119.トラブル発生!
深淵の森改め聖女の森から戻ってすぐに、グレイトから三人とも無事に町に入ったと連絡があった。
良かった。
あまりにもこちらが急展開だったため、向こうの様子を気にする余裕すらなかったのだ。
ひこちゃんがいるし、魔物や盗賊でやられることはないから、心配は体力低下からくる病気とかだけだった。まあ、あの子たちもここで鍛えられてはいるから体力はあるけど、色んな意味でのストレスは初だからね。色々聞きたいこともあるけれど緊急性がないなら明日ゆっくり聞こう。
今日は疲れたし眠いし、お腹空いた。あたし、子供の体で働きすぎだと思うんだよね。ブラックなんて言うもんじゃない、真っ黒だよ。まあ・・・半分以上、自分のやらかしのせいだけどね!
特に巻き込まれ体質の父さんの疲れ方も半端ない。まあ無理もない。連続で魔力も体力もギリギリまで使ったんだから。
同じようにハッスルしていた母さんは、・・・元気だね。
父さん・・・頑張れ!
あたしは限界。疲れを取るためにすぐにお風呂に入ったが、そこで一瞬寝落ちして頭がずっぽりとお湯の中に沈んだ時には、流石に慌てた。
すぐにお風呂から出て、精霊の万能薬を食べたら、夕食を食べる間もなく気を失うように眠った。
目覚めたのは陽が高く昇った昼前。喉の渇きとお腹が空きすぎて目が覚めたって感じだ。
頭がボーっとする。
お昼はしっかり食べたいし、まずは体の体調を整えておかないと。アイテムバッグから昨日と同じように精霊の万能薬を食べ、精気を補った。
頭が段々とクリアになったところで、グレイトを呼び、気になっていたマーティン一行のことを聞くことにした。
昨日の夜ヨハンが交渉して、反物は全て高額になりそうだったため、マーティンさんに5掛けで卸したこと。その合計金額が大金貨256枚(2560万)になったとのこと。これは予想外な大金だった。国によっても反物の価値が違うから、本当の意味での価値はわからないけど、売れるということが分かっただけでも、村にとっても織っている人にとっても自信付けになる。
それにそんなに価値を見出してくれる人が居るということは、露店に出したら目を付けられて帰りが大変だったかもしれない。売ろうと決めたヨハンの機転は、文句なしに素晴らしい。そしてそんな大金をポンと出せるマーティンさんの商会が凄い。あるかないかわからない食料を求めて、冒険者を雇ってまでくる剛胆な人だ。商機は逃さないのだろう。
それにしても、ヨハンこのお金の価値を分かってるのかな?良くも悪くも貨幣の価値がよくわかっていなかったから、出来た交渉なのかもしれない。
あとはお金の管理だね。販売したお金は必ず個人で持つと危ない。そのことを先生役の人にしつこいぐらい言われているから、お金はひこちゃんに持たせているポシェットに入れると思うから、奪われる危険は少ない。その分安心だ。
それからも報告は続いた。
・門番の役人の不正
・ひこちゃんを連れていることで目立っていること(優秀なテーマ―の存在)
・マーティンさんの商会と一緒だったことで安全は守れているが、様子を窺っている者たちが居ること
商品狙いなのか、ひこちゃん狙いなのはわからないこと
・今は市場調査(露店巡り)を終えて、大体の値段を把握したところ
そんな報告が上がってきた。
この使い魔君たち、優秀なんてもんじゃない。見たままでなく状況把握まで出来るの?凄くない?知ってたけど、凄いよ。
なんて言ってる場合じゃないね。肉を売るのはいいけど、お酒大丈夫かな?
「ボルテモンテの町の治安はどう?」
『最低限は機能している』
「それ、駄目じゃん」
『ダメダメ』
「役人が堂々と不正しているぐらいだもんね。警備とか機能している?」
『一部』
「あ、そう・・・」
『スラム街、子供たち飢えてる、ギルティ』
「すぐに父さんに知らせてくるよ」
『了解』
家の奥にある宴会場を仕切った一角で、村の話し合いが行われていた。その中の一つがヨハンたちのことだったので、丁度いいと思いそこに乗り込んだ。
「父さん、そのヨハンたちなんだけど、無事町に付いて今から露店の準備らしいんだけど」
「何かあったのか?」
「グレイ・グレイトからの報告だと、治安が悪化しているみたい。反物は高価な値段が付くらしくてマーティンさんに卸したからいいとして、肉は販売の仕方で揉めるかも。それ以上危険なのはお酒」
『乱闘、乱闘!護衛の冒険者応戦中!』
「子供たちは!」
『結界発動中』
「カーヤに念のため渡したのが、発動したみたい」
『自衛団到着、商品を押収しようと・・・アリベルトが説明、ブレイブ商会の名前で一応鎮静』
「父さん、行こう。みんなには後でちゃんとまた説明しに戻ってくるね」
「そうだな、様子を一度見てくる」
『ひこちゃんの居る場所へ転移』
う、ちょっとキツイ。やっぱり初めて行く場所は目標物がはっきりしていてもブレる。
これが本で読んでた中にあった、転移酔い。とか感心している場合じゃない。気持ちわるっ。
「マリー大丈夫か?」
『マリー、マリー大丈夫?』
「父さん、ひこちゃん大丈夫。果実水飲むから」
アイテムバッグから取り出し、キュッと一飲み。
ああ、爽快。
「えっ?村長さん?」
突然商会の庭に現れたあたしたちに驚くマーティンさん。まあ、普通に驚くよね。
「ご無沙汰してます。ちょっとトラブルみたいなので、様子見に」
普通に会話を続ける父さん、中々やる。
「え、トラブル?」
これで突然現れたことについて、突っ込む余裕がなくなったはず。
あたし達にも余裕ないけどね。
「マーティンさん、ちょっといいですか!」
駆け込んできたのは、マーティンさんと一緒に来ていた護衛の一人だったと思う。
「丁度良かった。揉めている場所へ連れて行ってください」
「え、誰?・・・って、精霊村の村長さんも?」
「いいから早く!」
あたしが誰かなんて、今はいいんだよ。
「え、あ、そうだな。アリベルトが話しているけど、マーティンさんが居た方が話が早い」
ということで、連れ立ってその場所に駆け付けた。勿論あたしは父さん号に抱えられて。
足が遅いわけじゃないよ。足の幅が足りてないだけで。
現場に到着した時には、並べられていたお肉が散乱し、踏み荒らされていた。お酒も何瓶か割れているけど、他は結界の中に商品があって無事のようだ。
ヨハンが散乱した商品を見て、悔しそうに顔を歪めていた。ビアス、カーヤは気丈にもヨハンを庇うように前に出てた。
うん、三人とも頑張ってる。
「どうなっている?」
マーティンさんが声を掛けてことで注目がこちらに向いた。
「え、ホセさんとマリー?」
「はあい」
父さんは大人の話し合いの中に加わったので、あたしはトコトコと結界が張られている三人の場所へ入った。
「なんで?」
「この状況をうちの子達が知らせてきたから。面倒になる前に、お酒片づけちゃうね」
無事な酒瓶25本をマジックバッグに仕舞い、棚に出していた物だけそのままにした。お肉も炊き出しにするので、棚に出してない分はすべて片づける。これで没収と言われても、腹が立たない。ついでに空瓶を幾つか転がしておいて、あくまで暴れた奴が悪いことにする。
「ヨハン、しまい込んだお酒、マーティンさんに交渉して販売したらどうかな?かなり名のある商会みたいだし、この町での影響力もあるみたいだから、悪いことにならないと思う」
「町の人に買ってもらいたかった」
「うん。今は食べ物が足りなくて、みんな気がたっているみたい」
「やっぱり、足りないの?」
「全員は無理みたい。裏にスラム街もあって、子供たちがやせ細っているんだって」
「そ、それって」
「ここは町で、カランキ村より規模が大きいから、飢えも大きい」
「スープを作って配ろうと思う。手伝ってくれる?」
「儲けが出たら、ちゃんと還元しないと駄目だもんな」
「流石ヨハン、いいこと言うね」
「いや、マリーに言われてもな。普通、ここまで来るかよ」
「やらかしている自覚はあるんだけどね。出来る手段があるのに、知らない振りなんて出来ないでしょ?」
「まあ、マリーらしいよ」
「ビアスもカーヤも勇敢だったね。ちゃんとヨハンの前に居たし」
「マリーに貰った、お守りのお陰だけどね」
「気概が大事なんだよ。三人が信頼関係で結ばれているって分かって嬉しい」
そんな話をしている内に話し合いは終わったらしく、父さんがこちらに来た。
さて、どうなったのか。父さんの眉間のしわの深さを見れば、ちょっと面倒なことになったのかな?
まあ、ニヤニヤした奴らが言いそうなことだよね。
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