134.怒られる案件
シエロに山奥の方から行くからと転移してもらった。
スタンビート後だからなのか、二人が暴れた後だからなのか、びっくりするほど静かで肝試しをしている気分になる。生き物の息遣いさえないとか、どんな森だ。
シエロに乗ったまま、森の中を歩く。
狂牛がいたというこのあたりは食べられる魔物も多いし、魔石をそのままにしておくわけにはとフェンリルの長が確保してくれていたので問題なさそうだ。血が多く流れているところにだけ浄化を掛ける。
そして森の出口近くになるとそれなりの魔物だけど、狂牛があればいいかと思っている二人からすると微妙なBランクのイノシシぽいもの(ボアボア)クマの手が6つある(ベアシックス)などはかなりの数がそのまま放置されている。
「食べて美味しくないからといって、このままじゃダメでしょ」
スタンビートを止めたまでは良かったんだけどね。これ全部は処理できないと思うよ。
少しだけ項垂れている長達に心の中でダメ出しをしていく。でも人間側からすれば、魔物を片づけてくれただけでも有難いことだし、価値観が違うのだからこの状況は仕方ないのだろう。
この間片づけたと思ったアイテムバッグの中身は、あっと言う間に元通りだ。いや、こちらの対象物が大きいだけに、多くなるか。
鑑定をすればどの部分が食べられるというのは分かるけど、一々調べる時間はない。時間が経てばたつほど状態は悪くなるし、穢れも強くなる。掃除機でゴミを吸い取るぐらいの気持ちで回収していった。
数百は回収したと思った時、やっと森の入口に着いた。
やれやれと腰をトントン気持ちの中で叩いて、遠くに見える城壁を見た。
あれがアルバンティス王国の首都、カルタモッタか。無骨な岩を重ねた頑丈な城壁の街。
こういうことにも耐える為なのか、見た目は洗練された国というイメージはない。非人道的な行いをする国だから、お金をかけたもっとハイソな感じかと思ってた。
でも、まあ目に映るすべてが魔物で覆われているこの状況なら、違和感はない。
「酷いね」
目に映るものを消すことは出来ないが、結界が自動的に作動しているから咽るような血の匂いはしない。だけどこのまま放って置いたら、疫病が流行りそうだ。
大雑把にみて原形をとどめている物だけを収納していった。残りは全て浄火で燃やすつもりで。
―――甘かった。選別するのももう嫌だ。全部燃やしてもいいかな?城壁に近いところにはそれなりの数の冒険者たちがわちゃわちゃしているのがわかるけど、兵らしき者はいない。王族が捕らえられたのだから、中で混乱しているのかもしれない。それにしてもあたしの視力、どれだけ凄いんだろう。地形把握すれば、ここから城壁まで直進で約20km。これが視えるのって・・・。考えるのは止めた。
徒歩ならここまで5、6時間以上はかかる感じだし、近くの魔物処理で精一杯だろう。だったら、半径15kmは燃やしてもいいかな。
一応鑑定をざっとかける。生きている人間とか、燃やしてダメなものだけを表示してもらうようにイメージして。
何も引っかからない。
跡形もなく燃やせば後悔しそうな物。大雑把すぎるイメージだけど、多分あたしがという注釈が付く。だって他の者は燃やしてしまえば何があったと変わらないのだから、無かったと同じだからだ。
お?3つほどマーカーが出た。
一つ目が魔物の群れのちょうどド真ん中。どうやらこの群れのボスのようだ。
【地竜】 リッチにより使役されしもの
【リッチ】アトランティス王国に滅ぼされたツェルスト公国の将軍のなれの果て
【神器】魔物を縛ることのできる杖 ロストテクノロジー
どうやらこのスタンビートは、起こるべくして起こった人災みたいなものか。
リッチも祖国で埋葬されたいだろうとこの三つを回収した。ついでにボスであるリッチを囲むようにしていた者たちもきっと、この将軍の大事な者達だろうと遺留品ごと回収した。いつか遺族が見つかるならば、戻してあげたい。
範囲を少し広げて鑑定してみたが、あたし的には価値を感じないものらしく反応がなかった。
では、遠慮なく15kmすべてを浄火しよう。
全ての感情、形あるものを無に戻す為に。
『リュビ』
共にこの地を焼き尽くす。
青白い炎が目の前一杯に広がり、空の色と同化していく。それらが全て溶け込んだあと、全ての魂を運ぶための天への道標のように一筋の光が差す。
『グンミ』
共に彷徨う魂が無いように、浮遊する光を包み込む。
さよなら。
『クロ』
この地に安寧を
『テーレ、ソル』
残ったのはむき出しの土とこぶし大の石だらけ。息吹を感じないこの土地が、豊かになりますように。
『シン』
声を届けて。
「この森の穢れを祓いました。豊かな森へと変貌するかどうかは、あなた方の心にかかっています。神の御使い、守り神の龍、聖獣のフェンリルが見届け人です。首都が浄火で焼き尽くすことになりませんように」
シエロに合図して聖女の森に戻った。今頃首都は蜂の巣をつついたようなさわぎかもしれないけど、クーデターが起きたので混乱は同じだろうとどうなったかは見ていない。
これぐらい釘を刺しておかなければ、リッチになった将軍たちの遺留品を渡せとか言い出しそうだし、面倒になりそうだからぶった切るに限る。
そこでドラゴンの長と別れて、フェンリルの長と共に精霊の村に戻った。ドラゴンの長はまだまだ飲みたそうにしていたので、報酬だと言ってお酒を10本ほど渡して帰った。
さて、あたしの勝負はここからだ。
絶対に怒られる案件。怒られるだけで済むだろうか?
ここはアシルさんとパオロさんに頑張って貰おう!
読んで頂きありがとうございました。
細々と頑張ります。