183.次はダンジョンではなく、あの場所へ
酒…というキーワードで思い出したのが、何故かドラゴンたち。
何で今。
そう思ったのが間違いだったのか、長が溜息をついた。
『マリーの予感は当たっている』
それ、嫌なんだけど。
『来る気満々だぞ』
「じゃあ、ここに連れてくるから勝手に攻略してもらうのはアリ?」
『ないな』
『ないわね』
「何故!」
長とテーレに即座に否定された。
『ダンジョンは神が作ったものだから破壊されないが、奴らがここに居座れば間違いなくダンジョン内の生態系は崩れるぞ』
「え、それって…」
『ダンジョン内の勢力が変わり、攻略が面倒になるやもしれん』
『きっと妖精事、焼き尽くすわね』
ああ…浄火。
ありえそう。
「取りあえず、村に帰る。この中に入って間違いなく8時間以上経ってるし、未成年がいていい時間じゃないと思うんだよね。連れてこられたし」
『ああ、そうだの』
「そうでしょ?だから後は長に任せたから。あたしは帰る!」
『な、それは困るぞ』
と叫ぶ長を、ダンジョン前に放置して、あたしとテーレ、シャンスは急いで村に転移することにした。
自分が起こした行動の責任は、本人が取るべきだと思うんだよ、あたしは!
家に戻れば、案の定心配した父さんたちがいた。
「大丈夫だったか?」
「うん。何ともない。遅くなってごめんね」
「マリーが長とダンジョンに潜ったのは精霊達が教えてくれたし、全く安全だったと言ってたが」
「あ、うん。完全にアイテム拾いだった」
「そうか。それならいいんだ。で、長は?」
「ドラゴンの前に置いてきた」
「また、なんで…」
「60階層からお酒が出るみたいで」
その言葉で察したのか、父さんは溜息をついた。
「なるほどな。それでか」
「どうかした?」
「水の精達が…」
「あ、なるほど」
二人で大きな溜息をつきながら、あたしはダンジョンのことを話し、父さんは話し合いの結果を教えてくれた。
支援はする。
これは予想できたことだ。精霊たちの陰で、今やだれも飢えることはない豊かな村になったが、ほんの十年前までは日々食べることで精一杯だった。食べられない辛さを知っている分、優しい村の人たちは、誰かが飢えているのを放置できない。いつだって弱者から命を落としていく現実を、引き取った子供たちで痛いほど知っている。
ただ…子供たちを危険に巻き込みたくという声もあった。だが話し合いの結果、現実を知ることも大事だと結論に達したらしい。成人した15歳の者を5人連れて行くなら、大人が倍の10人行くことで守りを強化するのだそうだ。
「じゃあ、ダンジョンで出たお肉も、解体前のお肉も、捌けるね」
「まあ、そうだな」
単純にお肉整理が出来ることを喜ぶあたしをみて、呆れた顔を父さんはするが、大事なんだよ?
長とダンジョン行ってみればわかるよ。お肉はもういいよ、そう言いたくなるから。
「お肉は加工するんでしょ?」
「ああ、流石にマジックバッグを外に出したくない。それこそ争いの種にしかならないからな」
「そう、だね。便利過ぎて、ヤバいもんね」
そう言う意味じゃない、という父さんの呟きは聞こえない振りだ。村にも備蓄としてそれなりの量を確保しているが、これが最初で最後のわけがなく、第二弾、三弾と続くことが予想される。その為に加工に気合を入れないと。
精霊達と契約している人たちが頑張ってるから効率はいいけど、これから先もこの村だけで補うのは難しいと思う。セカンドにいる人たちにも手伝ってもらうとしても、人手が足りない。
「カランキ村を中継点として受け渡し場所にするとか、出稼ぎ的な感じで人を受け入れるとかしないと、難しいんじゃないかな」
「カランキ村か…」
「うん。国が違うし、精霊がいないあそこに同じように工場を作るのは難しいと思う。だからこそ、時間短縮のための中継場所と、労働力確保かな」
「次の食料を持って行く途中寄って、様子を見るか」
「うん。実際に見て父さんたちが決めて」
提案だけして丸投げ。
これが一番あたしにとって、効率がいい。その内全部自分のすること言うこと全て、責任が出てくる年齢になるからね。子供でいる時間は、意外と少ない。
夕食はまあ、予想通りお肉祭り。
ただの赤身と言えども最高級の狂牛。美味しくないわけがない。村の人たちと分け合って食べて、飲んで。
明日への活路としよう。
「みんな手伝って!」
良い子の子供たちがご飯!とばかりに飛び出してきて、5歳ぐらいの小さな子達は奥にしまっている食器などを出してくる。10歳以上の子供たちは簡易テーブルを並べる者と、量産された簡単に解体出来る出刃包丁をだしてきて、どれを解体するのだと言ってくる。
どこまで出来た子達なのだ。
今回はダンジョン産だし解体しなくてもいいことを伝え、代わりに野菜たちを切ってもらった。
30分もすれば準備は完璧。
「では、いただきましょう!」
母さんの一言で、みな食べ始めた。
みんなの笑顔をみながら食べたお肉は、ダンジョン内で食べたよりも美味しかった。
こうやって喜んでもらえるなら、アイテム拾い頑張った甲斐があった。美味しいものが食べられるって、やっぱり大事。
ボルテモンテの町からきたこの子達が将来この村で住みたいと言ってもらえるのか、外に出て自分の力を試したいと思うかわからないけれど、しっかりと体を作って欲しい。
こういう子達を増やさない為にも、支援は大事だと改めて思ったマリーだった。
だから明日は、あの場所へ行ってみよう。
読んで頂きありがとうございました。
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花粉の季節、厳しい…。