186.支援
表情が和らいだ人たちを見て、ホッとしている。結局自己満足でしないのだとわかっていても、しないという選択肢がないのだから、今日はこれでいいのだと自分に言い聞かせた。
これからが大変だと思う。
この国が再建するにあたって、今の自分が支援できることを考える。自力で立ち上がるための支援とはなにか。
うーん。
そうなると野菜や果物の苗かな?
実を付ける種はダンジョンで出たから、それなりにある。
ナッツ類は取引するにも食べるにもいい感じだから、テーレに1mほどの苗木にしてもらって渡すのはどうかな。土は残念ながら今はセカンドに殆ど渡して在庫があまりないから、苗を植える場所に使ってもらうことにして。
――後は今植えている野菜たちが収穫できるまでの、取りあえずの野菜?肉をこれ以上渡すには、やりすぎのような気もするしけど、みんなの気力、体力等がある程度戻るまでは大事だし。やり過ぎもダメだけど、少な過ぎてみんなに行き渡らないのも、不満が溜まる。匙加減が全くもって分からない。
これはこの世界のことがわかっている人、パオロさんに確認することにした。
「苗などはとてもいいですな。未来に希望を見出すのは、大事なこと。――後は生活用品とか」
「あ、生活用品!」
そうだよ。マジックバッグなんてないんだし、色々と最低限しか持ってないはずだ。
「食器とか、寝具とか、服とか?」
「井戸とかは大丈夫?」
「あ、まずは全員が屋根のある場所で、安全に眠れることだよね?」
矢継ぎ早に問いかけるあたしに、少し落ち着けとばかりにパオロさんは頭をポンとたたいた。
「まずは、聞いてみよう」
「お願いします」
お腹一杯に食べている人たちを、目を細めてみているレオナルドさんに、パオロさんが話しかけた。
「レオナルド殿」
「パオロ殿、本当にありがとうございました。皆がこんなに明るい表情をしているのは、本当に久しぶりで。これが当たり前になる日を、いち早く整えることがカイル将軍から託されたわたしの使命」
「そう長い時間はかかるまい。この地は浄化され、聖女の祝福により魔力が満ちている。野菜も果物もよく育つ」
「そう…ですね。活力を頂きましたから、明日からまた頑張りましょう」
「その上で今の一番の問題は何だろうか。助力できることがあるなら言って欲しい」
「皆が安心して寝られるように、囲いが欲しいと思います」
「それならば、聖女マリーが願いを叶えられる」
「え、いや、――いえ、お願いしてもよろしいでしょうか」
「はい。大丈夫です。魔物はこの地に入ってきませんから、獣や盗賊のような物から身を守れるように」
『クロ、ソルこの地下も含めて、囲ったほうがいい広さを教えて』
あ、結構広い。
「じゃあ、ソル。一緒にお願いね」
杖を翳して一気に思い描いた壁を作っていく。高さは3m、厚みは50㎝ぐらいでとにかく頑丈に!
そうして出来た囲いに、安堵の声が響く。だけど外からの外敵に耐えられるものを作ったら、終わりじゃない。命の危険が無くなれば出てくるのは、欲だ。それがどんな風に出てくるのかは想像つかない。継続して支援でなくて大丈夫なものとして、孤児院を立てておきたい。
「テーレ、孤児院を建てるから、補助お願い」
4人部屋になるような部屋が1階に6部屋と2階に10部屋。それ以外に1階には食堂とトイレを設置した建物を2つ建てた。
「グンミ、綺麗な水が出る井戸を2つお願い」
ここに精霊村を作った時のように、村を作れと言われたら出来ないことはない。だけどあたし自身が庇護されている今はしない。まあ、これでもやり過ぎの様な気がしないでもないけど、心の安寧の為に作らせてもらう。自分と同じぐらいの子達の命が散っていくのだけは嫌だ。
「レオナルドさん、ここは孤児院です。あたしからの『願い』だと思って頂ければ」
ですから小さな子供・孤児とその子達を世話してくれる人優先でお願いします。次に小さい子供連れの家族とかという言葉は引っ込めた。それを伝えたところで、運営するのはこの町の人々。どんな場所にするかはそこにいる人が決めなければ、不平不満があたしに向く。それだけは避けないといけない。
本当に、町を作るって難しいね。レオナルドさんの手腕に期待!
あとはナッツなどが成る苗とか、炊き出しにしてもらうための野菜とかを渡した。
「何から何まで、ありがとうございました」
「いいえ、精霊村からあまりにも離れている為に、一時的な支援しか出来ませんが」
「それでも今を生きていける。そのことが大事ですから」
うん。とてもいい為政者だ。
この人に任せておけば、きっとここは立ち直ることが出来ると思う。
「そうですね」
一週間後様子を見に来て予想が外れたものになっていた時には、子供たちを連れ帰ればいい。
読んで頂きありがとうございました。
気持ちが少し落ち着いたので、もう少ししたら元に戻す予定です。
ただ忙しいのは、変わらないんですよねー。
GWまでボチボチ頑張ります。