132.近づく混乱
ほんの少しだけど吹っ切れたあたしは精力的に動いた。
マーティンさんがいく街ブレイロットは、ボルテモンテの町よりも規模が大きい。もっと荒れているはずだ。アルバンティスのせいで加速気味に!
それならば干し肉を気合入れて作るべきだと、マジックバックに入っていた魔物を出して捌いてもらって干し肉にしていった。全部を助けるなんてこと出来ないけど、手が届く範囲でやれることはやる。
元気になり、必死に解体を習っているボルテモンテにいた子供たちを見た。もちろん小さなものからチャレンジしているのだけど、凄く手際がいい。魔法ありきの力技でしている不器用なあたしよりも正確だと言える。
しかもカランキ村から来た子達が一緒に教えているので、大人たちに怯えを見せていないのが良かった。あと、子供たちを気遣っていた大人パオロが見守っているのもあるのかもしれない。そして解体さえも難しい小さい子は森の精が見守る中、うちの庭でキノコを取ったり、芋を掘ってたりする。それを元にスープを作ってあげると、ぱあぁぁぁぁっと顔が緩むのが大変可愛らしくてよい。
子供たちがここで心と体を癒しながら、自分のしたいことをゆっくりと見つけて欲しい。
マジックバッグに入っていた魔物が半分以下になるころ、干し肉が倉庫一杯になった。どれだけ溜め込んでたのかと思う量だ。深淵の森を浄化する時の魔物はこれで全部掃けた。あとはスタンビートが起きる前に長達が狩った魔物を残すのみ。
流石に狂牛だけは、出せない。獲って来たのは長達だし、普通に値段がつけられないほどなのもあるけど、あの味を知ってしまったら流石に他に出すのは嫌だと思う。大事な交渉でいざという時に使わせてもらうならともかく、正直あれを村の者以外にあげようとは思えない。誰しも美味しい物には勝てないのだ。
うん。
その内大活躍の長たちにはあのお肉を振るまわないとね!あたしも食べたいし!
『マリー、子供たちも落ち着いた。聖女の森にあやつらの様子を見に行ってくる』
「ああ、ドラゴンのところ?」
『まあ、そうだ』
「なんだかんだと長って面倒見いいよね。カッコいい」
『あ、あ奴らが暴れたら、仲間に迷惑が掛かる』
「まあ、確かに。あの国が余計なことしてないかも気になるから、あたしも行く」
『その方が、喜ぶだろう』
ということで!
「父さん、例の森に行ってくるね」
「マリー・・・」
「大丈夫だって、長とシャンスもいるし、シエロに乗っていくから」
「そういう方面では心配してない。やらかし具合が心配なだけだ」
「ああ・・・まあ、そこは通常仕様ということで」
「無茶はするなよ」
「うん、ありがとう。行ってきます」
そうなんだよね。杖を装備したことで、あたしの防御力はパワーアップしている。悪意ある者はあたしに近づくことが出来ないばかりか、攻撃そのものが放ったものに跳ね返されるシステムになっていた。これがゲームなら完全なバグだと言われるチート装備。家族を心配させるよりはいいかと思っていたのだけど、その後のことを心配されているとは!最近あたしが動けば、大事になってから、否定はできない。無茶、するつもりはないんだけどね。あの国さえ関わらなければ!
「シエロ、宜しくね!」
「任せて!」
最近放置気味になってからか、やたらと張り切っている。暴走しなければいいけど。
「長、シャンス行こう!」
シエロの転移で聖女の森に行けば、シャンスの兄たちが出迎えてくれた。少ししか時間が経っていないと思うのに、毛並みが更に輝きを増し、更に体が大きくなっているのを見ればこの森がどれだけ実りがいいのかがわかる。それにこの柔らかな空気が全ての強張りを放ってくれるようだ。
サクレも一回り大きくなっており、森の精が鈴なりに止まっているせいで、遠くからは桃が成っているように見える。
「凄いね」
条件が揃えば、森が生き返るのはこんなにも早いのかと感心してしまう。
感慨深く森を見渡していると、あのドラゴンのものと思われる気配がやって来た。静かに来ているつもりでも流石のドラゴンの長、翼の風圧は感じなくても見た目だけの圧迫感というか威力は半端ない。二度目だというのに、この大きさには慣れないなぁ。見上げていると、首が痛い。
「元気?」
『ああ、問題ない。魔素も安定しておるし、煩わしいものがない』
「それなら良かった」
『突然やってきた人間の群れを、煩いと追い返しておいた』
「へっ?」
『この森に入らせろと言うのでな、邪魔だと羽を一振りしたら飛んで帰ったぞ』
このドラゴン、何やってくれちゃってるの。どう考えてもあの国が取り返しに来たってことだよね?向こうにしたらこの森は自分たちのものだというだろうけど。ほんとやらかしてくれるね。
「来たのは一度だけ?」
『ああ、我を見てかなり喚いておったからの。来ないであろう』
それで次が来ないなら、冒険者たちなのかもしれない。ご愁傷様としか言えないけど。
なら、ここはもう落ち着くかな?
『ならば、あの国は近々亡ぶな』
「はああああああああっ?」
何言ってるの長、どういうことよ!
『自業自得だ』
ドラゴンの長も何言っての?わかるように説明してよ!!
『白い龍というのは、人間にとって守り神と言われているのだ。あの国の頂にいたから他の国も手を出さないでいた』
苦々しい顔で物知りな長が言う。そんなに嫌そうな声で言わなくても。どれだけツンツンなの。でも知っておきたい、どういうことなのか。
「と、言う事は」
『あの国の属国とされておった国は、今までの不満が爆発。結託して今まで奪われたものを奪い返しに行くであろう。資源も人も』
「ああ、そういう国だったね」
妖精族のものや獣人族、人間の子供であっても捕まえて奴隷にしてきたのだから、他の国でしていないわけがない。盗られたものを獲り返すのは、当たり前のことだ。ただ憎悪が無駄な殺戮を行わなければいいのだけど。
それにしてもここに来た者は、ドラゴンたちがこの山に移住してきたことを知らなかったと言う事だ。でもそんなことある?ドラゴンはそれなりの数がいる。その移動を知らないとかあるのだろうか?
『知らされてないのだろう。我らは闇夜に紛れて雲高く移動した。魔力感知が優れている高位の者はすぐにわかったであろうが』
「なるほど。甘い甘言に惑わされて一攫千金を目指して来たら、ドラゴンが出てきたと。それは恐怖でしかなかったね。可哀想に」
『だから自業自得なのだ』
確かにそうなのだけど、混乱が少ない国でも食べ物が少ないのだ。アルバンティス王国はもっと酷かったに違いない。さらに属国とされていた国も。大規模な戦火が起こることが予想されて胃がキュッと縮こまった。米と小麦を大量に準備しておいたほうがいいかもしれない。
『マリー、そろそろ食事の時間ではないか?』
のんきな声が脳内に響く。
だけどその声以上に心配が見て取れる表情の長をみれば、あたしが考えることじゃないと言ってくれているのがわかる。
「そうだね。とっておきを食べる?」
1人でやれる事は限られる。どうせ動くなら父さんとパオロさんに相談して決めればいい。
だから今は忘れたふりをして、美味しい肉を食べよう。
『『勿論だ』』
『何故、お前まで食べることになっているのだ!』
フェンリルの長がドラゴンの長に文句を言っているけど・・・。
「ありがとう」
帰ったら大忙しだね。
お待たせいたしました。
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