122.町長の頼み
切り出された話は一言でいえば、食料の援助。
それはしてもいいと思っていたので問題ないけど、根本は解決しないよね?それとも今回のクリーン活動で少しはましになるのかな?
政治的なことには首を突っ込みたくないけど、好奇心がむくむくと騒ぎだしてしまうのは、性分なので仕方ない。でも、自分からは突っ込まないよ!ちょっとは学習した!父さんを見れば、どう切り出そうかと思案しているようだった。
「実際にはどのような形をお望みですか?マーティンさんの商会を通して、援助するというものであれば可能だと思います。ですが、精霊を通して何かをするというのは、お断りさせて頂きます。この辺りは魔素が少なすぎて、精霊が顕著するにもマリーの魔力を使うしかなくなります。10歳の子供に、させることではありません」
「それは、分かっています。これ以上聖女だけに強張るのは、間違いなく怒りを買うことになるでしょう。ですから定期的にこうやって市に来て頂けたらと思っています。その場合必ず警護の物を立たせます。傷一つ負わせないと誓います」
なるほど。今回みたいな研修というか実習を兼ねてここにくるってことか。出来なくはないよね。木こりや狩人をしていたおじさんとか、比較的時間が空いている人はいる。今は妖精族の人に物づくりの基本を習ってやり始めた人もいるけど、体を動かしたい人もいるし、その人たちに護衛についてもらったら出来ることはある。野菜も村だけで消化するのは余ってるからね。ここまでなら生でも大丈夫だけど、そのまた先となると鮮度は落ちる。これをキッカケにその野菜たちの加工を頑張ってみるのもいいかも。
手っ取り早いのは干し野菜かな。旅や冒険のお供にもなるし、保存は効くし、調理の手間が省ける。真空に出来る物が出来れば、更に何カ月ももつ。こんな風に飢饉が訪れた時でも助かると思うから。
「・・・運んでくるのは出来ますが、もう少し状況が落ち着いてからということでお願いします。いくら護衛がいると言っても売っているのは村の者となれば、こちらが恨みを買うこともあるかもしれません。ですから販売はどこかの業者に卸すか、町長自ら指揮をとって販売して頂きたいと思います」
うんうん。あたしが全部するなら返り討ち決定だし、やれるものならやって見ろ精神で行くけど、流石に村の人を巻き込んで、怪我されたら怖い。父さん、カッコいい!
町長といっても、日本の町長とは規模が違うからね。領地だけでいえば荒野も合わせれば、市ぐらいの大きさあるし、街になると県ぐらいの規模になるぽい。
何故分かったかって?グランとグレイトを斥候にだしながら、この町の地形が知りたいと思ったら、一歩間違えたら破壊神になる、あの杖の『地脈掌握』『空間把握』が発動して、脳内に地図が描かれ始めた。この二つだけだと完全に平面の紙に描かれた地図って感じだけど、グランとグレイトとあたしが見た場所は立体的に見れるようになっていった。
ただ・・・わかるのはいいんだけど、視覚の脳内処理が追い付いてないのか、ちょっと頭痛くて、気持ち悪い。今は3Dは無理。平面だけでいい。
スイッチが切り替わった感じがして、ちょっと楽になった。
流石にスマホのマップみたいには無理か。媒体が合ってそれに映し出せる何かがあれば最高なのにな。そんな媒体を作る知識なんて全くないからね。ああ、スマホ欲しい。
この世界の魔道具ってどれくらい進んでるんだろうか。
「―――――――-…では、それでお願いします」
あ、また話を聞いてなかった。
結局どうなったんだろう。
後で父さんに聞こう。
そこがスッキリしたなら、しっかりと聞きたいことがある。
「アシルさん。少しいいですか?二つ聞きたいことがあります」
「なんなりと・・・」
だからその仰々しい感じ止めてくれないかな。外の人とこういう接触したことがないからどうしたらいいのか、正解が全くわからない。
カランキ村もアルルも聖女を前面に出して威圧しかしてない気がする。
自分の行動に、反省。
「アシルさんは何故あたしを聖女と?」
「私はこの間まで神父だったのですが、このような事態になったので兄の命により町長になりました」
「神託が受けられるぐらい凄い人が、町長?」
「神託の内容は今日まで誰にも公言しておりませんでした。それが神との約束でしたので」
ああっそ。
仕方ないよね。あの国の自業自得と言えども、大きく揺るがしちゃってるし。
最近龍まででてきちゃったし。どこで進む方向を間違えたのか。
「神様はなんて言ってたんですか?」
「聖女の望むことを助けよと」
うッわー、アバウト・・・。あたしが何かやらかすことが前提?
「じゃあ、空いている家を孤児院にして、スラムにいる子供たちを助けて下さい。その子供たちが元気になるまでの間、最低でも半年は無料で食料を援助しますので。世話をする人とかはそちらでしっかり人選して雇ってくださいね。無料で働いてくれる人がいなさそうだから」
「食料の支援をして頂けるなら、助かります。では今から救出の手配をしてきます」
「よろしくお願いいたします。ではあたしたちは、子供たちが食べるものを用意します」
「あ、後一つ。何故一掃作業が今日だったのですか?」
「かの国が関わっている小悪党が紛れ込んでいましてね。迷惑していたんですが、この町を巻き込むわけにもいかず、タイミングよく暴れてくれたので、助かりました」
へえ・・・。
これはいいように使われたかも。あたしだけなら、それでも許せたんだけどね。偶然かもしれないけど、村の子を巻き込むとかありえない。こっちは生粋の聖女じゃない。この世界に染まってもいない、型破りが売り。貸しにさせて頂きますよ。
「あたしを出しに使うなら、(町の為とは言え)中途半端なことは止めてくださいね。血気盛んな者たちが、沢山いるんで」
「・・・・・・っ、御意に」
ああぁぁぁぁあ、結局威圧しちゃったよ。
だってね。先ほどから頭の中でアラームが鳴り響てるんだよ。
先ほどの地図が脳内で映し出されて、赤い点がそれなりにこっちに向かってくるのが見えるんだよ。
グレイがどこかの兵崩れのような男たちを映し出すんだよ。
これどう考えてもあの盗賊たちの奪還か、どこぞの兵を束縛したという因縁つけて町襲ってくるか二択に思えるんだけど、他にある?絶対情報が洩れてるよね?ワザとだったりする?
「ねえ、父さん」
「マリー・・・」
「あたしが悪いんじゃないよね?」
「・・・そうだな。今回は理由付けの一つだな」
「だよね!ここにあたしが来たのだって、・・・たまたまだよね?あれ?・・・シエロ!!」
呼ばれるのが分かっていたようで、待ってましたとばかりにやってきた。
「えーと、神様が言うには、アシルさんは神の従順な神の僕とのことで、実行するなら今日が良いと神託したよ。って。だからシエロ頑張れって」
「だって、父さん」
「じゃあ、シエロ頑張ってくれ」
「うん、頑張って!」
「ええっぇぇぇぇぇ・・・一緒に行ってくれないの?」
「うん、行かない。人間同士の戦いには関わらない。子供たちの救出が先。アシルさんと一緒に、捕まえてきたらいいよ。いってらっしゃい」
これでよし。色々とイラっと来た。シャンス連れて来て背中に乗ってようかな。
もふもふできるし、機動力上がるし、いざとなったら逃げられるし。
頭ではわかっていたけど、力を持つって、色々と巻き込まれるよね。
というか、今更だけど、シエロがあの時ここに来たがってたのって、もしかしてこれがあることが分かっていたから?!
あの時、なんていってたっけ。
『何言ってるの。僕は当然行くよ。聖女が活動するのに、僕がいないとかおかしいし』
ああ、そうだね。あたしが話をちゃんと聞いてたら、ここまで話を大きくしないで良かったんだ。
一人で何でもできているように思っていたけど、ダメダメだ。
村に閉じこもってたらスローライフが出来るけど、人との関わりが大きくなればなるほど、力が必要とされて行く。力も大きい分、使い方を間違ったらだめだと教えられてばっかりだ。
向こうはシエロに任せて、あたしはあたしで出来ることをしよう。
読んで頂きありがとうございます。
ブックマークも、増えた!
ここで気合で書こう!と思ってたのですが、ちょっと忙しくなるので
不定期になるかもしれません。