとアリアが佇んでいる。マグナも昔と変わらぬ力を取り戻しており、シエロとは違う神気を纏っている。傍から見れば、完全に神の御使いがあたしに寄り添っているように見える。
正直って、この場から早く居なくなりたい。美男美女の近くになんて、あまりいたくない。この衣装と神気が辺りに溢れている為に、あたしも何割り増しか綺麗に見えるようだけど、地の美には勝てない。
神父様の有難い話なんて、頭に入らない。
ああ、やっと終わった…。
式は終わりホッとした時に、以前から気になっていたことを神父に問う。
「神父様は人間?」
唐突な話だと思うかもしれないけど、疑うのも仕方ない。
だってこの「ハズレ村」と呼ばれた場所に、教会が経っていることが不思議なのだ。近隣の村はボルテモンテの教会までスキル授与されに、集団で大人たちに守られながら向かうのだ。当時カランキ村より小さかった村に、今更だけど何故教会があったのか。
「シエロと同僚のようなものですよ。聖女マリー」
なるほど。
そりゃー…。
的確な神託が出来るわけだ。
15歳まであたしを保護するという使命があったようだが、この後もここにとどまって精霊国を見守るのだそうだ。この国の行く末が、この世界に影響するからみたい。
うん。間違いなくするね。
他の国にはいない精霊が、良き隣人として普通にいるところなんてないし、ドラゴンが酒を強請りに来るとか、森をフェンリルが守ってるとか、うん、特殊過ぎる。
「さあ、精霊王の復活の義を行いましょう」
聖女としての一番初めのお仕事が、精霊王の復活の義となった。
ダンジョンの攻略が思った以上に早かったお陰で、精霊王はいつでも復活は可能だったようだけど、盤石な状態で世界に発信するという意味も込めて、今日となった。
この国に来れる=精霊に認められし者は、教会の周りに集合している。
勿論ボルテモンテの町長、アシル・ブレイロットさんも、ブライト商会のマーティンさん家族もいる。
唯一国交を開いている、ツェルスト公国 元首レオナルド ・ヘンネベリ様も。
酒妖精『碧』がテンション高くぐるぐると廻っている。グンミを中心とした水の精とドワーフたちも最高級の酒を並べ、乾杯を今か今かと待っている。
森の精は木という木に止まっており、辺り一面桜が咲いたように鮮やかだ。
サクレが木々を揺らし風が奏でる音楽が、一層世界的歴史を彩る。
テーレの歌声に合わせて、森の精の大規模な輪舞が起きたら、
――ピンクの嵐の中から強い光の渦が現れた。
目が慣れてくると、光とは違う意味で目が潰れる―――――ぅと叫びたくなるほどの中世的で神々しい精霊王が現れた。
それが合図化のように、グンミがダンジョンで出た、これでもかとダイヤが付いているお酒を献上し、クロが杯を渡す。クロと精霊王が並んだところを初めて見たが、ヤバい。
語彙力がなさ過ぎて、表現に苦しむ。
周りは直視できないらしく、完全に平伏していた。
だよねー。
顔をあげてーと言っても、見てしまえば顔を下げてしまうのは、致し方ない。ここで顔をあげられているのは、うちの家族と無垢な子供たちだけだ。
無理やり乾杯だと杯を全員に持たせて一口酒を飲ませれば、色々と緩くなっていくのか、普通に食事をとれるぐらいになっていった。
料理も大盤振舞で、他の国では国王でも食べられないと言われるものの数々を出した。肉はダンジョンでかなり仕入れたからね。魚もファーストに行けば、腐るほど採れるし。
辺りを見渡す。
全世界でない。この小さな世界の中で、色んな種族が仲良く食事を囲んでいる。
それだけでも、嬉しかった。
そしてやっと口に出来るとお酒を口に含んだ。
ああ、甘酒でも美味しかったのだ。あれだけ気合入れて仕込んだ酒がまずいわけがない。
ああ、これだよ、これ。
最高―――――!!
久しぶりにガチャ、いっちゃおうかな!
この世界で何が出てきても、驚かないよ?
今度の子は、どんな子が出てくるのか。
一週間後出発する、旅のお供になるといいな。
聖女は副業。
まずは異世界を満喫しよう!
読んで頂きありがとうございました。
色々と思うこともあり、更新を止めてしまうよりは…と少々強引ですが、完結とさせて頂きました。
途中くじけそうなことも多々ありましたが、訪れてくれている人がいることが、励みでした。
1年と10カ月。
お付き合いいただき、ありがとうございました!
暫くこちらは留守にします。
別サイトで元々活動していた二次創作に力を入れてのんびりします。
暫く書かないので感想も開けておきますが、この物語にはこれで区切りをつけている為、内容変更に伴う話には返信しませんのでご了承ください。