130.これにて一件落着?
さてと急がなきゃ。
「父さん、あの町にいる三人の研修生のことなんだけど」
「ああ、マーティンさんに今はお世話になっている。明日の朝にはこちらに戻ってくる手筈だ」
「今回マーティンさんには、結構お世話になったね。ひこちゃんとも話したいし、お礼もしたいから今から行ってくる」
「いや、待て待て、マリーがお礼とか変だろ」
「今更な気もするけど」
「そうかもしれないが、お礼に子供を行かせる親が何処にいる。村長の俺がいかないと駄目だろ」
「あ、だよね」
「マリー時々子供だってこと忘れてるな、・・・慣れたけど。他ではやり過ぎるなよ」
「・・・善処します」
「母さんとエディに子供たちのことをお願いしてから行こう」
それからしばらくしてひこちゃんのところへ飛んだ。
急に現れても、マーティンさんは驚かなかった。聖女ということがバレているし、流石である。
「村長さん、・・・マリーさん」
どうやらあたしのことをなんて呼んでいいのか、迷ったぽい。それでも普通に話してくれるのだから、商人として才がある。こういうご縁は大事にしたい。
「マーティンさん、いろいろとありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそいい商談が出来ました。それに奪われていた荷物が戻ってきたのです。それだけでも有難いことです」
あの中にマーティンさんの商会のもあったんだ。助かったなら良かった。それでも自分の荷物なのに、買い取らなければならないのも、なんとも世知辛い。
「そうですか。少しでもお役に立てたなら良かったです。今回のことでどれだけ近隣が食糧難に陥っているのかがよくわかりました。またいつでもお越しください」
「そう言って頂けると助かります。今回の荷物を届けたら、また行かせて頂きます」
チラッとあたしを見たから、多分調味料も欲しいんだろうなと思う。塩とタレならすぐにでも渡せるけど、まずは肉からかな?どれがいいか聞いてみよう。
「マーティンさん、大まかにわけて『肉』または、塩とかタレとか『調味料』ハンドクリームや化粧品などの『美容商品』日本酒、ウィスキー、ビール等の『お酒』今欲しいのはどれですか?」
「ぐッ・・・どれか、どれもなんと魅惑的なラインナップ。でも、今というなら『調味料』ですね。塩が不足しているのです」
「この辺りって海がないから、岩塩になりますもんね」
「あ、いえ。取りあえず塩湖があったのですが、例の国の近くだった為に色々と巻き込まれてしまい、取れてなかったようなのです」
「へえ・・・あの国、碌でもないね」
まあ、クーデターが成功したら、龍に喧嘩吹きかけそうだから、潰れてなくなるだろうな。
と思ったところで思考を止めた。この先を考えたら自分の首を絞める。
「じゃあ、マーティンさん塩をどれぐらいご所望ですか?」
やっぱりあるんだ・・・なんて顔されても。
粗悪品でも結構な値段すると言ってたし、量にもよるんだろうけど、この塩は最高級だからそこそこ値段するよね。どれぐらいになるか試しに出してみよう。
この辺りで取引されている壺の大きさ(約10kg)に、塩は入れているから値段を図るにはいい。
「じゃあ、塩を見て下さい」
蓋を開けた時点で目がカッと開いて、固まった。
今回壺に入っていたのはぽんのりピンクの塩で、ソルが発掘してくる塩の中でも最高級のもの。塊をかじれば、塩なのに尖った辛さはなくてほんのり甘さを感じる。前世で食べていた岩塩に味は近かった。
「これだと卸しにくいというのなら、これらもあります」
海塩に近い見た目だけど味はとてもあっさりしたものなので、使い勝手はいいと思う。
「塩湖でとれたものに見た目は似ていますが、こちらの方が粒も大きいし、綺麗ですね」
「そうですね。市場に流れているものよりも、かなり良いものだと思います。舐めて見ますか?」
「是非!」
まず白い塩を掬って渡す。
「・・・・・・。癖のない、あっさりとした味わいです」
「そうですね。魚とか野菜にあうと思います。では、もう一つこちらもどうぞ」
あたしはこの塩で肉を食べるのが好きだ。最終的には贅沢に、岩塩プレートで肉を焼くというのを一度してみたいと思ってたりする。絶対に美味しいと思うんだよね。
「あま・・・い」
そうでしょ、そうでしょ!時間が出来たら実際に発掘に行ったら楽しそうだと思う。実際は普通に行ける場所ではないけど、あたしにはシャンスもいるし、シエロもいる。一度行けば行きたい放題だ。
―――やりたいことは山ほどある。
マーティンさんの顔が緩んだと思ったら、すぐに顔が険しくなった。
やっぱり高くなり過ぎる?
「これは普通には採れないですよね」
「ええ、まず無理でしょうね」
そういえば色んな想像を働かせてくれるし、追及されることもない。そう考えたら、村の人が食しているものって、貴族以上?だね。子供たち、舌が普通の人より肥えてるけど、外で生活できるかな?最終的に戻ってきそう。
「これは・・・定期的に卸して頂くことは出来ますか?」
「そうですね。あの村に入ることが出来る限り、大丈夫だと思います」
「――なるほど。それほどですか」
「それほどですね」
時間にして10分もしないぐらいでマーティンさんは決断した。
「この壺あたり、大金貨1枚でお願い出来ますか?」
まあ、妥当な金額かな。驚愕している父さんの顔が今日のハイライト。精霊たちが競うように持ってきた塩が大金貨1枚(約10万円)というのは、慣れた人には驚愕だよね。一般的に売られている塩が1壺大銀貨5枚(5000円)だから、まあ、破格だ。だけどこれには付加価値が付いている。精霊しか採れない場所での発掘。それが村の外では大きなポイントになる。ランクの高いお肉1kgと同等な値段になるのは仕方ない。
採ってきたばかりなら大きな塩の岩だけど、崩してくれる時に不純物は全部取り除いてくれるし、均一の大きさにしてくれる。これだけで見た目も味も最高級の塩の出来上がりだ。村では当然ミルも作ってもらっているから、塊を自分たちで削りながら使うことも出来るから、そこまで凄いとは思ってないのかも。
「それで大丈夫です。ただ普通に販売するのは難しいと思いますので、見本で塊もいくつかおまけでつけます。値段が値段だけに、元の塩を見て頂いた方がいいでしょう?後、出来ればこの塩はガラスで作られた入れ物で販売した方が、より価値が上がるかと思います。こんな綺麗なローズ、ただの壺に入れていくのは勿体ないですから。こんな感じで」
ビーズのような大きさに削ったモノと飴玉ぐらいに削った塩をインテリアみたいに、ガラスのケースに入れているのを見せた。実際塩を売るときに不純物が入っていないことを確認させるために、あった方がいいと思って作ってもらった。だけど実際に貴族に販売するとなれば、見た目も大事になる。誰に目に留まっても凄い塩だと思って貰ったら、後は簡単だ。
「なんて美しい」
「どうぞ」
塩を見分しているマーティンさんの横顔を見ながら思いついたことがある。塩にこれだけの値段が付くのだ。それに目を付けて今後普通の粗悪な塩に色を付けて売り出し始める馬鹿がいないように、精霊村の印を作って偽物を作らせないようにしないとダメかも。ガラスや壺とかわかるように。
うん、それがいい。ソルに後で焼き印でも入れてもらおう。
その後ヨハン、ビアス、カーヤともしっかり話し、予定通り明日ひこちゃんと共に精霊村に戻ってくることになった。盗賊も片付いたしひこちゃんもいるから、ほぼ問題ない旅になるだろう。だけど何かあってはいけないので、やっぱりグランはつけておく。
マーティンさんたちも三人が旅立つのを確認してすぐに、ブレイロットまで駆け足で向かうそうだ。
ボルテモンテの町よりも規模の大きい街だ。食料品不足がさらに酷いと予想されるためだ。精霊村からの買い付けした分と今回盗賊たちから戻ってきた荷物(小麦・塩)を運び込む。お酒は全てのまれてなくなっていたらしい。
「それでは道中での食事にしてください」と残っていたお肉の塊(推定10㎏)を渡した。荷物も増えたため、護衛の数も増やすようなので、食料は幾らあっても助かるはずだ。
「こんないい肉をいいんですか!!」と叫んでいるけど、まあそこはお付き合いということで。だって護衛の人たち食べるもん。きっと一日分もない。
代金も頂き、一応決着がついた。まだまだ問題は山積みだけど、ひとまず安心かな。
父さん、後はよろしくお願いいたします。
帰ったらあたしはアリアのところに行って、寝る前に甘酒飲むんだ!
読んで頂きありがとうございました。
誤字脱字報告、ありがとうございます。
後は空の精に直さないと。
次の更新少し遅れるかもしれません。