117.もうすぐボルテモンテの町
マリーたちが深淵の森を浄化しているころ、商人のマーティン一行は順調に旅を続けていた。
「ここまで魔物に合わないでスムーズに移動できたのは、初めてだ」
マーティンの呟きは三人の耳に入った。
「そうなんですか?」
ヨハン、ビアス、カーヤの三人は、慣れない夜営といつくるかわからない魔物に備えることで、精神をかなり削れていた。
だから魔物が出なくてホッとしてたのだ。これなら自分たちでもここまでなら旅が出来るかもと。
護衛の冒険者の人たちは、声を出して笑った。
「これくらいなら自分たちだけでもと思っただろ?」
俺たちの様子を見て悟ったようだ。
「あははは、図星か?・・・残念だが行く途中はこの10倍はいたぞ。街までもうすぐのこの距離なら、冒険者がよく狩りをするからそこまでは出ないが、カランキ村に行くまでが酷かったな。逆に村に近づいたら少なくなったから、もしかして栄えている村なのかと期待したが、想像したままだった。多分精霊村の清廉な空気が魔物を寄せ付けないのだろうな」
実際には長やシャンスの強い気を感じて、魔物は近寄れないのだが、そこは冒険者は知るはずもなく仮定の話だ。
「俺たちは楽ができて助かるが、君たちには冒険の訓練にもならないかもな」
どうやら自分たちは頑張って冒険しているつもりだったらしい。そのことが分かってがっくりと来た。もっともっと訓練をしたないとダメで、すべてはこのコッコのお陰だと言う事だ。
「帰りはあたし達だけなんだし、もっと気を使わないとダメッとことだよね」
「そうだな。帰りは荷馬車に荷物はあまり載せるものがないから、俺らが乗って一気に駆けて帰るのもありか?」
「そうだけど、お土産ぐらいは買うでしょ?」
「まあ、珍しいものがあればな」
「「だよなぁ(ね)」」
まさか自分たちの村のレベルが、思った以上に高かったことに驚きを隠せないでいた。道中町のことをあれこれ聞いていたが、宿にお風呂がないのが普通だし、出来て水浴びだと言われてショックを受けた。まあ、そこは夜営でもそうだから、最悪我慢できる。
一番ショックだったのは食べ物だ。食料不足とは聞いていたから、量が少ないだけだと思い込んでいたら、内容までも違っていた。肉の質から始まり、調味料と野菜種類の豊富さは段違いだった。
まず、強い魔物を倒せるものが少ないので、小さなものを狩ることになる。当然必要とする人数が多いため、良質なものは高額で取引される分、庶民には口にすることがない。村で自分たちが普通に食べている食事は、町では貴族という特級階級の一握りの者しか口に出来ない物だと知った時は、ショックが大きかった。
それだけでなく村でとれるただの岩塩すらそうだという。そもそも取れる場所は決まっているらしく、どこの村や町でもかなり高額に取引されていること。しかも雑味が混ざったあまり良質なものはないらしい。嵩を増すためにわざと不純物を取り除いていないものさえあるそうだ。
そして一番驚かれたのは、豊富な調味料。
野菜を乾燥させたものに、味噌を解いただけのお汁が食べたことのないものだから、売ってくれと言われてみたり、途中狩ったものを捌いて食べた時の、肉の固さと臭み。食べたことのないものだった。耐えられなくなってハーブ塩をだしてかけたら、なんとか食べられた。今度はかけて漬け込んでから焼いてみようと話したりもした。それを見たマーティンさんが、村でハーブ塩と呼んでいるものを欲しがったり、他に何があるのだと興奮して、詰め寄られる事態まであった。
あと醤油と言われるものや、肉の特製タレの存在を明らかにすると、突然叫ばれた。
「わたしとしたことが!なんていうことだ!」と蹲るマーティンさんに、少しでいいから売ってくれ!と肩を掴まれたことは記憶に新しい。
「この子たちと一緒に帰って、今度は調味料を買いにいくのもいいかもしれない」と呟いていたから、もしかしたら、帰りも賑やかかもしれない。
まずは自分たちが出す露店の周りにも店が出るようなので、見てみようということになった。
「森の気配の探り方は少しはわかったか?」
「あ、はい。だけど練習しているとかなり疲れますよね?」
「それは仕方ないさ。冒険者は常に生きるか死ぬかが隣り合わせだ。魔物だけじゃなく、外でパーティを組むとなったら、人をよく見ろよ。本当に怖いのは魔物じゃなくて、欲を持つ人間だからな」
ゴーランは思う。誰かに騙されるということに慣れていない、純粋培養された精霊村の子供たち。街に行けば、カルチャーショックを受けるかもしれない。だけど、それも勉強だと。
マーティンさんにも、この子達の商談の影の護衛として3日間雇われている。コッコのお陰で帰りの速度が思いのほか早く、契約の日程が余ったのだから契約上それは問題ない。だが、魔物と人間とのやりとりは違う。あの子たちはどう動くのか予測が出来ない分、無茶なことはしないで欲しいと思っている。でもまあ、あの切れ者アルベルトが補佐に付くようだから、問題はないか。
それにしても、商人であるマーティンさんを信頼したからと言って、正直子供たちだけで街にやるとは思ってもみなかった。後から大人がこっそりと後を付けてくるのかと思ったが、それも気配がない。行きと帰りはあのコッコがいるから問題ないが、子供たちだけで商売をさせるというのは、思い切ったことをする。
そこまで考えて、自分たちもそうだったなということを、思いだした。
田舎から出てきて、冒険者の何たるかを教えてやると、手数料と言いながらのカツアゲにあうこと、日常茶飯事。それも勉強だと言われながら、必死にランクを上げた。
途中前のクランのリーダーに助けられなかったら、生きていたかも怪しい。自分のパーティーを作るときに言われたことは、お前みたいに困っている奴が居たら、自分で出来る範囲助けてやるといい。周り廻って幸運がやってくるだろうと教えてもらった。これも巡りあわせなのかもしれない。あそこで過ごした数日で、体のキレが一昔前のようによい。
まあ少しも下心がないと言い切れないのがカッコ付かないが。それだけあの酒は、実に旨かった。
さあ、あと少しの旅路だ。この調子なら早ければ夕方には町に付くだろうが、気を抜かずに行こう。
今日も読んで頂き、ありがとうございました。
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何があった!
あと、誤字脱字報告もありがとうございます。
基本有難く思っているのですが、直して欲しくない表現もあるので、スルーしているものもあります。
誤字報告以外の、それらを見た結果…作者が落ち込むので、機能を入れたり切ったりしてます。(今は切ってます)
本にするわけじゃないし、趣味で書いているし、一度手を止めるとまた書かなくなるので、今は書くことを優先いたします。
あしからず。