14.火の精の加護と名付け、そしてつらい過去
後半少しシリアスですが、この回だけです。
精霊の万能薬を完食した後皆一瞬心を手放していたが、すぐに乾いた笑いをしながらもあちこち体を動かし始めた。
「これは凄い」
「ええ、全盛期と同じぐらいの力を感じるわ」
「俺、もう一回森に行ってきてもいい?!」
三人が三人ともにパワーが漲っているらしく、椅子に座っているのが落ち着かないようだ。
「あたし、元気だよ。村てつだったほうがいいんじゃない?」
それでも父と母はマリーを一人にするのはと渋っていたが、卵の周りにいる精霊たちがいるから大丈夫だと言い切った。村人が一丸となってお酒造りをしているのに、言いだしっぺの我が家全員がここにいるのは、落ち着かない。
「何かあれば、テーレがいる」
「テーレ、今日はここにマリーといるよ」
しばらく悩んだ末に、家から出ないという約束のもと三人は手伝いに行くことになった。
「何かあったら、すぐに呼ぶのよ?」
「絶対に家を出るな」
「わかってる」
「いってらっしゃい!」
本音を言えばあたしも三人と同じように動き回りたい。だけど最近は心配をかけてばかりなので、大人しくすることにした。
それにしても流石だだね、この精霊の万能薬。二日も寝込んでいたなんて信じられないぐらい、お腹の中からとても温かいものを感じる。
思わずお腹をさすった。
・・・・・・。
この世界がいくらファンタジーで、ここが魔境化したとしても、流石にね。
5歳児ではないね。うん、ない。
だったらこの活力が湧きだしてくるような、この熱はなんだろか。
『加護をやったんだ。だからもういいよな?』
ん?誰?
膝をトントンされたので、見ると火の精とばっちりと目が合った。お腹をさすりながらも、無意識に火の精を抱きしめていたらしい。
「いいってなにが?」
『とぼけるな。俺をさっさと離せ!加護をやったんだから、寒くないだろ』
何を言っているのか、この火の精様は・・・。チッチッチ!わかってないな~。
寒いから毛布代わりにしてるってわけじゃない。モフりたいからモフってるだけで、求めていたもふもふをそんなことで、手放すとでも?
『なんだと?!』
なんでそんなに驚くかな?そこに魅惑的なもふもふがあるのに、触らないとかありえないでしょ!人生の半分以上損する。そんな寂しい人生を送れるはずがない!!
前世では忙しくてペットは飼えなかったし、動物の毛でアレルギー出るし、猫カフェにマスクして行かないといけなくて、怖がって猫が寄って来てくれないし、ずっとネットで映像ばかり見るしかなかったあたしに、チャンスが訪れたというのに、それをなかったことにするなんて、絶対にありえない!ありえないんだよ!!
『わ、わかった、わかったから、落ち着け』
「じゃあ、だっこいいよね?」
『・・・ああ』
勝った!
腕の中で心なしかぐったりしている火の精に頬ずりして、ちょっと落ち着いた。
それにしてもこの火の精は他の森の精や水の精と違って個性的だし、他の火の精より体も大きいが、額にある宝石が大きく深紅で美しい。始めに来たのだってこの子だけだったし、何が違うのかな?
『おお!良くわかったな!ここにいる他の精霊たちは生まれたての下位精霊が多い。『水』は色が濃いほど長く生きている。俺をここに連れてきた精霊や俺様は中位精霊だ』
もしかしてあたしにスキル「熟成」を付与した水の精かな?一人だけ動きが違っていたのは、そういうことか。なんか納得。
「なまえはあるの?」
『・・・ない』
「じゃあ、名前をつけてもいい?」
その問いが答えられるのに、少し間があった。
ダメなのかと残念に思っていたら、小さく呟くような二文字が聞こえてきた。
『・・・・・・ぁぁ』
良かった、密かに考えてたんだ。
「リュビ、どうかな?」
「リュビ、俺はリュビ」
リュビとカチッと繋がった途端に流れてくる記憶に、マリーは頭を抱え声にならない悲鳴を上げのけぞった。
あああああああああああああああああああっ!!
なんで、どうして、そんなこと、そんな酷いこと!!
痛い、苦しい、辛い、つらい、きつい、絶望。
仲間の儚く消えていく命に成す術もなく、悲しみ嘆きながらもただ逃げ惑うしかなかったリュビの奥底にあった記憶。
ただの下級精霊では出来ることが限られていて、自分を守ることしかできなかった後悔。
額にある宝石を手に入れるために仲間の命を刈るだけの人間を憎みながらも、人間とともに生きることで力を得る自分の性を呪い、森の奥深く僅かに残った仲間と閉じこもって生きてきた100年間。
ただ、何も見ない聞かない、知らなければこれ以上悲しむことはない。ただひたすらに無になることに意識してきたが、それにも疲れていた。
世界の摂理に逆らって消えていくことを望み始めたとき、水の精がやってきてその闇を払った。
『サクレが蘇った!『森』が生まれた。『森』が僕を呼びに来たんだ。サクレも『水』を認めてくれた。サクレが加護を与えた子の近くはとても楽しいよ!変わった魂の輝きを放っていて、もふもふチートしたい!なんて変なこと言ってるけど、きっと君に力をくれる。だから明るいところに行こう!君は世界に灯をともす案内人だろ?』
水の精の声に導かれるままこの村にやってきたリュビ。
サクレが放つ浄化の魔力に包まれ活気に溢れた村は、仲間たちと過ごした賑やかな時を思い出せたようで、目に光を宿らせた。
そして久しぶりに魔力を回復させ放つことで、本来の火の精に戻っていった。その結果火の玉をあげたことで、他の精とのイリュージョンになった。
「リュビ!リュビ!ごめん。ごめんね・・・・・・」
一緒に生きることを選ばず、自分だけの力を欲した愚かで短慮な人間を許して。
精霊王がその状況に嘆き苦しみ悲しみ切なさを抱えたまま、穢れない純白の毛が深紅になり、森を魔に染め燃え尽きるように大気に溶け込んでしまったのは、人間のせい。
決して火の精たちのせいじゃない。
マリーはリュビの額にあるルビーに自分の額を付けた。
『リュビ、あなたに誓う。あたしの命が尽きるまで、あなたと共に生きることを。サクレを増やしてまずはこの村を精霊たちの聖域にしてみせる。あたしがいた世界ではサクレに似た木が合ってね、『サクラ』と呼ばれていたの。最古のサクラは2000年も生きて花を咲かせて、厳かながらも優しく幸せな気持ちにさせてくれるのよ。サクレにも絶対に花を咲かせるから、力を貸してくれる?』
「仕方ないな。マリーは泣き虫だから、この俺様のふさふさで暖かなもふもふが必要なんだろ」
「・・・ふふふふっ、リュビわかってる」
先ほどまで流れ出ていた辛い記憶は見えなくなり、額の宝石はさらに輝きを増し色も変化していた。
お互いの信頼の証であった。
それはまるでマリーの髪の毛の色(暗い青みかかった緑色の髪の毛でベルベッドのような艶のある髪)とリュビの宝石の深紅が混ざりあい、溶け込んだような色。まさに変色特性のあるアレキサンドライトのようだ。
のちに幼聖の双精といわれる精霊の一人なり、マリーに仇をなす者には容赦しない『攻のリュビ』誕生の瞬間であった。
今はまだ100年間の想いを浄火させるために、マリーの腕の中で眠りにつくのであった。
「テーレ・・・」
「マリーは私が絶対に守るよ。だから、サクレに花を咲かせて」
「うん。せいれい王のきかんをねがうために、村人とせいれいたちといっしょにお花見することが大事なんだよね?その時のためにお酒がひつよう、であってる?」
「あってる、あってるよ。『地』はたぶんすぐ見つかる。だけど『空』は自由な気質な上、精霊王を失わせた人間を一番恨み憎んでいる。『空』を見つけるために、ちょっと怖い目にあう可能性があるけど、大丈夫だからね! マリーはテーレが守るよ!」
「うん」
「だから、大丈夫からね?」
・・・それ、なんのフラグ?
まさか、まさかだよね?
「大丈夫!」
親指を立てられても、ね。
「怖くない、怖くない」
え、え、え?
マリーは転生前、地面が見える階段が下りれないほどの高所恐怖症だった。
本当に?
思わずリュビを抱きしめた。
テーレが落ち込むマリーを励ますために大袈裟に言ったのか、はたまた事実なのかはほどなく先に知ることになる。