12.水の精の本気をみました!
すべてのお砂糖を収穫し中身のお砂糖を桶に集めたものの、かなりの重さになってしまった。
どうしようかとキョロキョロしていると、樽を作るための木を切り倒した父がやってきた。
「もしかして、その桶に入っている白いのが砂糖か?」
「あまいよー」
「・・・凄いな。精霊たちの本気度合いがわかる」
「マリーは村の砂糖を見たことはあるな」
「うん」
「この村に行商人は来ない」
頷く。
多分村の規模的に遠くからくるには、採算が取れないのだろうとは思う。
「だから行商人が隣の村に来るタイミングで、村で必要な分を買い付けに行くのだ。それだけに純度がいいものは村には来ない。混ざりものがあり色も茶色い。白い砂糖というだけで混ざりものもないし、純度が高いものになる」
確かに。辺鄙な場所に売りに行くのに、魔物や盗賊などに襲われる可能性があるのだから、高級品は持ち出さない。そうじゃなくても辺境というだけで物が不足しているから、低級品でも売れる。
町から必需品を運んでくれるだけでも、有難く思わないといけないのだから。
「これだけの白い砂糖を売れば、半年は村で暮らしていけるだけのお金が手に入る」
半年?
胡椒ならわかるけど、砂糖で?
でもまあ・・・確かに村では物々交換で日頃は成り立っているから、お金を使うことがない。衣類とか、調味料の類、この辺りで採れない薬草とかをかーさんが頼んでいたのは聞いたことある。
「必要な分を分けてもらって、他は全部精霊様のために使えばいい。外には出さなければなんの問題はない」
そうだね。外から人が来ることなんて、森で迷った人ぐらいで年に1・2人だから大丈夫。
それにしても前世の記憶があるから、この世界の価値がわかっていない。今まで必要がなかったから、問題なかったけど、これからは身を引き締めて行かないとダメだね。
うんうん。一人で納得して頷いていた。
ただそれを邪魔するものがいた。
『えー――でも、美味しいのは大事だし、便利なものは便利でいいことない?』
〈村人はいろいろ喜んでるから大丈夫だと思うけど、外の人からしたらあたしってお金を生み出す価値のある幼児になるんだよ?用心に越したことはないと思う〉
『精霊がやってるって、済ませちゃえば』
〈この庭見たらどう考えても村に精霊が住み着いているとは、いえないでしょ?〉
『果実園的なこの庭は、村共同ということにしてしまえばいいじゃん。収穫の1割はマリーのものとか決めてさー』
〈なるほど、考慮する価値はある。とーさんにも相談しよう。村の人たちの協力が必須なんだから、お裾分けしたほうがいいし、みんなで美味しいもの食べたい〉
『そうだよ。これだから頭が固いおばさんはーって、言われるのよ』
〈それは前世だって〉
『今は5歳児なんだら枠に囚われてたらダメじゃん。自由な発想と行動が大事だよ。折角生まれてきたんだからさ』
〈そうだね。5歳児楽しむ!〉
『まだ固い・・・』
楽で便利なことが大好きなブラックちゃんと、まだまだ常識に囚われて頭の固いホワイトちゃんの脳内論争に決着はついた。みんなで精霊チートを楽しみたい。
「それにしてもマリーは理解が早いな。マリーのスキルで2・3日は驚きっぱなしだが、こんなに頭が良かったのか」
ドキッと心臓が痛いぐらいに跳ねた。
あたしの頭をクシャクシャに撫でながら、父は目尻を下げた。
「マリーは、きっと精霊(この世界)に愛されてるのだと思う。多分これからも精霊たちがこの村に集まってくるだろう。縁を大事にしなさい」
「うん!」
5歳のマリーは元気に答えたが、あたしは泣きそうになった。
突然変わった娘を受け入れてくれていることに、心が温かい。
目が潤むのをグッと堪え、奥歯をかみしめて笑った。
ありがとう、とーさん。
「タル、できたの?」
「ああ、とりあえず1つな。木はもっとあるが生木では出来ない。火魔法をもっている奴が乾燥させているが、時間がかかる」
確かに。
じゃあ、今日はその1つに果物のお酒を造ってみよう。
・・・なんて、思っていました。
水の精さんや、そのかわいい子は誰?
兎のような長い耳に、狐のようなモフモフな尻尾、額に紅い宝石。まるでUMAのカーバンクル。
めっちゃ、触りたい、抱きしめたい、スリスリしたい。
一歩後ろに下がった気がする謎の子に、一歩近づく。
また、一歩下がられたので、一歩進んでみる。
「くぃー」
鳴いた!可愛い!
もう待てない!
捕まえてスリスリ、モフモフ、5歳児の腕の中にいい感じに納まるこの感触が堪らない!
「あー、マリーその辺で・・・。火の精さんだ」
呆れかえった、父の声で我に返った。
「火のせいさん?」
え、居なくなったと思ったら、火の精呼びに行ってたの?
そんなに簡単に現れちゃうもの?
お酒の為に仲間を集める。
――水の精の本気を見た。
お酒が精霊にとって大事な物なのはわかってはいたが、水の精が飲みたいだけじゃなくて、考えている以上に重要なアイテムだったりする?
とーさんと顔を見合わせた。
「他の村の人にも手を貸してもらおう」
それから村人総出で酒造りに励むことになった。
庭の果実たちはあたしからの提案ということで、テーレ承認のもと村の共有財産になった。
森の精が食べ足りないときは、育成するから問題ないそうだ。
ただ水の精が本当に求めているのは、焼酎みたいな酒なんだろうけど流石にそこまでは難しい。元となるアルコールを村では大量には作っていないからだ。
それは近隣の村で集めても同じような状況みたいで、量をそろえることは出来ない。
となると、大人でも片道二週間以上かかる町まで買い付けに行くしかない。それは流石に深い雪に埋もれる冬を前にして、準備に忙しい男たちが村を出ていくのは厳しい。
その説明をすれば水の精はすんなり納得した。
みんなが楽しくなるなら、お酒は出来るだけでいいと。
それならば折角だから精霊の泉が出来たことだし、それでビールを作ればいいという村人の提案には大喜びだった。
一斉に跳ね上がる!
『酒~、我らの水を使った酒~』
水の精がリズムよく四方八方に舞うように飛び跳ねる。
瑞々しいボディが夕日によって輝く姿が、イルミネーションになっていた。
それに森の精が同じようにふわふわと、羽が付いたかのように飛ぶ。
負けてはいけないと負けん気を出した火の精が、仲間を召喚し火の玉を打ち上げた。
その喧騒の中、テーレが不思議なメロディーを歌う。
なんて神秘的。
これこそ、ファンタジー!
嬉しいという気持ちが溢れてくる。
お酒を造るという目標に向かって、とてもみんな笑顔だよ。
楽しいね!
あれ?楽しいのに、楽しいのに、眠い。
段々と気が遠くなる。
魔力が抜けていく。テーレが詩に魔力乗せているの?
せめて倒れる心構えが出来るから、魔力を使うなら一言言って欲しいものである。だけど今は楽しいからいいや。
残念なのは可愛いテーレの詩ともふもふの共演が見れないこと・・・。
明日は卵ガチャ、引くぞー!
おやすみー