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138.精霊村は今日も平和です

新しくやって来た子供たちもサンに連れられて広場に集まった。初めて見る人の多さに固まっていたが、精霊達が興味深そうに子供たちの周りで遊ぶので、すぐに気がまぎれた様だ。キャーキャーいいながら、遊んでいる。その内、契約できる子も出てくるだろう。

ただ、ボルテモンテからきた子供たちは、種族によって魔力をあまり持たない者がいる。精霊村では契約さえできれば精霊が代わりに行使してくれる。要は相性とノリだ。

もっともここを出てしまえば代価が必要になるのは、仕方ない。魔力を持つ者は魔力を渡し、無い者はそれに代わるものだ。ここの精霊たちは魔素を含んだ美味しい物が、それにあたる。ここで出来た果物や、美味しい魔物の肉、砂糖や果物で作った甘いお菓子などだ。その内子供たちに簡単なクッキーの作り方を教えてもいいかも。焼くのは大人がすればいいし、子供用のオーブンを作ってもいい。

ほのぼのとその様子をみていたら、村の中が騒がしくなった。

『マリー、もうすぐ着く』


「え、グラン?」


どうやらひこちゃんが到着するのを察したコッコたちが、お出迎えに門まで行ったようだ。それにしても、早くない?予定は明日だったよね?


「父さん、ひこちゃんとあの三人が戻ってくるみたい」


その言葉に反応した親たちも、嬉しそうにコッコたちがいる場所まで迎えに行く。あの子達の帰還もかねてお祝いできるのは、いいことだ。(ちょっとだけ、あの子達のことを忘れてたと言ったら怒られそうだけど、予定外のことが起こりすぎたんだよと心の中で言い訳しておく)もしかしたら、狂牛のことを嗅ぎ分けてひこちゃん、マッハで帰ってきたとか?ちょっとありえそうで、笑えない。その場合、三人は目を回して帰ってくるかも。


あたしの予想は当たっていたようで、番のぴぃちゃんから一緒に食べようというお誘いの元、気合入れて帰って来てた。ぴぃちゃんに一番に(首と首をすり合わせる)挨拶した後、そのままあたしに突進してきた。

『僕を忘れるなんてひどいよ』

頭をあたしの体いっぱいに擦り付ける。早く撫でて褒めろという合図だ。

「ごめん、て・・・」

子供の体では完全に力負け。仰け反って尻もちついてもそれは終わらない。頭を抱き込んで体全体で褒めてやれば、やっと納得したのか、動きを止めた。

ひこちゃんに繋いであった荷馬車にいる三人は無事だろうか。この隙にと親たちが救出に乗り出した。

ビアスとカーヤは流石冒険者見習い。パワーアップしてたのもあって、ふら付きながらも自力で出てきた。問題だったのはヨハン。完全に目を回して床に転がっていた。


「ヨハンに果実水ポーション飲ませてあげて」


何もともあれ、ひこちゃんが居たとはいえ、帰りは子供たちだけで帰ってきた。少しばかり精悍になった顔つきに、本当に良かったと思えた。次に行くメンバーはもう決まっているようなので、話し合いの後いつ出発するのかが決まる。出来れば早い方が、混乱がなくていいと思う。あの国の決定がどんなものになるかわからないが、行く人が理不尽な目に合わないようにしたい。持って行った干し肉が正しく民に渡ることを祈りたい。


ヨハンが目を覚ましたところで、三人が無事戻ってきたことをみんなの前で宣言された。それを皮切りに宴会の準備途中だというのに、乾杯が行われてしまえばもうそれは宴の始まりだ。

酒を飲みながら火を起こす大人たちと一緒に、子供たちも切られた野菜たちを鉄板のプレートに並べる。パンを配る子もいれば、スープを配る子もいる。自分たちも乾杯がしたいとコップを片手に飲み物を入れ、周りに居る子たちと木のコップをカツンと合わせていく。喧騒が大きくなっていけば、精霊達も一緒に騒ぐ。自分たちにも何かくれと纏わりつき、キャッキャと楽しそうな声が響いた。

みんなバラバラなことをしているように見えるのに、宴会慣れしている大人たちが仕切っているお陰で、熱くなったプレートでやけどをする子も、一人でポツンとしている子もいない。


それにしてもお肉が無くなるのが早い。みんなどれだけ飢えてるの?一番初めに出したお肉は確か暴れ牛だったはず。それらが無くなったら狂牛になる予定で。

あ、もしかしてそれが食べたいから勢いよく食べてるの?

まあ、それもあるけど、この雰囲気かもね。みんなで食べると食事は美味しい。

あの三人は特に、痛感したはず。今は旅の話を強請られて、みんなに旅での出来事を話している。三人の武勇伝に、キラキラした目で小さな子達が見ているのが微笑ましい。


目の前の情景を他の者が見れば、この村は桃源郷にしか見えないだろう。まさしく理想の村。時代の唸りに変化していくだろうこの村の、幸せが出来るだけ長く続きますように。

そんなことを思わずにはいられない。


『ねえ、クロ・・・』

『なんだ?』

『この村が巻き込まれそうになったら教えてね』

『心配するな。この結界を突破できる者は、いない』

『やっぱり?』

『ドラゴンとフェンリルの長が暴れても壊れない』


きっとこれを聞いたあたしの意図を分かってクロは答えてくれる。深く繋がっている糸は断ち切れることはない。本気であたしが知りたいと思うことは、いつだって知れるのだ。だけどそれをわざとしない。この世界が業火に見舞われた時は、容赦なく杖を発動すると思うけど。


マグナミンスター教国は教会で神父が神託を受けられる人がいる。だからあたしが関わっている時点で、静観する気がする。

問題はアルバンティス王国の北にあるルーレッセ連邦がどう動くか、かな。どんな国なのかもわからないから、見守るしかないけど。


『マリー、大丈夫だ。何かあれば我らがいる。今は精気を養え』

『うん。ありがとう』


「マリー!お肉出して!」

「もうないの?」

「シャンスが食べた!」

「じゃあ、出すからみんな各自で焼いてね」


精霊村は今日も平和です。





読んで頂きありがとうございました。

最近は何しても眠い。

二度寝が危険な今日この頃です。


ブックマークありがとうございました。

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