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123.迷いと行動 

外で大捕りものというか、小競り合いらしきものが始まっている。

だから余計にここには弱き者しか残っていない。このままいろいろ長引けばここももっと混乱が続くので、急ぐことにした。

ただ、少しだけ思うことがある。今回は完全にあの国がやらかしていることが分かっているから、こちら側に迷いなく立つことが出来たけど、本来ならすぐには動けないのだろうと。

いい意味でも悪い意味でも前世の固定概念というのは消えない。自分の中の正義感だけで力を振り回していたら、あっという間に力加減を間違えて、あの国の二の舞になってしまう気がする。

だけど助ける力があるのに見ているだけというのは、胃が痛くなる。意外と小心者なのだ。

その時だけの状況で判断していいことじゃないけど、それはそれ。

今後も弱い立場に立っている者が困っていたら、これからも手が届く範囲で助けてあげればいいよね?


父さんに頭を撫でられた。

「出来ることからやればいい」

「うん」


グレイトを呼び、母さんたちに伝言を頼んだ。

『スラム街にいる子供たちを助けるのを手伝って欲しい』

「で、そのままここまで案内してくれる?」

『はーい』


到着したところは、本当に酷かった。

捕らえられた男たちが暴れたせいもあるのだろう。瓦礫の屑とかしている場所も少なくなかった。

念のため崩れた場所に誰か閉じ込められてないかを『空間把握』で確認。

潰されてはいなかったが、閉じ込められているのが何人か見えた。地下か何かに逃げ込んでそのまま入り口が閉ざされたのかもしれない。


これは人海戦術でやるといっても時間がかかるし、力が足りない。精霊たちの力が借りれないとなると、シャンスと長にも手伝って貰う方が早い。ここは短期決戦で行くべきだ。

「父さん、そこの瓦礫の下に誰かいる。あたし達だけではどうにもならないから、シャンスにも来てもらうね」

「そうだな。人の命が優先だ。行ってきなさい」

「うん」

「さて、俺はこの斧で瓦礫を壊すとするか」


先ほどあたしが示した場所の瓦礫を一振りで粉々にしていた。あの斧凄いな。父さんのスキルも合わさってだけど、Aランクの魔物にすんなり勝てるはずだね。

さて急がないと。

『転移』

戻って大きく息を吸い込めば、体中に魔力が戻ってくるのが分かる。サクレのお陰で精霊もたくさんいるし、ここはやっぱり特別な場所なんだと気づかされた。

『マリー』

「シャンス、長、一緒に行って瓦礫を片付けたいんだけど、手伝ってくれる?」

「いいよー」

「わかった」

シャンスたちと一緒に戻れば、いきなり叫ばれた。

あれ?先ほどまでここには人が居なかったよね?だから直接転移してきたのに。

それなり(殺人・未遂含む・強姦等)の悪党は掴まっているはずだけど、念のため鑑定。

なるほど。先ほどの捕縛には引っかからないほどの、小悪党(盗人)だったか。だったら遠慮はいらない。

『縛』

二人の処遇はここの町のルールに任せるとして、さっさと助けに行かないと。

シャンスと長には瓦礫を壊してもらおうかと思っていたけど、ああ…そうだよね。

収納に邪魔な瓦礫をしまい込んでいた。

ある程度一杯になったら壁際に出していく。収納は魔力量に関係するのか、シャンスの方が度々壁際に向かっている。それでも一回で10tトラックぐらい積み上げるのだから、凄い。

目の前の視界が物凄い勢いで拓けていく。家で言うとコーポ3つ分ぐらい。

ここまでは全く人の気配がなかった。ということはあの罪人たちの巣窟だった場所だろうか?

その場所にぽっかりと開いた穴があった。

人の気配はない。が、あまり見たくない奴らがチョロチョロしているのが気配でわかる。それに『地脈掌握』を発動出せると、物置らしく物で溢れていた。

でも、もっと奥に小さいけど生命がある。魔物ではない。

「シャンス、この中に一緒に入って!」

シャンスに跨って入ろうとすれば、入り口から何とも言えない臭いが漂ってくる。これは急いだほうがいい。

「浄化」

杖から透明な魔力が穴に吸い込まれて行った。

それを追いかけるようにして中に入った。通路らしく場所には食料と呼ばれるものから、雑貨品から武器までジャンルに関係なく所狭しと乱雑に置かれている。どこかの商隊を襲ったものかもしれない。そこに規則性はなかった。

一番奥に行くと鉄格子のようなものが見えた。

思わず喉が鳴る。入口で嗅いだ時に感じた死の匂い。そこにそれがあるような気がして、だからこそ急いだけれど、そこを見るまで勇気を要した。シャンスに抱きつきながら、覚悟を決め恐る恐る覗いた。

思わず嗚咽をしてしまうほどの惨状。生きているとは言えないような容姿の者もいて、その場から一歩も動けなかった。カランキ村の時以上の衝撃で、ガタガタと震える。

この鉄格子を壊して中に入って、果実水ポーションを飲ませないとわかっているのに、膝をついたまま動けない。

「マリー」

心配そうに顔を舐めたシャンスの声で、少しだけ顔を上げられた。

そうだ。回復させなきゃ。

「エリアヒール」

足りない。もっと

「エリアヒール!」

「エリアヒール!」

三回唱えたところで、魔力が枯渇した。

そのままその場にうつ伏せた。

「マリー!」

「大丈夫。誰か呼んできて」

意識が完全に落ちる前に、果実水ポーションを5本出した。それを自分で飲む気力はもう残っていない。マジックバック・・・意識しただけで物が出せてよかったよ。


結界は常に発動しているし、誰かに殺される危険はない。危ない奴が近づくことも出来ない。あたしは安全だから、シャンスお願い。

シャンスが駆けていく音を聞きながら、意識が落ちた。



『マリー!マリー!聞こえてる?』

『誰?』

『もう!ちっとも会いに来てくれないし、放置したままなんて酷いじゃない』

『だから、あんた誰?』

『アリア、あなたの卵から産まれた巫女大精霊のアリア。思い出した?』

『ああ、あの残念巫女大精霊』

『酷い!マグマもそれなりになったのよ。早く見て欲しかったのに、ちっとも来ないから意識に呼びかけたの。今、必要でしょ?』

『マグマ・・・世界樹の葉!』

『そう、今なら誰もいないから使っても大丈夫。そのリュックに煎じたものを入れておいたから、使ってね。あ、魔力の回復は任せて』

『体が軽い?』

『もう起きられるわよ。あと帰ってきたらすぐに寄ってね。その杖に世界樹の葉を結晶化したものを嵌めこむから。そうすれば大規模な癒しが出来る』

『そんな出番あって欲しくないけどね』

『・・・そうね。とりあえず、そういうこと』


それだけいうとアリアは、先ほどまで繋がっていた回路を切った。

ああ、一応あたしの卵から産まれたから、繋がるんだ。正直すっかり忘れてたよ。

流石大精霊。あたしに魔力を送り込むことが出来るなんて。

なんて呑気なことを考えている場合じゃなかった。

ゆっくりと意識を浮上させながら、目を開けた。


鉄格子の中からいくつもの視線を感じる。どうやらそこまで回復したものがいるようだ。

良かった。

起き上がって土を払って、前を向く。ここで怯んでどうする。辛いのは目の前に人たちだ。

憐れんで同情する時間があったら、行動に移せ!

「あたしは精霊村のマリー。あなたたちをそこから出すから待ってて」



読んで頂きありがとうございました。

これからも少し遅れ気味にはなりますが、更新していきます。

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