17.ボッチ地の精とサクヤ
毎日暑いですね。
仕事中でもぼんやりしてしまいます。
皆さんは大丈夫ですか?
夢中になって茸狩りをしていると、どこからか動物らしき鳴き声が聞こえた。
「キュ、キュ、キュー」
これだけの果実がなっているのだ、自然に今までいなかった動物が増えてもおかしくない。どんな子だろうかと懸命に見上げて木の上を探すが見当たらない。
鳴き声からすると小さい動物のリスみたいなのを想像していたのだけど、もしかして鳥?
見上げすぎると太陽が目に入って霞んでくるので、断念した。
うーん。残念・・・。
暫くして目が慣れたら茸狩りの開始だ。
ん?茸が増えてる?
「森のせいさん?」
茸を掲げて聞いてみたが、豆を収穫していた森の精が手?を止めて、一斉に違うとばかりにフルフルと震える様子に悶絶する。
可愛い、可愛いよ。なにこの可愛い生き物たち。青空に広がる緑の木々や植物が優しく風に揺れ、用水路を流れる碧の水の精が手を振り、そしてピンクの綿毛な森の精が震える。木の根元では真っ黒な卵を尻尾で包んでいるリュビがいる。こんなファンタジックな世界を動画に撮れないなんて、なんて残念なことか。
クぅ―――――!
何時間でも見ていたい。
悶絶して動かなくなったあたしを心配して、わらわらとみんなが集まってきた。
可愛い子たちに囲まれたあたしは更に動けなくなった。ああ、また気絶してもいいかな。
「マリーどうしたんだ(の)」
「キュ、キュ、キュ」
幸せに浸っていると、リュビとグンミが心配そうに聞いてくる。なんでもないと答える間に、気になっていた声が一緒に聞こえてきた。
つま先をトントンと叩く者がいるので下を向くと、そこにいたのはこの世界では初見の茶色のハムスターのような容姿の子。つぶらな瞳にもふもふなんて、頬ずりしちゃう。
「キュッ!」
驚いた声を出していたが、気にしない。新しいもふもふを堪能すべし。
「・・・・・・いい加減にせいや」
誰だ、こんなヤンキーみたいな言い草。こんな口の悪い子は周りにはいない。
「わしじゃ、わし。いい加減放せや」
・・・・・・。
ガックシ。
探す予定の地の精が見つかって可愛いのは凄く歓迎だけど、この口の悪さ酷くない?見た目が見た目だけに、ギャップが酷い。
それでも掴んだ手を放さず観察を続けると、見た目に反して歯が鋭く隠れた爪は鋭利そうである。
「お口わるい」
「しゃーないやんけ。わしの仕事は穴掘り人や。お上品にやれることじゃない。・・・それに、誰とも話せーへんからな」
「これからは、いっしょだね!」
「しゃーないな。サクレから頼まれたら、断れんさかい」
やっぱり水路を掘ってたのは地の精だったのか。しかもしゃべれるということは、中位精霊だから名をつけた方がいいのかな?
この悪ぶってしゃべってるのってめっちゃ違和感あるけど、義理人情に厚そうだね。精霊でも義理人情?そんなことはどうでもいいか。
「じゃあ、ソル」
穴掘って、という前に手の中の地の精がいきなり大きくなり始めた。
お、重い。カピバラ?
もふもふ感が増したのはいいけど、尻もちついて痛いし。それでももふもふを離さなかったあたしって、凄い。尻もちついた分、堪能しておこう。抱き枕よろしくとばかりに抱きついていると、流石に苛立ったのか腕の中から逃げだされた。
ムぅ。
「風呂だったか?穴掘ってやるから、機嫌直せ」
おおっ‼
しかも肉球で頭ポンポン付きだよ。
一体どこのイケメンだ?
というか、本当に先ほどのハムスター君?ヤンキーから一転した感じで、同一人物なのか疑わしいレベルで違うんだけど。
「悪かった。俺が居なくても楽しそうだし、名前ないし、・・・わしボッチだし。愛し児に嫌われたないし」
色んな言葉が入り混じっているのは、やっぱり複雑な心境が現れているのだろうか。リュビの時ほど強烈な映像は流れてこないが、魔素の変質によって地上は瘴気に晒され、覆われ、精霊が住めなくなった。だから地中深く潜りやり過ごすことしか出来なくて、仲間とはぐれたソルはずっとボッチで独り言が多かった。
寂しい。名が欲しい。そうすれば力を得て仲間のところへ行けるのに、そう心が叫んでいた。
「ソル、もうボッチじゃないよ。なかまをここによんで、みんなでせいれい王をむかえようね」
「ボッチじゃない。わし、ぼっちじゃない!」
そう言った後、口から何やら石を出してきた。頬袋があるって実はリス?
「これをサクレの根元に埋めてくれ。仲間が集まる目印になる」
ほんのすこし、少しだけその宝石に微妙な気持ちになったので、すぐに植えることにした。
ソルが掘った穴にマリーが植えることで、波動が大きくなるのだとか。
『早くソルが仲間に会えますように』
思わず手を合わせてパンパンと手を叩いてしまうのは、サクレから感じる聖の波動のせいだろう。触れて魔力を流すとサクレが光った。
目を開けていられないぐらい光った後には、卵から生まれた時と同じ大きさのサクレがあった。
『うまれたよー、うまれたぁー』
幼子のような拙い答えがあちらこちらから聞こえる。
『うまれたー、あたらしいサクレ』
初めて聞くこの声は森の精?
ピンクの綿毛が喜びの舞を始める。
くるくると回りながら森の精たちが手を繋ぎ、数珠のように連なって行く様は、まるで輪舞のようだ。
あたしはよくわからないまま、泣いていた。
そこに悲しみとか寂しさとか切なさもなくて、ただこの世界に生まれて良かったと感謝の念が溢れ、あたしは戻ってきたのだと感じた。
『おどれーおどれー』
『はっぴぃ、ハッピー』
『しあわせ、たくさん』
『もふもふ、はっぴぃ?』
思わずも森の精のもふもふハッピーには吹いていしまったけれど、世界がサクレの誕生を祝っているのだと肌で感じる。
「テーレ、リュビ、グンミ、ソル」
精霊たちの名前を呼び、みんなで団子のように集まった。
「いっしょにいてくれて、ありがと」
『早くみんなに会いたい』そんな声が卵から聞こえた気がした。
このような僻地でも読んで頂ける方がいるのは、嬉しいですね。
時々やる気が萎えて、エタりそうになりますが、(こんな用語が今はあるのですね)
基本二日に一度更新で行きたいと思います。