135.現実逃避終了と報告
精霊村に戻ったが、当然先ほどの騒ぎは伝わっているわけもなく、平和なものだ。最近は元の村にいた子供の2.5倍の子供が増えたから、賑やかさは半端ない。だけどその子供たちの声が響くというのは、平和の象徴なんだなぁとしみじみ思う。もう少ししたら公園のブランコの数や、遊具を増やすのもいい。アスレチックのようになっている避難場所も教えておかないとねぇ。
―――現実逃避終了。
あたしの顔を見て、今度は何をしたのだと顔に書いてある父さんがやってきたからだ。パオロさんも一緒なら丁度良かった。
「えーとね。二人に相談というか報告があるんだ。多分アシルさんを巻きこまないとダメな案件じゃないかと」
「聞きたくないが、聞かないとダメなのだろうな」
「・・・残念ながら、間違いなく」
「・・・で、なんだ?」
「ものすごく端折って話せば、アルバンティス王国がなくなった?変わる?よって話」
「「・・・・・・・・・・・」」
絶句して固まっている二人に、いきさつを話す。多分、聞こえているはずだ。
「ドラゴンの長が元いた山に狂牛がいるというので、フェンリルの長とシエロで狩りに言ったんだけど、アルバンティス王国が滅ぼしたツェルスト公国の将軍がリッチになって地竜と一緒にスタンビート起こしていた。それをみた三人は、仕方なく止めたまでは良かったのだけど、あの国だからね。三人を怒らせたみたいで、シエロのジャッジメントを発動させて黙らせた。丁度あの国に攻め入っていた他国の兵と、アルバンティス王国の民が協力してクーデター起こしたよ。というのが、長達の言う内容」
「で、それを聞いた時に、ゾンビが増えるのはまずいと思って、あたしが半径15kmほど浄化したよ。まあ、ちょっとばかり最後は釘を刺してきたけど。取りあえず、近隣諸国に色々影響及ぼすので、お知らせしとこうと思って。この村にとったらあまり関係ないことだけど、パオロさんとアシルさんは気になるだろうなって」
「あ、その地竜とツェルスト公国の将軍さん、その側近達だろうと思う人の遺品も引き上げてきたよ。遺族が分かれば返してあげたいし、難しければツェルスト公国跡地に埋葬してあげたらと思う。その土地が大変なことになっているのなら、はなむけにその地を浄化してあげようかとも思う」
「どうする?」
「・・・マリー殿。ツェルスト公国の将軍がリッチになっていたというのは」
「実際あたしが見たわけじゃないよ。だけどドラゴンの長、フェンリルの長が暴れて、シエロのジャッジメントどれでどうなったのかはわからない。だけど形あるもの、無いものに関係なく、全てを無に還す劫火の浄化をする前に、引っ掛かったのが地竜とリッチのなれの果てだった。そこに在ったモノ全て天へと還ったから、彷徨う魂はもういないよ」
「そうか。天へと還ったか」
多分財務大臣なんて役職にいた人だ。面識があったとしてもおかしくない。知り合いが戦争という名の奪略で亡くなり、その後がきになるのは当然だと思う。憎悪に満ちたまま知り合いがリッチとして彷徨っている、という報告じゃなくて良かったと思うけど、それでも思うことはあるだろう。少しばかり丁寧な言葉で聞く。
「その方の縁者をご存じですか?」
「縁者、・・・その者も、既に土に還っている」
「では、この村で見送りますか?」
「・・・いや、縁者も眠る・・・場所へ・・・大バカ者だ、カイル」
その後は嗚咽をもらし、パオロはそのまま膝から崩れ去った。
パオロが落ち着いた後に父さんと一緒に聞いた話だと、その将軍はカイル・ジャカール。パオロさんの娘さんのお婿さんだったそうだ。ツェルスト公国が攻められているというのを聞き、パオロさんは援軍を送るべきだと進言した。
『あの国を調子づかせてはならない』と。
だけどその声は周りの反対により、聞き届けられることはなかった。自分たちの利権を守りたい者たちは、援軍に出すよりも自国の防衛に力を入れるべきだと声を上げ、それが国として決定になった。結果ツェルスト公国は消滅し、その勢いのまま塩湖を奪われ、更に食糧難に陥った。娘を失い、婿も失い、国にも失望したパオロさんは、全てを辞すると首都での屋敷や身の回りのものを処分し、身を任すままに、あの町へと流れついたという。戦火で身を崩したものが多く、奪略や争いが何処へ行ってもある。しかも役人が堂々と不正を行うために、弱きものを誘拐し奴隷とすることがまかり通っている。それを阻止しようにも、力も財力もない自分には何もできないことを嘆いていた。出来るのは目の前の子供たちを出来るだけ庇うことだった。
そんな時に圧倒的な力でもって場を収めたあたしを見て、天命が尽きるまで世を見てみるのもいいと思ったそうだ。
「娘もこれで報われる」
「・・・はい。この件が落ち着いたら、ツェルスト公国へ行きましょう。みんなが眠る場所に花いっぱい咲かせましょう」
「ありがとう、ありがとう」
「では、さっさとこの件を終わらせましょう!」
「マリー、アシルさんのところに行くのか?」
「うん。それから先はあたしたちが関わる事じゃないでしょ。ツェルスト公国に行く方が重要」
「・・・まあ、この村からすればそうだな」
「でしょ!」
このやりとりに慣れていないパオロさんは、あたしと父さんの顔を往復させている。この件をどうやって早く伝えるのかを必死に考えていたと思うけど、そんな必要はない。理不尽な出来事には理不尽で返せばいい。
「仕方ない。やれることはないが、一緒に行かないわけにはいかん。念のため、パオロさんにも行って貰おう」
「勿論そのつもり。アシルさんに伝えた時に、一筆あった方がいい場合もあるし」
「シエロと一緒に行くのか?」
「アシルさんのところまではあたしだけでも大丈夫だけど、そのままツェルスト公国に行くならシエロの力が必要になるしね」
「こればかりは仕方ないか」
「仕方ないよ。目立ちたくないけど、余波が色んな所に行く前に対処した方がいいし」
「だな」
「一応、パオロさんも父さんもちょっといい服に着替えて。あたしもワンピース着るから」
最近は男性用スーツと女性用はシンプルなドレスとワンピースをこの村で作っている。この世界の正装がどんなものか想像できなかったが、フォーマルなものがないよりはあった方がと、礼服のようなものを作った。あたしの凄い画伯のようなイラストで見事に作ってくれたアマンダが凄い。一応、黒と白で作ったのだけど、今回はパオロさんも喪に服すという意味もかねて、黒だ。
初めて袖を通した父さんは物凄く着られている感が凄い。それでもそれなりに見えるのは、体格の良さと精霊村の村長としての威厳だろうか。その点パオロさんは流石というべきか、珍しいデザインに不思議そうにしながらも違和感がない。
あたしと言えば子供だし、ワンピースにフリルが多くついているだけで、そこまで変わっていないので問題なし。
「じゃあ、父さん、パオロさん行きましょう。シエロ、お願い」
「任せて!」
鬣を優しく撫でると嬉しそうに返事をして、一瞬でボルテモンテの町へと飛んだ。
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