190.酒
ああ、想像通りだね。所謂無水エタノールに近い度数のやつを作ってもらったのはいいけど、何で飲むかな。
世界最高の度数が90を超えていたのは知っている。飲むだけでなく消毒や体臭予防や病気の予防にも使われていたというし、飲めないわけじゃないけどさ。普通の人がストレートで飲んだら、アルコール中毒で別世界に旅立ってしまっても仕方ないと思うわけよ。
ここまでくると、馬鹿なの?阿保なの?と罵倒してもいいよね?
昼間から嬉しそうにトリップしているドワーフなんて、誰得?いや、公害にしかならないよね?
「次やったら、お酒すべて没収するから」
「それだけは勘弁してくれ!!」
「他のドワーフに睨み殺される!」
「俺たちが悪かった!!」
「二度と、二度としない!」
いきなり起きて土下座をし始めたドワーフたち。
素面になれるなら、さっさとなってよね。子供たちの教育に悪い。
「いい?こんな大人になったらいけないという、反面教師の姿をよく覚えておいて」
あたしの怒鳴り声に、子供たちが何があったのかとワラワラと見に来たから、見せておいた。
辺り一帯がお酒臭いことでみんな納得したのか、「「「はー――――い」」」という、とてもいい返事で嬉しいよ。
成人前の同じ年頃の者でさえも、この臭いには嫌悪感丸出しだ。
「いい?成人してからも、ちょっとずつ慣らすのよ。他で失敗するよりは、村で対応できるうちに自分の容量を知っていた方がいいから。飲み潰れて、寝ている内に持ち金すべて盗られるとか、殺されているなんてことがあっても、自己責任になるからね。酔いつぶれるだけじゃなくて、お酒が合わなくて死ぬこともあるから」
どんななお酒を飲んでも、水みたいにしか感じていなかった者たちが、その辺りに寝転がっていたというのは、子供たちには衝撃だったらしく、大きく何度も頷いていた。アルコールが合わない人は、匂って思いっきり吸い込んだだけでも、死んでしまうことがあると聞いたことがあるくらいだ。本当に取り扱いに気を付けて欲しい。
後は火の傍で飲んで引火した時の怖さもこの際だから伝えておかないと。
その後も散々お酒の怖さを言い続けた。
そして、自分も反省。
脅すぐらい取扱注意ということを言っておけばよかった。
それなりの度数は消毒にもなるし怪我をしたときにもいいから、あった方がいいからね。
お酒の取り扱いがしっかりと根付いてきたら、カクテル作ったら飲みたいなと思ってしまうのは、悲しいが人間の性なのかもしれない。だって、果実が美味しんだよ。ただ絞るだけでも美味しんだから、混ぜると美味しいに決まってる。この辺りはコッソリとだね。
って、思ってたのに。この酒の匂いを嗅ぎつけたものがいた。
バサバサと翼の音が聞こえたかと思えば、
――そう、暇を持て余しているドラゴンだ。
最近居を構え直してから誰も貢物を持って来ない為に、酒に飢えているドラゴン長。
『我にも貢物をくれ』
「いや、飲む為じゃないから」
『関係ない。そこに酒があるのだ。飲まないでいられようか』
「いや、だからこれは飲むアルコールじゃない。アルコール(エタノール)という消毒する物だから!」
『違いはそんなにないのだから、飲めばいい』
その消毒だという作った酒を渡すか、ダンジョンに入るかだドラゴンの長が喚く。
殺菌させる為の薬剤を入れてないから、飲めるのは間違いないのだけど!
無水エタノールと違って、薬剤で水を抜いてるわけじゃないんだけど!
そんなこと説明できないし、薬剤なんて作れないから入れられないんだけど!
なんでこう力のある奴は勝手なわけ?
攻撃して奪うわけじゃないだけ、平和なんだけど。
ああ、どれだけ愚痴を言っても、ドラゴンに通用するわけがない。今はダンジョンに行きたくないから、酒を渡す方がいいかな。
仕方ないから出来上がった酒8割を渡した。
酒が目の前から消えていくたびに、悲壮感に暮れるドワーフたちは無視をした。
だから元と言えば酒用じゃなくて、石鹸や化粧品の為なんだって。いい加減にしないと、この村の女性を敵に回すよ?
「ドラゴンの長も、このお酒…消毒するものを渡すのはこれが最後だからね。それ以上に酒が飲みたかったら、自分たちでダンジョンに入って飲んでよ」
『我らが入れば、流石にダンジョンの方が危ない』
「え、だって神様が作ったものなのに?」
『我らが入るもとで、作られておらぬ。暴れたら地殻変動が起きる可能性があるのでな。流石に無理だ』
まあ、そうだよね。酒飲みたさにドラゴンが数匹暴れることを考えたら、マズいのかもしれない。この村の酒を飲み干す勢いでくれと言っているわけじゃないし、仕方ないかな。
『酒を確保したら、頼む』
「頭に入れておくね」
こうして結局マリーはダンジョンに潜ることになるのだった。
読んで頂きありがとうございました。
中々時間が取れないものですね。
休みはあっという間に終わる。