158.魚の試食会という名の昼食
え、もう?
そんな声が聞こえるが、もう・・・だ。
初めてだというのに転移酔いがないのはやっぱりシエロの力のお陰なのだろう。
皆からの畏敬の眼差しにシエロはふふーんとどや顔だ。
「あ、あたしたちはいいけど、マーティンさん門を通らないと問題にならない?」
「あれから役人の入れ替えがありまして、しっかりと話せば大丈夫ですよ」
「それなら良かった」
マーティンさんが屋敷に入ってすぐに店の者に驚かれながら話をし、手形をもって店員さんが走っていった」
「あなた!」
「マリー様のお陰ですぐに戻って来れたよ」
「ああ、良かった。本当に…良かった」
奥さんもかなり心配していたのだろう。盗賊の心配もあるし、強制的に頑張って運んできた荷物を奪われそうになっていたのだから。
「マリー様、ありがとうございます。ありがとうございます」
「いいえ、乗り掛かった舟ですから。帰って来て早々ですけど、色々珍しいものが入ってるんです。試食してよかったら卸しますよ?」
まずは食べやすそうな魚たちと貝かな?鬼ダコもお勧めだけど、外国にはあの姿が悪魔に見えたなんて話もあった。村の人は・・・あたしが食べられるというのなら的な感じだから参考にならない。
とりあえずはと、剣山魚(白身)と一番槍魚(上の方白身と尻尾の方赤身)、カメレオン魚(白身魚)と鬼貝(茶色と白)を出してみる。
「こ、これは?!」
「精霊島で獲れた魚です。美味しいですよ」
「魔物、ですよね?」
「ええ、見た目は物騒ですけど、美味しいと思います。生でも食べられるものもありますが、そんな習慣ないと思うんでムニエルか、塩焼きがいいんじゃないですかね」
「生でも!・・・個人的には興味がありますが、受け入れられるかどうかはってところですよね」
「ええ、それに新鮮だからこそ生でもいいですが、時間が経てばすぐにダメになってしまうので、火を通すってことを徹底してもらった方がいいでしょうね。一先ず食べてみてもらいましょう」
とりだしたるは、出刃包丁。
一度解体しているのでスキルが発動するはずなので、素早く捌ける。この中で一番大きい剣山魚を三枚に下ろして塩焼きにする。網で焼くと美味しいけれど、流石に用意できない。仕方ないので鉄板で焼いた。
「さあ、どうぞ」
毒味をする意味でも自ら一切れ食べる。うん。お腹空いてたから美味しい。おにぎり食べたいな。流石にそれはないから、おにぎりにしてない炊いただけの釜ならあるから、この際ご飯装って食べちゃおう。
おもむろにお茶碗を出してご飯を装い出したあたしに、視線が集まった。
あ、ここは村じゃなかった。
「皆さんも一緒にお昼どうですか?」
護衛の皆さんは待ってましたとばかりに満面の笑顔と喜びの声が上がるが、マーティンさんは本当にいいのだろうかと迷っていた。それだけにみんなもこちらに来ようとしているのが止まる。
「遠慮されたらあたしが食べにくいのでどうぞ」
ご飯をよそう木の器を10個と、焼いた魚を乗せる器を10個出す。そして全部に魚とご飯を入れてみんなに配った。骨は全部取っているからフォークでも食べられるはずだ。
『僕も食べる』
シエロは何が食べたいの?貝?
『うん。バクっと食べやすい』
そうだね。
貝を鉄板に乗せて火を入れる。数分でパカっと空いたのでそこにバターを入れて、最後の仕上げに醤油を入れれば出来上がりだ。
直径60㎝ぐらい、厚みが15㎝ほどある大きな身を、シエロは熱さなど関係ないとばかりにぺろりと食べた。
『うん。美味しい』
「良かったね」
続きが欲しいという顔をするけど、バターの香りにやられてあたしのお腹は限界だ。先に食べる!
それをみたみんなも同じ思いだったようで、お皿をとって食べ始めた。
「美味しい」
魚を一口食べた感想が零れ出た。
「初めて食べたけど、旨いな」
「このご飯というのは、コマイに似ているが味はけた違いに違う」
「このご飯は米という品種で、精霊が作ったものなので美味しいですよ。これで作った酒が好きだからこそ作られた品種ですけど」
乾いた笑いで事実を告げるが、みんな顔が引きつった。
「精霊様が作った作物・・・」
ああ、そっちか。酒の為に作物作るのか、じゃないんだ。それなら良かった。
味わって食べてもらおう。
で、皆に食べてもらった結果、魚は美味しいから個人的には欲しいが、売るには馴染みがなさ過ぎて難しい(鮮度と扱い方)ということとで、新たに米を卸して欲しいと言われた。
まあ、確かにね。魚を在庫処分するには厳しいか。これは冷蔵庫のような魔道具を持っている貴族に販売するしかないね。
後は干物にするか。保存するなら缶詰にしてしまえば、いいんだけど。ドワーフの人に伝えて作れるならありだけど、難しいならなしで、自分たちが食べる分を作ろう。
そんなことを思いながら、昼食を食べ終えた。
読んで頂きありがとうございました。
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