129.パオロ・ペイネ
ふぅ・・・。在庫が少しはけたよ。あれぐらいのレベルでいいなら、まだまだ出せるしね。
「マリー、やり過ぎてないか?」
お肉と魔物たちの塊を押し付けて、逃げるように子供たちがいる場所に転移した。歩けば10分ほどだったが、出来れば長引かせたくなくて、消えたのだ。やっぱりやりすぎ?
「マリーが思っていることと、父さんが思っている内容は違うと思うぞ」
「そうなの?」
「あの荷物の取り扱いについて、よく知ってたな」
「昔読んだ本にそんな話(設定)があったから、あるかなーってカマかけてみた」
「カマをかけたのか・・・」
父さんは呆れた顔をするけど、言わなかったらあちらさんは言う気なかったよ、絶対。
「権利があるなら行使した方がいいでしょ。なあなあにしてるとお互いいい商売関係になれないし、こっちが甘い顔をしていると、どこまでも要求が高くなるかもしれないでしょ?あたしだけなら一撃できるけど、他の人が巻き込まれたら許せなくなるし」
「それはそうなのだが、貴族に堂々と物を言うから、父さんは冷や冷やするぞ。まあ、村の人を護る上でも、線引きは大事なのはわかるがな」
「でしょ!物言いは聖女だから言えることだね。それよりも、これから外に出て行く人たちも増えてくるし、犯罪に巻き込まれて欲しくないよ」
「今いる大人だけなら、返り討ち出来ると思うわよ」
「母さん、それは間違いないね。多分本気で挑めば子供でも太刀打ちできると思うけど、人を傷つけることに慣れてない。慣れても欲しくないけど」
「でも傷ついた子達を見ていると、どこでどんな風に巻き込まれるかわからない世の中だから、自衛を身に付けさせるのは大事ね」
「・・・だよね。魔物対処の仕方だけじゃなく、対人スキルとして騙されないように文字や計算を教えてたけど、戦い方も大事だね」
「まあ、それはもう少し落ち着いてからだな」
「そうね」
「うん」
エディが話している子達の傍に行く。一夜明けて体力も回復したからか、心なしか顔色がいい気がする。
それだけで良かったと思う。
父さんは村長権限で20人の子を精霊村に引き取ることにした。大人も一緒に連れて行ってくれと懇願されたらしいが、それは無理だと断ったようだ。
自分より弱者を守れないような者に用はないと。
なにより子供たちがスラムにいた大人を怖がった。
それが答えだ。
「さあ、ご飯食べて。落ち着いたら、みんなであたしたちの村精霊村に行こう」
子供たちに先にスープを配り、その後大人たちにも配った。その時の様子を目を凝らしてみてみるが、やっぱり連れて行ってもいいと思う大人はいなかった。
列を守らない者や、注いだスープに具が少ないとか肉がないとか文句をつける奴。碌でもない。こんな奴らだからこそ、助けてあげたいとは思えないし、同情する気にも慣れない。本当に僅かな人が遠慮してスラムに流れ込んだのだろう、と思える人が居た。そう言う人は見るに堪えないほどに、痩せ細っていた。その人たちには直接果実水を渡す。
「今すぐ飲んで」
5人ほどだったからすぐにみんなに渡して飲ますことが出来た。すぐに顔色が良くなったので、一安心だ。
「頼れる人はいる?いるならそこへ帰ろう?」
5人のうち4人は家族がこの町にいると言う事だったから、お肉と野菜をセットに手土産と渡した。家を出たきっかけは怪我や病気だったみたいだから、果実水で治った今ここに居る必要はない。
問題は残りの一人。実際はいるのだろうけど、いないと言い張っている。困った。悪い人じゃなさそうだし、ここに居たら生存競争に負けて、間違いなく死んでしまうタイプの人だ。仕方ない。こっそり鑑定しよう。
「はああああああああっ!!ちょっとおじいさん、なんでこんなところにいるのさ!」
驚きすぎて口調が迷子である。
パオロ・ペイネ (ジャーララント王国元財務大臣)
「バレてしまったか。負け犬の末路はこんなもんだ」
「権力争いに負けたってこと?」
「聞きにくいことをズバッと聞く。まあ、そう言う事だ。出し抜くのが苦手だから、仕方あるまい」
「仕方ないで終わるんだ。中央の権力を握った人が」
「まあ、頑固爺は煙たがられていたからな。そんなもんだ」
「じゃあ、子供たちに勉強教えるのはどうかな?衣食住ぐらいは保証するよ」
「子供に勉強とは」
「悪い大人に騙されないように、文字と計算を教えてるの。10歳ぐらいまではそれでいいけど、出来ればそれ以上の子には書類の見方、書き方なども知って欲しいし、話せる範囲で他の国のこととか、地理とか。言い出したらきりがないけど、要は外で生きていくために必要な社会勉強ってやつ」
「!!―――そうか。面白い!ここを無事出ることが出来たなら・・・」
「あ、亡命になるのか。でも、大丈夫。門は通らないし。子供たちと帰ろう!」
「それは、どういう・・・」
「シエロ!よろしく」
「ハイハイ。久しぶりに呼ばれたシエロですよ」
「そんなに拗ねないでよ。シエロが凄く活躍したって、知ってるから」
「本当?」
「ホント、ホント!流石シエロ!」
「だよね!じゃあ、みんなで帰ろう!」
一瞬にして景色が変わり、全く知らない場所に来たことに子供たちも、パオロさんもめをぱちくり。
そのことで身を固くして一瞬警戒したけど、エディがここが村だと説明すると、子供たちから歓声が聞こえた。
パオロさん、はと言いかけて、腰を抜かしてへたり込んでいるのを見てしまった。
「大丈夫?シエロの転移魔法で帰ってきたんだけど」
「ああ、なんとか・・・。あんなに苦労してあそこで隠れておったのは、なんだったのだ」
「とりあえず、子供たちと一緒に家に来て。今日はそこでゆっくりして」
「ああ、そうさせてもらえるか」
子供たち20人とパオロさんは、家の奥の会議室兼宴会場でゆっくりしてもらうことにして、エディが案内した。
あたしはというと、父さんにパオロさんのこと相談もしないで連れてきちゃったから、そのことを知らせることと、残してきたひこちゃんと研修組3人のことを相談することにした。
色々とあの三人は振り回されただろうから、今頃戸惑っているはず。それとも昨日のうちに予定は決まったのかも確かめておきたい。
色々と一杯一杯になっちゃってたからなー。
こんな日はお酒が飲みたい。なんで子供の体なのだろうか。甘酒ぐらいならいいかな?果実酒を薄めてもいいと思うのだ。うん。
後ひと踏ん張り。これを頑張ったら、ご褒美をもらってもいい気がする!
いいよね?!さあ、頑張るぞ!
読んで頂きありがとうございました。
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マイペースで頑張ります!