137.今更だけど
パオロさんは空を見上げていた顔を戻して、あたしの顔を見た。
「・・・・・・、この地が人の手によって再生され始めた時に、その地の者がするべきだろう」
「そうですね」
まさかここまで壊滅的だとは思ってなかったのだと思う。あの国の対応が決まればもう少し動けるのかな?と思ったところで、あの国のことは周りの国が決めればいいけど、この国はもうないものとされてるんだよね?属国扱いで近くの村などは摂取だけされてるんだっけ?
謎が増えた。
「ねえ、パオロさん。この国の扱いって対外的にはどうなってたの?」
「塩湖のように、アルバンティス王国が好き勝手してたのでは、ないだろうか」
「ですよねー」
ここで静かに見守っていた父さんが口を開いた。
「マリー、何を考えているのかわかるが、一度戻ろう」
ですよねー。先ほどまで空気のようだった父さんなら、そう言うと思った。今回はあたしもそう思ったし、頭を整理するために戻った方がいい。
「じゃあ、カイルさんたちはどうしよう。このままはちょっと落ち着かない。浄火で灰にしてこの地で弔って、遺品だけ村で保管する?村で全部弔う?」
「ああ、それがあったか。――そうだな。パオロさん、この国の行く末も決まっていないし、一度村で弔って決まった後にこの地で埋葬するのはどうだろうか。カイルさんは一度浄化されているし、魂は安寧を得ていると思うが・・・」
「――いいのだろうか。カイルは村に何の所縁もない」
「パウロさんの縁者だ。これも何かの縁だろう。あの地を浄化した時点で、マリーが関わらないはずがない」
父さん、当たり!流石だ!!
そうだね、という意思表示をするように、うんうんと頷いておく。
「では、そのようにお願いしたい。・・・ありがとう」
いい感じにまとまったところで、村へと戻った。希望的観測でしかなかったからあの場では声にしなかったけれど、逃げ延びた人はそれなりにいたのではないかと思う。徹底的に戦ったと思われる跡地の地下には、大きな空洞があった。それはアリの巣のように長いラインが森へと続いていた。ドラゴンさんたちが居なくなった時に森も変貌したから、違う場所に移動したと思う。地下に大きな生き物の存在は感じられなかったから。
これも追々かな。
一人でするには手が足りなさ過ぎるけど、誰かにしてもらうには危険すぎる。精霊村に戻って来ている三人が到着したら、グランとグレイトで偵察に行って貰うのもいいかな。
『精霊達に頼んだら早いと思うよ』
脳内に響くシエロの声。
『力を行使しないでそこにあるだけなら、木々や水はどこにでもあるし火を皆使う。地は繋がっているし、この星全ての空は繋がっている。光ある限り闇はあるのだから、マリーが本気で知りたいと思ったら、知らないことはなくなるよ』
ああ・・・それは正直、どこかで思ったことはある。だけどそれは精霊王の在り方であって、あたしの生き方じゃない。人間を超えたいわけじゃないのだ。シエロからすればそれは今更な気もするし、能力でいえば杖を持った時点で超えているけど、ね。
『マリーらしいね。だけど杖に精霊王が祝福した時点で、精霊王の代理を任命されてるんだから、ホント、今更じゃない?』
な、ん、で、す、と!!
『精霊王が祝福した最高級のダイヤが付いた杖とか、誰が持ってるの』
知ってた。
知ってたけど、知りたくなかったよ。
行使できる権限が大きすぎる。10歳が持ってていいものじゃないよね。今更だけど。
『今更だね』
追い打ちをかけるように、事実を突きつけられた。
『命令が嫌なら、お願いって形で言えばいいし、取りまとめはクロにお願いしたらいいと思うよ。精霊王を取り込んでた元魔王なんだし』
なんだか今日はシエロがカッコいい。
『僕も日々成長してるんだよ。神の御使いだしね』
確かに。人間でいう常識はともかく、(あたしも怪しいけど)この世界ではシエロもクロもハイスペックだった。
じゃあ、クロにお願いしようかな。知っておいた方が動きやすいし、相談しやすい。知らなかったことで、この村が巻き込まれたくない。
皆への依頼として狂牛を振舞ったらいいかな?
『『いいよー』』
シエロとの会話を聞いてたと思われるあちこちから、了承の意が飛んできた。これはパオロさんを含めて弔いと、長達と精霊達を労う宴会が必要だね。
「父さん、カイルさん達を弔う為と、長や精霊達を労わる宴会をしたいので、牛さん解体して欲しい」
「それはいいことだと思うが、あれを父さん一人では難しいぞ」
「それがね。いい方法をドラゴンの長に教えてもらったんだ」
フェンリルの長を呼び出し、宴会のことを伝えたら大喜びで狂牛の縮小をしてくれた。解体後は勿論更にテンション上がって元の大きさにする。
長・・・シャンス、涎ヤバいよ。かからないようにもう少し下がってくれないかな?
母さんもエディも目を輝かせて、部位ごとに肉を分けていく。いずれドラゴンの長にも振るわなければいけないと思うので、結局3頭捌いた。3頭捌いた後は全部で1頭ほどの大きさとなったが、どれぐらいもつかな。
だってまだあたし何をやるとか言ってないのに、やる気満々の精霊達が家を取り囲んでいるとか、なんだろうね。可愛いはずの精霊達なのに、ちょっとしたホラーだよ。
これはもう村の人全部巻き込んで宴会にしよう。ここに来たばかりの子供たちも巻き込んで一緒に騒げば、顔つなぎも出来る。
そう強く念じれば、あっと言う間に精霊達に伝播した。精霊達からの伝達を聞いた村の人たちは、手が空いた者から続々と広場に集まり準備に入った。
精霊を相棒としていないものでも顔見知りの者たちが伝えれば、それが当たり前のように伝わっている。
みんな、宴会好きだよね。
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