145.いざ、実食!
家に戻って見れば、テーブルに置いてあったチョコレートは既になくなっていた。その代わりにテーブルに所狭しに並べているクッキーの山、この話が村中に広まったことを意味している。
まあ、いいけど。エディたちが作ったクッキーはかなり日持ちがするように作られているから、非常食用にもなると思うし、これから旅に出る子たちに持たせてあげればいいし、これを売ったら飛ぶようになくなるだろうね。チョコは絶対に外に出さないけど。
このまま何も言わずに一週間様子を見てみよう。下火にならないようなら、チョコとクッキーのデメリットも話してしまおう。
『太るよ』と。
夕食の時にはチョコの話題はなかった。取りあえず自分たちは食べられたから落ち着いたのかもしれない。まだ安心はできない。
「父さん、明日は午後からアリアが教えてくれた島に行こうと思う。とても新鮮なお魚も取れるみたいだから、シャンスと行ってくるね」
『我も行く』
長も来てくれるなら助かるよ。網投げて引っ張ってもらいたいから。
『魚は久しぶりだから、楽しみだ』
「魚か。滅多に食べられないからな。それは楽しみだ。午前中はどうするんだ?」
「アマンダに網を作ってもらおうと思って」
「網?漁をする為のか?」
「そうそう、小さい魚は必要ないし、普通の魚が獲れるとは思えないから、縄で編んでもらおうかと思って。その上で縄を噛み切られないようにソルに加工して貰ったらいいかなと」
「そうだな。魚はこの辺りで獲る者がいないから、かなりの大きさになるだろう」
「うん。そう思う。そしてある程度島のこと分かって安全確認が取れたら、皆で遠足に行けたらいいなって」
「「遠足?!」」
「この村から出たことがない人ばかりでしょ?だからね。気晴らしというか、遊び(レクリエーション)にみんなで行けたらって。そんで、もし狩人や木こり、畑をメインでしていた人とか、漁師になりたいという人がいたらそれもいいかなとも思うの。魚っていろんな可能性があってね。獲るだけでなく加工も出来ると、保存食にも出汁にもなるし、可能性が広がると思うんだ」
「・・・そうか。そうだな。まあ、色々と問題はあるが、どうにかなるんだろう」
「えへへへ」
なるね。転移門作ろうと思えば作れると思うし。ただ、それは最終手段で、ちゃんと道を作ろうと思ってるよ。その道を通るのは、魔道車にするけど。やりすぎ?でもね。安全第一だと思うんだ。島に渡る為の船も作る気満々だけど。場所によっては橋がいいのかな?そこは行ってから決めたんでいいや。
魚がみんなの生活に浸透したら、漁師になりたいという人も出てくるだろうし、可能性が広がる。いつまでも鎖国状態でいいわけじゃないけど、自国(精霊村)だけで生活できた方がもしもの時を考えればいいしね。
ということで、明日の朝はアマンダのところだ。
お願いをするのだから、ここは手土産にやっぱりチョコかな。
「アマンダ!網作って!」
チョコを突き出しながら言えば、物凄く爆笑された。
「マリーらしい頼み方。有難くいただくね」
狩人のおじさんに縄を貰いに行くと、罠を作る為の網の編み方があるというので、教えてもらった。報酬は獲った魚でいいとサムズアップされた。おじさんまで使ってくれるようになったのか。浸透したもんだ。ジーンと浸っていたら、アマンダに早く作るわよと、急かされた。アマンダも初の海魚に興味津々らしい。
「おじさん、ありがとー。きっと日本酒と合うよ」
後で森の精にワサビを言っておかないと。
アマンダの家に戻ると速攻で作ってくれる。きっと裁縫スキルとかあるんだろうなと思われる神業。あたしの画伯的な絵で素敵な服が作れるはずだ。是非弟子を育てて欲しい。
アマンダが2つ目を作り始めるとソルを始め地の精たちが集まってきた。どうやら新しいものにワクワクしているようだ。
「ソルも今回一緒に行こうか。以前作った魔導車みたいに魔石で動く、海に浮かべる船というものが欲しいんだ。見てもらった方が分かると思うから」
『行く』
あたしは?僕は?と言わんばかりに精霊が集まってきたので、全員で行くことにした。聖女の森みたいに整備してもらうのもありだろう。クロに手伝って貰って鑑定しても誰の土地でもなさそうだし、精霊村避暑地にでもすればいい。
アマンダが作った網3つに地の精たちの加工が終わったところで、皆の気合が伝わってくる。お昼ご飯食べてから行くつもりだったんだけど、これは仕方ないか。お昼までに時間あるから、一度行って様子見てから戻って来てもいいかな。
じゃあ、行きましょうか。
シエロが連れていくと張り切るので、シエロに乗って森を超える。正直まだ高いところは得意じゃないけど、精霊村の周りを実際に見ておくのは大事だからと使命で飛んでいる。
ソルとリュビはあたしと一緒にシエロに、クロは長に乗り、シンは自分で飛んで、テーレがグンミを抱き上げてシャンスに乗った。いつもは転移なので、ちょっと新鮮だ。
始めの30分ぐらいはまだ良かった。だけど目に入るのが森ばかりだと疲れてくるし、お腹も空いたし眠くなる。そうだよね。飛行機でさえそれなりの時間がかかるのだ。目標まで約300㎞と出たところで考えを改めれば良かった。障害物の無い自由な空でさえ300㎞。森の中を通れば魔物もいるし、道なき道ばかり。時間はかかるし、距離もさらに増える。人力では絶対に無理だ。これが知れただけでもいいんじゃないだろうか。便利に慣れ過ぎたあたしの感覚では、一時間半経った今、ちょっと限界。
軟弱でごめん。シエロに転移で島に向かってもらった。時間がるときに島から戻ってみればいい。
綺麗な砂浜に降り立ったあたしたち。あたしはその場に座り込んだ。サラサラとした砂がおしりに優しい。そして流れてくる波の音に懐かしい独特の磯の香。そして見渡す限り砂浜と澄んだ海と空のコンストラストに目を奪われる。
綺麗だなぁ。
――ッ。
もう少し感動させておいてくれよ!
今あたしの目の前に出てきたことを後悔するがいい!
うわぁぁぁぁ。よく見れば目が三つあるけど真ん中ってどこよ!まあ行ってしまえ。
ドーン
小さい雷一つ落とせば、パタッと倒れた。
ウム。
鑑定してみればはさみの部分は生でOK。本体は魔石があるし、魔素の関係で茹でた方がいいとでた。蟹みそも生でなければいい。甲羅はいい出汁にもなるようだけど、盾(物理、水耐性に優れている)にも出来る。中々万能だった。蟹みそはおこちゃまなあたしは好きじゃないので、おじさんに上げよう。きっと喜ぶ。
先ほどの音が引き金か、出てくるわ出てくる、わらわらと。
先ほど倒した鬼蟹(Bランク)鬼ヒトデ(Cランク)鬼ヤドカリ(Bランク)、鬼貝(Cランク)。
遠距離攻撃が出来るあたしたちにとっては倒すのは簡単だけど、触れたら痺れたり、液や毒を吐かれたりと短剣使いには厳しい魔物が多かった。それぞれが協力し合ってガンガン倒していく。落ち着いたころには砂浜はみえず、全て倒したもので埋め尽くされていた。
疲れたはずだ。
全部取りあえず収納する。お昼はとっくにすぎたと思われるので、一度帰ることにした。精霊たちは島を探索するというので島に残り、蟹が食べたいシャンスと長だけがあたしと一緒に戻る。
「ただ今・・・」
「遅かったわね」
「うん。取りあえずこれ解体してくれない?」
「なに、これ」
「ん、鬼蟹。鋏の部分は生でもよくって、他は全部一度火を通す。焼くか茹でるか。お腹のところにある味噌は、酒のツマミに使うと美味しいらしいよ。長とシャンスが食べたいって帰ってきたの」
「面倒だから、はさみの部分だけ落として、全部一気に茹でちゃおうか。それから身を崩せばいいし。うんそうしよう」
「母さん、お母さん!聞いてる?」
「これを茹でればいいのね?」
「そう、お願い」
どうやら初めて見るモノにどうしたいいのか戸惑ったみたいだ。あたしが出来ればいいんだけど、本体だけであたしの背をはるかに凌駕する2M近くあれば、無理というもの。
長に縮小してもらっても良かったのだけど、実物大を一度は見ておいてもらいたいしね。
さて、この世界の蟹の味は如何に!