153.魔王と聖女は紙一重
さてやってきました精霊島ファースト(仮)
先ほどまで普通の生態が行われていたはずの空気が一瞬にして変わった。あちらこちらかから、捕食してやろうと殺気が飛んでくる。今日はシャンスも長もいないから餌が来たと喜んでいるのだろう。残念・・・。あんたたちは捕食者じゃなく被食者。だけど安心して、気付かない間に意識がなくなっているから。
流石母さん。基本水系の攻撃だからあまり優位性がないにも関わらず、バッサリと切り倒してるよ。
うん。いいんだけどね。それ調理するの大変だよ?
せめて関節から切り倒してくれないかな。
「エディ。貝たちは酸を飛ばす前に口を開けたら、こじ開けて。蟹たちはまず鋏を切り落としてから戦うといいよ。ヒトデは口を狙って串刺しに」
最近使いこなせてきたミスリルの槍で間合いを取りながらうまく戦っている。
「ちょっとマリー。先にそれを言ってよ」
「いやいやいや、母さんいきなりバッサリ行っちゃったじゃん。あたしたちの食材になる前に、他の生物の餌になってるし」
蟹味噌とか飛び散ってるから、これ幸いとばかりに砂浜の中に隠れているモノたちが出てきた。
ほーほー。餌をばらまいておびき出すのもありか?いや、それはいろんなものが出てき過ぎてダメだな。
砂浜が大渋滞を起こしてきた。ここは一度砂浜をクリアにしたい。
「ごめん、皆下がって。一度全部倒すから」
自分以外居なかったら水かけて一気に電気流したいところだけど、それやると母さんが危険だよね。水纏ってるし。
分けて倒すことにして小さい雷を落としまくった。
エディにカッコいいから教えて欲しいと言われたが、電気の理論を話せるほど知識ない。理数系は苦手だったのだ。じゃあ、文系かと言われたらそれも微妙だけど。
あたしの場合、チート(全属性)ならではでの力技だったりするのだ。あ、でも地の精と空の精と契約しているエディなら、帯電と摩擦が理解出来たらいけるかも?行けるよね?コツをつかむまで、バチバチと痛い思いするかもしれないけど。
「食材が食べられる!」
母さんの声に、我に返った。うわぁ、二陣が出てきて食べているものと向かってきているものがいる。取りあえず片っ端からリュックに詰め込んでいこう。倒しながらドンドン入れていく。食材とか言ってる場合じゃないときは、ざっくりといっちゃって、父さん。
自慢の斧を振り回してちょうだい。
前回よりひどい島の歓迎を受け、疲労困憊になりながら倒した結果、リュックの中身が酷いことになっている。
決めた。ボルテモンテの町に売りつけに行こう。きっといいように捌いて貰える。カランキ村にも研修生たちが向かうなら、そこでも売って貰ってもいいかな。正直あそこの村で商売が出来るならこれからも行き来すればいいし、上から来るようなら、…バッサリ断ち切ればいい。
もしするとしたら流石に生では無理だから、干物かな。まあ・・・商売になるならないは、一緒に行った大人に判断してもらえばいいかな。
「マリー、あと少し」
「あ、うん。わかってる」
ちょ―――――とだけ、現実逃避してた。もういい加減にしてもらおうか。
杖を出してかなりの魔力を練る。海に向かってドラゴン並みの威圧をした。
おお!効果覿面。早くこれをやればよかったよ。
Aランク以下はこれで心の臓止まってるし、拾うだけ。震えているAランクだけ個別に倒して終了だ。これでしばらくは誰も近寄って来ないだろう。
「マリー、あなた何したの?」
「ん?ドラゴン並みの威圧を放ったよ。母さんたちは結界の魔石持ってるし、何も感じなかったと思うけど」
「・・・そう。一瞬あなたが魔王に見えたわ」
「ええええ―――――――ッ。一応聖女なのに?」
「何事も紙一重ね」
母さんの一言は確かにこの世界の真理だけども。娘に言わなくってもいいじゃん?
でも、まあ、大事なことだから胸には刻んでおこう。
「それより海に浮かんだやつ、どうしよう」
海に向かって放ったから、たまたま顔を出して奴なのか、こっちに向かってこようと思った奴なのか、わからないけど。
――結構な数が浮かんでる。貝やタコやヒトデばかりよりは魔物とはいえ、魚あったらいいよね。
「シャンス連れてくる」
一度戻ってすぐに連れて戻ってきた。
「海に浮かんでるの回収、お願い」
『わかった!あ、おいしいヤツがいる』
いきなり鬼ダコに行ったよ。噛み応えもあって好きだったんだね。
「アレ、美味しいの?」
「あ、うん。試食したけどいい感じだったよ」
「じゃあ、お昼アレにする」
「あ、はい」
お昼がどうやら決定したようだ。
この人数で食べるなら、タコ飯と天ぷらかな?
鍋を出して米を入れる。研いだところに醤油と酒、出汁の元をいれ生姜を二欠片。水を入れて調節したら薄くスライスしたタコをその上から投入。食べていた量からすればかなり多いけど、気にしない。
火の番が上手なエディにタコ飯は頼み、あたしは鍋に油を入れてあげる予定の足たちを、食べやすい大きさに切っていった。
母さんには小麦粉に水を入れて溶いて貰う。出来たらそこに切ったタコを全部投入。入れ物から溢れているのは気にしない。衣がつかなかったらこの際素揚げでもいいよ。既に疲れているから食べられたらいい、そんなレベルになっているのだ。
それにしてもあたし、頑丈。あれだけのことやったら倒れるよね、普通。ちょっと昔までは倒れてたのに、成長したもんだ。(実際は杖のお陰で半分も使ってない)
もうベルトコンベアーのように流れ作業で揚げていく。良い匂いがしているのに、油だけで満腹になるのは・・・どこかでもやった覚えが。
「母さん、変わって」
揚げられたタコを皿に盛りながら、軽く塩を振っていった。
「これ、お腹空くわね」
母さんとあたしの胃袋。大きさだけじゃない、丈夫さが違う気がする。あたしの胃、良くみぞおちを抑えている父さんに似たのかな。
作り始めて30分ぐらいで全部出来上がったので、大皿に盛られたタコの天ぷらたちを囲むように、タコ飯を装って食べる。
「「いただきます」」
ご飯はまあ、適当に作ったにはいい感じ。ちょっと水の量が多かったかな、柔らかい。タコ飯の評価をしている間に、天ぷらが目の前からどんどんなくなっていく。シャンスも呼んでたんだった!
取りあえず頑張った分は食べてみないと。
自分の分を3つほど確保。かじってみれば昨日焙ったよりもプリプリ度が上がっているようで、噛んだ瞬間から美味しいと思えた。酒のツマミになるね、これ。
父さんのホクホク顔に確信した。
読んで頂き、ありがとうございました。
次…いつになるかドキドキ




