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116.深淵の森から聖女の森へ

帰ってすぐに肉奉行として頑張ったら、母さんもエディも機嫌を直した。正直エディがあそこに行っていいものかと思うけど、あたしが参加する時点で、その言い訳は通用しない。長と常に一緒を言い聞かせて、行くことになった。


今日は深淵の森攻略の日。

おにぎり・パンをマジックバックに詰め込み、調味料の確認をする。

後は果実水ポーションと果実そのもの。

そしてサクレの別れ枝。

そして昨日父さんが今日の為に、昨日の夜捌いた肉。

昨日の夜は、一人疲れた表情で解体をしていた。あの出刃包丁のお陰で一時間ほどで済んだようだけど、流石にちょっと哀れに思った。どこの世界でも優しさに溢れる世界は、女性が強いところだよなぁ。と思うことにしている。正直自分もその道を歩んでいる気がしてならないから。


今日の肉は、昨日が狂牛だったので、暴れ豚と暴れ鹿だ。流石にこのあたりに狂豚等はいないらしく、長がいたら狩ってやるのにと言っているが、これも王都で貴族しか食べられないほどの肉なんだから、文句はない。


あたしといえば、豚、鹿たちの若干臭みが気になるので、ハーブ塩をいくつかの部位に分けて漬け込んだ。

大人たちからすればこの臭みこそが、独特のアクセントとなってお酒のつまみにいいらしいが、あたしの舌は残念ながら子供だ。


「さて、準備はいい?」

昨日のメンバーに加えて、母さんとエディ。

そして村人と契約をしていないフリーの精霊たちの半数。

深淵の森の整地が終ればそこに住み着くことになるフェンリルたち4匹。シャンスの兄にあたるらしく、群れを率いて独り立ちをすることになっていたので、丁度良かったようだ。

大所帯だ。


シエロの周りに集まり、昨日結界を張ったところに転移した。

昨日整備した地は問題ないみたいだけど、それなりに奥はまだ争っている気配がある。

父さんと母さんの近くにはシャンスの兄たちが、エディの傍には長が付いてくれることになったので、安心してあたしはここで精霊たちと共に土地を癒し、それらが落ち着けば、テーレと共にサクレの植樹だ。

シャンスはあたしの護衛兼癒し要因だ。狂牛を食べてからモフ度が更に増しているのだ。このもふをゆっくりと早く堪能できる日にするために!マリー、気合入れます!


もしもの場合を考えて父さんたちには、2回分の果実水ポーションを小瓶に入れたものを渡しておく。何があっても即死だけはない装備と武器は渡しているし、結界の強度も上げた。

家族だけだから自重なんてしない。

さあ、気合入れて行こう!


それぞれが別々の場所に駆けていく。エディだけは森の奥でなく街だった場所がメインだ。

エディの戦い方を暫くみていたが、地の精相棒ミミとの連携が出来ている。そこに風の精シンが参加しているので、効果抜群だ。エディの矢で足を止め、ミミが剣を作り、シンがそれにスピードを乗せ一気に魔物を切り裂いていく。

それを見ていた別の風の精がエディに興味を持ち始めたので、新たな相棒が出来るのも近いのかもしれない。


さて、エディが安定しているのを確認したので、安全圏を増やすためにあたしも頑張りますか!

お肉になりそうな魔物や何かの素材になりそうな魔物は、それぞれフェンリルたちが確保しているが、それ以外は全て焼却するので、倒したままだ。あたしはそれらも全て無に還すために、地ごとリュビと一緒に浄火する。そのあと続いてグンミと一緒に浄化させ、新しい生命の誕生を祈る。


あちらこちらに散らばっている魔石をソルが新たに作った、魔石収納袋に回収する。この魔石収納袋には自動回収というスキルがついている。だけど収納する者が魔石と感知しなければ回収が出来ない為、ソルが地脈感知で感じたものを袋に入れているというわけだ。たまに珍しいものがあるみたいで、目が輝いている。


さあ、凄い勢いで魔物の気配が少なくなっているから、気合を入れないと。

他の火の精と水の精、地の精も同じことをしてもらっている。ある程度広さが出来たら、テーレと森の精が何もなくなった焼け野原に、光が差し込むように木を植え、育成させる。


どれぐらいの時間が経っただろうか。集中力が切れお腹が空いたなと思う頃、皆同じだったようでフェンリルたちに乗って、帰ってきた。

それぞれのお皿にお肉を乗せ塩を振り、軽く焙ったら出来上がり。

父さんたちにはタレも渡して、それぞれに好きに味付けしてもらうことにした。フェンリルたちがタレを欲しがったらそれぞれパートナーとして戦っている者が、かけてやればいい。

精霊たちには果物をお皿に盛ってあげれば、好きに食べてくれる。

肉に興味を持つ者もいるかもと、サイコロ肉を焙って果汁を掛けておいた。

うちの子たちは舌が肥えちゃってるので、お肉も昨日程食いつかない。味見程度に手を出していたが。

ならばとジャムがタップリかかったパンも並べると、そちらの方が嗜好品としてよかったらしく、一服にはこれよねーなんて話している。

村の果実で作ったジャムなんて、最高品だもんね。

シエロが頬張りすぎて怒られているのは、いつもの風景だ。


これだけみたら、のどかないつもの様子なんだけどね。

ドラゴン様がやってこなければ。

敵意がないのは結界にすんなり入ってこれたことでわかったが、デカくね?

デカいよね?敵意ないのがわかっていても、この大きさは流石のあたしでも、ちょっと顔が引きつりますが?まあ牛が家一軒分あるんだから、当然よね。小学校の体育館ぐらいあるよね?


『馬鹿者!来るなら来ると先に念話を送れ!早く小さくなれ!皆が困っている』

え、しりあい?仲がいいの?

『あんたにそんなこと言われる筋合いはないね』

あ、どうやら違うらしい。

『ならば我らが力づくで相手になるが?』

一斉に長の言葉に反応したフェンリルたちがドラゴンに向き合う。

シャンスはあたしたち家族の前に立った。

『フェンリルの長たるものが、ただの犬コロに成り下がったかと思ったが、小さいながらこの気配は聖女のものだったか』

シャンスに抱きつくかたちで気持ちを落ち着けていたが、こっそりと背中からドラゴンをみると、あたしの魂の奥深くを覗き込むような目とあった。


それが忌むものではなかったので怖くはないが、体は正直に固まる。これが蛇に睨まれた蛙の気分か・・・。

『面白い魂だ。我らもこの地が正常なものになるのは、正直助かる。手助けしよう』

『やっぱり向こうではおっぱじめたのか』

『ここを切り離した王を息子と家臣は見限ったらしく、謀反を起こした。じきに周りの国は戦火に包まれるであろう』

『それを先読みしてからここに来たのであろう?相変わらず食えん奴だ』


話を簡潔にまとめると、ドラコンさんは先読みが出来るらしく、住んでいた山が戦火に呑まれるのが予測され、聖女の気が感じられる山まで来た。そこは住むには最悪な場所だったが、自分たちが来たらどうなるのか予測でき、今の現状になっていると。


『ただ腐(負)の気配が強すぎて、精神の安定していない若い者が少し病んでおる。そこの果実を分けてもらいに来たのだ』

「じゃあ、あたしがシエロに乗ってそこに行こうか?」

「何を馬鹿なことを言っている!」

「そうよ!そんなこと許すわけないでしょ!」

フリーズから解けた父さんと母さんに怒られた。ちょっとワクワクしたのがばれた?

「仕方ない。テーレ大きなカゴを編んでくれない?そこに果物入れるから。取っ手が付いているものがいい」

「わかったわ」


すぐにイメージ通りのカゴを編んでくれた。流石テーレ!

そこにバッグから色んな果物を放り込む。ドラゴンも好みがあるだろうからね。

「一先ず、1つずつ食べさせてみて。大きさによって食べたほうがいい個数が違うと思うから。足りなくなったらまた来てね。村まで取ってくるし」

『かたじけない。ちと急ぐでな、あとでまた礼に参る』

「後で大丈夫。またね!」


手を振って見送ると、皆に一斉にため息をつかれた。

「マリーはどこまでも規格外ね」

「母さんに言われたくない」

「私はドラゴンについていくなんて発想、ありません!普通は敵対しているものという認識ですからね!今回は長がいたから大丈夫と分かったけれど、普通は近寄りもしないの!」

ああ、そうかも。

確かに始めは怖かったが、話せば意外に怖くなかった。白いドラゴンはただ綺麗で高潔、そして清廉さがあり、フェンリルやシエロに近い気を感じた。それは多分間違いじゃないと思う。


あ、早速食べたんだ。それぐらい劇的に山の向こうからの気が変貌した。

奥の方の魔物はきっと全滅だね。

『やり過ぎだろ』

長の一言に深く頷いた。

「長、魔物がはやく片付くのはいいけど、あの土地も浄化したほうがいいんだよね?」

『いや、あ奴らがいる限り問題ない。ただ魔石が転がっているのは良くない』

「だよね。地の精たち魔石を回収して貰っていい?」

一斉に頷いた地の精。

おおおおおおおっ、可愛い。可愛すぎる。並んで食事しているだけでも可愛いのに、皆同時に頷くとか!動画撮影してあの世界ならばアップするだけでこ稼げること間違いなしの可愛さだ。出来ないのが残念だよ。

幾つかのグループに分かれてもらって、魔石収納袋を渡した。

「よろしくね!」


こうして何日かかかると思っていた上位の魔物は、駆逐された。

後は浄火と浄化を繰り返し、緑を増やすのみ。

一応何かあったときの避難場所として、テーレに頑丈な家を1つ作ってもらった。

その家の横に、サクレを植える。

サクレの反対側には果実の木を幾つか。

水の精たちのよる精霊の泉も設置され、最低限のことは出来たと思う。


テーレが言霊を唄う。

それに合わせて森の精が躍る。

いつみてもカラフルなピンクがふわふわ綺麗で、可愛い。

サクレの周りを詩と共に、森の精が舞うたびに数を増やして行く。

ピカッとサクレが光ったら、大木へと変化した。

ああ、この地の守りとなる木だと、改めて思う。

殺伐としていた心が安らぎ、和む。

山々も、何処か騒めいていた空気が静まり返っていった。


『あやつがマリーを認めたから、もうこの地はマリーのものだ』

長がホッとしたように言った。

もしかしたらあの白いドラゴンの住処が無くなるのが、嫌だったのかな?

勝手な憶測だけど、全くの的外れではない気がした。


ここに来た時は『深淵の森』という名称だったが、今は『聖女の森』となった。

宝玉にもそう記載されたはずだと長は言う。

『だから侵入したものは、敵対行動をしたものとして、あやつめと一緒に乗り込んでやれば黙るだろう』

なんだか長から物騒な言葉が聞こえた。

まあ、何も悪いことしていないのに、友達が住処を追われるとか嫌だもんね。

その時は出来るだけ穏便にお願いしますよ。


でも、あれ?昨日狩って食べたらなんて物騒なこと言ってなかった?

『知能のない下級、ワイバーンや地竜(トカゲ)のことだ。あやつぐらいの者になるとドラゴンという一括りの中には属しない。人間たちは龍と呼んでいるはずだ』

なるほど・・・。一安心・・・。って、龍だったのか。言葉しゃべれるもんね。


残りはサクレがゆっくり浄化していくので大丈夫だと、テーレからもお墨付きをもらい、森は落ち着きを取り戻した。時間が経てば、妖精族も戻ってこれるかもしれないね。

清涼な風が髪を流す。

どうやら風の精も馴染みだしたようだ。

フェンリルたちと精霊たちがあとはここを守ることになる。

「また様子を見に来るからね」


一気に疲れがやってきたあたしたちは帰路を急いだ。

お腹もすいたけど、眠い・・・。


ブックマーク&評価ありがとうございます。

今回も調子に乗って書けました!

さて、話が大きくなりすぎて、纏まらないなんてことがないようにしたいところ。

ラストまでの道のり長し。


気が付けばサボっていた数カ月の間に、初投稿より一年経ってた…。

取り合えず、頑張って書いてみる。

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