127.お肉と証拠品献上
シャンスに乗って父さんのいる場所まで行くと、おじさん達を無視して話しかけた。
「父さん、ご飯持ってきたよ」
「――そ、そうか。ありがとうな」
引き攣った顔をした父さんをに、どういたしましてと笑いかける。それを見て更に引き攣らせるとか、どういうことよ!母さんを見れば、めっちゃいい顔をしている。エディは長を枕に眠っていた。
キョロキョロと見渡しながら、子供たちのことを聞いた。
「あの子たちはこの家の離れにいる。ちゃんとお前からの腕輪を渡してたから、夜中目を覚まして叫ぶことはあっても、すぐに落ち着いたよ」
「・・・良かった。ご飯も食べた?」
「スープはしっかり飲んでたから大丈夫だ」
「そっか。ならいいや。父さんたちもお腹空いたでしょ。焼き肉持ってきたよ」
結局自分用に厚焼き玉子作れなかったから、あたしも同じものになるのは仕方ない。
父さんと母さんの前にお皿に入れたお肉と野菜を並べた。いいにおいが漂う。
それに合わせて鼻をひく付かせたエディが起きてきた。
「肉!」
「うん、ご飯持ってきたよ。長とシャンスも食べるよね?」
『もちろんだ』
『僕もお腹空いた!』
塩コショウだけで焼いたお肉の塊をドン、ドンとお皿に入れて並べた。
「どうぞ。このままでいい?タレかける?」
『タレいるな』
『僕も!』
「父さんたちも掛けるならどうぞ。あたしも食べよ」
お肉の皿の前にタレの小瓶を出してみた。そしてご飯の窯を出して、家族分お椀にご飯をよそう。
「ああ・・・マリー、目の前の人たちは」
「スープでいいならあるよ?スラムにいた人たちに食べて貰おうと、作ってきたので良ければ」
どこかの役人らしき者が、この無礼な子供は誰だとばかりに睨みつける。
いやいやいや、子供にそんな目を向けるあんたの育ちがどうなのよ。こっちはボランティアで動いてるっつーの。それをあれこれ言われたくないね。
気力が十分だからなのか、今日はいつもよりも強気な気がするな、あたし。
でも、まあ、町長さんには苛立ちはしたけど、この町を優先させるという責任でいうなら、間違ってはないからあげてもいいかな。
「町長さんも食べてみます?」
「頂けるならば、是非」
「子供の用意したものを口するなどと!」
あんただけ食べなきゃいいでしょ。出すつもりもないけどね。
「じゃあ、これをどうぞ」
一応人数分よりも多く持ってきているし、お肉は取りあえずある。
出したお肉は父さんたちと同じ物で、先ほどのやり取りを見ていたら使い方は分かるだろうと、タレの小瓶も出してみた。一応、ナイフとフォークも。
ちなみに父さんたちは箸を使っている。米を食べ始めた時にあたしのを見て練習し、今や綺麗な箸使いだ。
タレをかけるのを少しだけ躊躇したが、香ばしい匂いに好奇心が勝ったのか、すぐにかけて一口食べた。
それをみて父さんはホッとしたように食べ始めた。当然他の者は食べ始めている。
あたしもそれではと、初めて食べる魔物の肉を口にした。
これは大ヤギが魔物化したもので、角大ヤギとか鑑定には出てた。ヤギなんて殆ど食べたことなかったから、どうなんだろう。確か臭いがきついから好きだという人が少なかった気がする。だけど解体の時もだけど、そこまでくさかったのはなかった。
パクリ。
うん。生姜とかスパイスが聞いたタレが合うかも。美味しくないわけじゃないけど、あたしは微妙。
父さんたちは普通に食べている。エディはお替りというぐらいだから、好きな味っぽい。
あたしはシャンスのお皿にお肉をのっけて、食べたことのある角大鹿に切り替えた。これも独特の匂いはするけれど、山羊ほどじゃなくてタレを掛ければ普通に美味しい。他のお肉のように嗅ぎ慣れた臭いなのかもしれないけどね。
町長さんをみれば、食べて目を大きく開けていた。
これはどっちの反応なのか。
「これはヤギですよね?でも臭みが少ない。このタレにも秘訣があるようですが、肉自体にも何か特殊な加工を?ちょっと癖になりそうな感じがあります」
へえ~。やっぱり食に詳しい人だとわかるんだ。あたしはお肉評論家にはなれないな。お肉は最高級ならいつだって興味があるけど。そうあの狂牛のような・・・。
あれを思い出したら、何を食べてもアウトだ。今は忘れよう。
「この辺りにはいない魔物だからじゃないですか。角大ヤギって言うらしいですよ」
「エッ・・・。あの深き森にしかいないと言われている、あの?」
「そうじゃないですか。フェンリルの長とこのあたしの契約獣シャンスが狩ってきたので」
「なるほど・・・。それなら間違いないですね。流石です、長殿」
『まあな、大したことはない』
なんだかすました声で応える長に、少しだけ笑ってしまった。尻尾がもふもふになっているから、かなりテンションが上がっている。
「フェンリルの長!深淵の森で角大ヤギだと!」
「今はシャンスの兄たちが守っているから、安全ですけどね。ねえ、長」
『もちろんだとも』
話は済んだとばかりに呆けている役人を放置した。
町の人を怖がらせないように気を抑えているとはいえ、フェンリルもわからないでスパイはないっしょ。まあかなりの下っ端だし事務能力にしか特化してないんだろうな。このまま居なくなってくれれば問題なさそう。
「長とシャンスはまだ食べる?」
『今度はマリーが食べているものが欲しい』
「じゃあ、どうぞ」
同じくらいの量を出してみたけど、問題なく食べられている。
いい喰いっぷりだ。呑気にそれを見ていたら、
「失礼する!」
そう言って先ほどのスパイさんは突然出ていった。
さて、邪魔者は消えた。
「食べながらでいいから教えて。あの小競り合いは終わったんだよね?」
『話にもならん、我の咆哮で居なくなった』
「それはまああり得ない話じゃないけど、先ほどのスパイさんはなんで気づいてなかったの?」
『地下に潜っておったんじゃないか、例の穴に』
「ああ、隠し扉の物を回収しに?」
『そうだろうな。先ほどは探りを入れておった』
「ああ、なるほど。確か機密書類ぽいのもあった気がする」
イメージすればそんなものなんてそれだけしかない。すぐに出てきたので町長の前に並べてみた。
蜜蝋が押された手紙のような物から、巻物ぽい物までそれなりの量があった。
「これどうぞ。あたし達には関係のないものです。差し上げます。その代わり、この件に係わるのはこれで最後です。子供たちの支援のみさせて頂きます」
「――――わかりました。納めさせて頂きます」
「では、そういうことで」
「父さん、助けられた人たちのご飯はまだだよね?」
「ああ、多分まだだろう」
「じゃあ、村の人たちがたくさんスープ作ってくれたんだ。持って行きたい」
「そうだな。この後行こう。ではアシル町長、先ほど話していた件は問題ありませんよね?」
「ありません。どうぞ、よろしくお願いいたします」
しっかりと頭を下げた町長に、なんだろうかと疑問を抱きながら、父さんにあとで聞けばいいかとそのままにして、先を急いだ。子供たちがお腹空かせているのだから、早く行ってあげないと。
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