166.バランス
「マリー!」
「あ、うん。目の前にいる子は海の精でタラサ。精霊島の守護者だよ」
「海の精か」
5mもある海の精をこの子と言っていいのだろうかと思っているような父さんの声に、思わず笑ってしまう。
いきなり大きさが変わるなんて思ってもなかったよね。
「今ね、マレアイスラという島国に囚われていた海の精たちと、散らばっていた海の精を呼んでるみたい」
「そんな国があったのか。もしかしたらその国が交易で時々七色草が出てたのかもしれないな」
「そうじゃないかな。ただそれが縛り付けていたというのが気に入らない。あたしとの契約で呪縛が解けたみたいだけど。それにあのテラバードは海の精が逃げ出さない為の見張りだったみたい」
「そんなことが出来るのか?」
「どんな契約なのかわからないけどね」
「まあ、そうだな」
「だからなの?先ほどからみんなが落ち着かないのは」
「そうだよ、母さん。海の精を傷つけられて、黙っている精霊達じゃない。かなりやる気だったよ。精霊王に諫められた感じはあるけどね」
「…まあ、それがいいわよね」
「うん。間違いなく勝てる戦で、間違いなく国が亡ぶね」
「そう・・・」
予測はしていたのだろう。それだけ精霊達に怒りはすさまじかった。契約している者もそれなりに共有されたと思うので、村の人たちも何かあったかと感じているかもしれない。
「あたしは海の精達が集結して皆を癒すことが先決かな。父さんたちは一度村に帰る?みんなも感じてるなら、ちゃんと説明した方がいいかもしれないよ」
「そうだな。ちょっと気になるから戻るか」
「うん。あとテラバード、かなり美味しいお肉らしいから解体もお願い」
「そうか。わかった」
父さんとエディは村に戻り、母さんは最後まで見守ることにしたようだ。もしかしたら水の精と契約している人は、海の精の感じたものが伝わりやすかったのかもしれない。少し前まで母さんの闘気がかなり上がっていた。
母さんにシャンスと一緒に海の精を見守ってもらうことにして、あたしは父さんとエディと一緒に村に戻った。
村に戻ればはやり精霊達に伝わっていたのだとわかった。
精霊王の気を村の隅々まで感じた。
「ホセ!」
「ああ、説明するために戻ってきた」
海の精のことが絡むので、一応あたしから。
マレアイスラという島国が海の精を呪縛して七色草を作らせ、それをテラバードというBランクの魔物に見張らせていたこと。
それを掻い潜って、あたしたちの気を感じて逃げ出してきたところを救出したことを話した。
「大丈夫なのか?」
「ああ、精霊島という島がこの村の最南端の先にあるのだが、そこに住んでもらうことになると思う」
「そうか。それなら良かった。村中が殺気立ってたからな、何があったのかと心配してたのだ」
「すまんな、心配させて」
「いいってことよ。この村は精霊様たちと共に在るのだ。助けられる命があるのならそれでいい」
「うん。精霊王が鎮めてくれたみたいで良かった。ただ憎きテラバードは既にただのお肉になっているから、みんなで美味しく頂いてしまおう」
ドン。とテラバード2つ出してみた。
「唐揚げとかバーベキューで美味しく食べられるみたいだから、お願い」
「ほーほー。それはみんなで食して腹に収めねば」
「でしょ!精霊たちも一緒に食らってしまいましょう」
取りあえず混乱は収まっているのでほっとした。
よく聞けば一気に村中が殺気立った時、長とシエロが慌ててなかったので、村の危機ではないことだけは分かったために、冷静にいられたようだ。
流石、長にシエロ。食いしん坊だけじゃないね。
夕方までには戻ると思うから。
そう伝えてあたしは母さんがいる場所まで戻った。
「母さんどんな感じ?」
「思った以上に居ないのね」
「うん。そうだね。海は広いから呼びかけが聞こえてない場所もあるのかも。時間がかかる距離にいるかもしれないし」
「そうね」
「うん。村の精霊達も今はかなりいるけど、始めは数えるほどしかいなかったでしょ」
「そうね」
「大丈夫だよ。あの国に囚われていた精霊たちはすべて解放されてる。どんな契約であっても、あたしとの契約の方が強いから全て断ち切った。そうじゃなかったら、うちの子達、乗り込んで行ってた」
「そうでしょうね。私でもあの子達がされた仕打ちが感じられたのだから、精霊達はそれ以上よね」
「うん。だからこそ、精霊王が諫めてくれて良かった。精霊が国を滅ぼした。その事実だけが先行することだけは避けたかったの。未知のものに人間は恐怖心を感じる生き物だから」
脅威は均衡を保つために役立つこともあるけれど、そのバランスは常に歪だ。
無いから、あるところから奪え。
優位に立つために、誰かを縛り付ける。
その繰り返しで、ずっと負の感情が蔓延していて。だからこそ、魔物が増え続ける場所と、魔素が無くなる場所が明確に分かれてきている。精霊達を保護することは大事だ。
だけど保護すればするほど、あたしに全てが集中し過ぎている現実。
子供でいられる時間は少ないのかもしれない。
「マリーは精霊村のマリー。ホセと私の子。今はまだ子供でいてね」
「…うん」
母さんと父さんの子で良かった。
読んで頂きありがとうございました。
不定期で更新させていただきます。