133.あ、じゃねえよ!
結局その日はドラゴンの長がはしゃいだため、宴会に突入。ドラゴンが酒好きとか、どっかのラノベでは読んだことあったけど、本当に飲むんかい!その巨体で一升瓶なんて米粒ほどにしかならないだろうに。そんなことを思っていたのが伝わったのか、このドラゴン小さくなったよ。
「もしかしてみんな小さくなれるの?」
「我が術を掛ければな」
それは闇夜に紛れたら鳥にしか見えないよね。あっさりと移動できたはずだよ。まあ、このエネルギーの塊が小さくなることはないから、見た目は誤魔化せても存在は誤魔化せないだろうけど。
コンドルぐらいの鳥が抱き枕のように、一升瓶を抱えているようにしか見えない風貌。威厳も何もあったもんじゃない。それでも森が静まり返るのだから、ドラゴンはドラゴンなのだろう。管を巻く親父にしか見えないけど。
「今まではお酒、どうしてたの?」
『人間たちが今までは定期的に奉納してくれていたからな。それがなくなったんで、居心地悪いし、ここに居なくてもいいかと思ったのだ』
それって戦火がどうのこうのじゃなくて『酒』が原因でここに来たと言ってるよね?
酒が飲めそうだからこちらに来たとか、言わないよね?
ジトっとした目で見ていたのが分かったが、若干罰が悪そうにしながら「それも原因の1つだ」と認めた。
『この酒は、今まで飲んだものより上等だ』
「まあ、グンミを筆頭に水の精がこだわって作ってるからね~。最近は妖精族も蒸留器作ったりして、気合入れているし」
水の精がやたら増えてるからお酒は増えるだろうな。それにいいお酒が増えれば、精霊王の復活とともに精霊たちが喜ぶ。
『それにしてもあの牛がこんなに美味いとは』
「狂牛食べたことあるの?」
『あの山にはそれなりにおった。丸焼きか生でしか食べることがなかったからの。勿体ないことをした』
「いやいやいや、誰も調理出来ないんだから仕方ないよね?捌くのも大変だし」
『ん?捌く前に小さくしておいて、捌いたら元に戻したら問題ないと思うが』
「なにそれ、そんなこと考えたことなかったよ。フェンリルの長ならもしかして出来たりする?」
『・・・出来るのぅ』
長も思いついてなかったようで、少々項垂れている。
そっか。今まであんなに苦労してたのに、と思わないでもないが、朗報だと思っておこう。
『では、今から狩ってくるか』
え、何それ。スーパーでお肉買ってくるみたいなノリ。距離も・・・あるけど、この人たちにとって距離は関係ないし、問題ないんだろうね。どんな場所であっても。
お酒飲んで狂牛の肉食べてご機嫌になって、また食べたいから肉食べたさに狩ってくるというドラゴンの長とフェンリルの長。この二人がタッグを組んだら、戦争しかけているように見えない?大丈夫?
『大丈夫だ。シエロ殿と行けばそこまで一瞬であろう?10頭ほど狩ったら戻ってくる』
「まあ、それなら・・・いいのかな?」
そう答えてしまったのがダメだったのだろうか。ドラゴンの長とフェンリルの長、そしてシエロが狂牛狩りに出かけ、あたしはシャンスとその兄たちと久しぶりに、きゃふきゃふともふもふ塗れになって癒されていただけだというのに、一時間後に戻ってきた長達からアルバンティス王国がなくなったとか、そんな報告要らないんだけど。
派手な魔力を使ってるな、とは思ってたけど、狂牛の大きさを知っているだけにやっぱ凄い牛さんなのね、って呑気に思ってた。なにがどうなったらそうなるわけ?
混ぜるな危険ってこういうこと?!
もう、遅いけど。
そして『あの国は滅びた』の一言だけで、後はどれだけ狂牛を狩ったという自慢を延々とされても嬉しくない。あたしもそろそろ現実逃避を止めて聞きたくないけど、聞こう。
「ねぇー。長・・・狂牛狩りがどうして国を亡ぼすことになったわけ?シエロも転移手伝っただけなのに、何でかな?神の御使いって嘘だったわけ?」
子供らしくない低い声になったとしても、仕方ないと思うんだ。ちっともあたしに平穏を与えてくれないこの日常。想定外過ぎる。早く父さんやパウロさんに言わないといけないのは分かっているけど、ここは冷静に状況把握が先だよね?
誰に言い聞かせているのかわからぬまま、独り言をごちた。
まあ、彼らの言い訳はこうだ。
あたしに予告した通りシエロが転移した場所で狂牛狩りを堪能していた。ドラゴンたちが居なくなったことで、天敵が居なくなったとばかりに数を増やしていたそうだ。もしかしてと首都を空から見下ろせばスタンビートが起きており、Sランクの魔物とリッチになったどこかの将が部下のスケルトンを伴って、城壁を壊して入っていくところだったそうだ。
いつもなら放っておくがあたしが気にしていることを知っていた為に、仕方なく介入したまでは良かった。
その国の馬鹿どもが守り神と聖獣様が味方してくれると騒ぎ、どうやらこれを機にとアルバンティス王国を攻めていた属国の兵隊たちに天罰を!をふざけたことを言い出したので、シエロがジャッジメントで黙らせた。
『その者たちが国の中枢にいるのなら、この国は亡ぶまで』
虐げられていた民たちがその言葉を聞き、敵将とタッグを組み反旗を翻した。王たち貴族を捉えたところで勝負は決まり、アルバンティス王国は狩りの合間の一時間で消滅した。というのが正解らしい。
何その漫画みたいな出来事。
乾いた笑いしか出てこない。
『狂牛などSランクの魔物はすべて倒したところで、スタンビートはすぐに収束した。旨そうなものは全部持って帰ってきたから、よろしく頼む』
何でもなかったように言うドラゴンの長に頭が痛い。そう言うことじゃない。
「倒した他のはどうしたの?」
『他は要らぬからやる、と言ったら喜んでおった』
「まあ、食料不足だから肉が増えるのは嬉しいだろうし?そして皮や骨など使える部分は使う言うのなら、置いてくるのは問題ないと思う。だけどスタンビートを起こすほどの魔物たち、その人たちだけで処理できるの?またここみたいにゾンビとか増えない?」
『『あッ』』
「あ、じゃねえよ!」
コントのように突っ込むしかない現状にクラクラする。
どう考えてもあたしが尻拭いするしかない。
「シエロ、大規模な浄化を掛けるから連れて行って」
精霊王・・・早く復活して。
こういう役目こそ、精霊王にして欲しい。
あたしの心からの願いです。
ブックマーク&評価ありがとうございます。
誤字脱字報告も、ありがとうございます。
さて、シリアスさんはどこかに行ってもらって、コメディ気味に話しを進めたいところ。
さて、次回はどうなるかな。