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115.深淵の森

『今日はもういいか』

『僕もー』

お昼ご飯食べてから一時間ほど、狩りに刈ってスッキリしたのか、キリがないと思ったのか二人が帰ってきた。

そして戦利品をあたしに渡そうとしてくるので、取り合えず持っておいて欲しいといった。

「なんでだ」

「たしかにあたしのマジックバックは優秀だよ?何が入っているのかすぐにわかるから」


「でもね!基本食べ物を入れておきたいの!冒険に必要なものが入っていればいいの。魔石が大量とかはまだいいとしても、魔物の死骸が一杯とか、ちょっと」

「まあ、これだけの素材、近辺では捌ききれないからな。バックの肥やしになることは決定だな」

「アイテムバッグの外へは持ち出しは危険か」

「その通りです、長」

「仕方ない。食べられる物だけ持って帰るか」

「うーん。でも…勿体ない。あ、それなら全部持って帰って妖精族の人たちに仕分けてもらったらどうかな?加工できるものがあるなら、色々と試してもらえばいいし」

「そうだな。製品にしてしまえば、それなりにまた違ってくるだろ」

「だから、長!お願い。持って帰って」

『仕方がない。我は今日の夜はあの肉がよい』

「ああ、例のあれね。まだ確か捌いてなかった。なら帰ってすぐに食べられるように、したほうがいいかな。父さん、ここで狂牛捌ける?」

「見たことはないが、でかいんじゃないか?」

「あ、うん。デカいね。家ぐらい」

「それは一人じゃ無理だ。5人入るぞ」

「これを使っても無理かな?」


取り出したるはじゃじゃーん、よく切れる出刃包丁。驚くことなかれ、これを手にすればなんと!一太刀で一気に肉が捌けるという、超超超驚きの逸品だ。

この出刃包丁には自動浄化と洗浄は勿論のこと、スキル解体が組み込まれている。妖精族の知恵とソル達地の精のコラボ作品だ。持っている者の力量で解体する時間は違うが、初心者でもそこそこ出来るとのこと。これはまだ試作品なので、1本しかない。


「さあ!父さん。思い切っていこう!」

「マリー・・・」

次に続く言葉は多分いつものあれ。だけどもうそこはいい飽きたのか、諦めたのか。その刃渡り50cmの出刃包丁を受け取った。

よし!じゃあ、解体場を作らなきゃ。

ソルとグンミがその場の土を練り上げその場に広げる。続いてリュビがその土を一気に焼き固めた。シンがそれに風を送り一気に冷ます。それって割れないの?なんて常識は精霊たちには通じない。やれるのだ。


「じゃあ、出すよ」

長から受け取っていた狂牛を、即席解体場にででーんと出した。

「・・・。――仕方ない。やるか」

愚痴を言っても埒が明かないと悟ってたらしい。多分疲労もピークに達してるのだろう。美味しい果実水ポーション出すから、頑張って!


普通なら何人もかかってやる解体で一時間ほどはかかるだろうという大きさを、一人で30分ほどでやりきった。

「父さん!凄い!」

「これは・・・凄いな」


その言葉は包丁と肉の濃厚さ、両方だろう。

見た目、匂いともにマグロのトロのようなのだ。生でも行けるんじゃない?なんて思えるほどのものもある。


狂牛の大トロ…魔石を取り巻く肉。その為ほんの僅かしかとれない。超貴重なレア食材。一口食べただけで1年は若返ると言われるほど。(あらゆる細胞の賦活作用あり)


あ、これ。母さんに見せたらダメな奴だ。だからと言ってここであたし達だけ食べたら気づくに違いない。これはいざという時の為に除けておこう。さっさとマジックバックに仕舞った。

長たちには念話でそのことは伝えて、満場一致で了承を得た。

とても深い頷きだった。



それぞれの部位も見事だった。捨てる部位が1つもないって凄い。これを見てしまっては、帰ってから食べるとか、何の拷問だろう。

さてとマジックバックから、マイ包丁(命名切れ味抜群君)を取り出した。

簡単に並べられた部位を仕舞う前に、それぞれ少しずつ切り取る。これだけ頑張ったんだ。ご褒美があってもいいと思うのだ。帰ってからまた食べても、飽きないに違いない。

ホルモンなどの内臓の処理は時間がかかるから全部仕舞う。


各部位を少しずつ切り取ったあたしは、それらを簡単に塩を振って焙った。

これだけの肉、タレなんてきっと邪道。

長とシャンスは厚みのあるステーキを部位ごとに5種類。

精霊たち・父さんには一口サイズのステーキを5種類。

私はサイコロステーキを5種類。

シエロにはサイコロ肉に、果汁タップリかけて五種類。

マジックバックから取り出したそれぞれお気に入りのお皿に並べる。


「さあ、頂きましょう!」

各々好きな部位から食べる。精霊たちはテイスティングでもするかのように、味わいながら魔力の味について語っている。さっぱり理解できない。だけど美味しいと言う事だけは表情でわかった。

どの部位から食べてもそれぞれの味わいがある。口の中で蕩けるような肉から、噛んだ瞬間に歯ごたえと肉汁のハーモニーまで、どれが一番とか決められない美味しさだった。

長とシャンスも味には満足なようで、ただ何もなくなったお皿を見て寂しそうに尻尾を振った。


「えーと、帰ってから夕食として食べたらいいんじゃないかな?今のはみんなにとっておやつでしょ?」

おお!尻尾が見えないぐらいに振られている。これはレアなものをみた。それだけ美味しかったんだろうな。前世で食べたどんな肉よりも濃厚だ。まあ、OLの月給で食べられる物なんて高が知れているけど。多分、この世界で一番贅沢なものを食べている気がする。


「狂牛でこれだからな。ドラゴンとかもっと旨いに違いない。狩ってくるか」

「長?この近くにいるの?!」

「いや、この山の奥深くだな。最近群れが引っ越してきたようだぞ。だからこの地の覇権争いが激化したのだ。山に住んでいたものが追われた感じだな」

「え、聞いてないよ!それ大丈夫なの?」

「馬鹿な人間どものが山に入らなければ問題ない。ドラゴンでも龍にまでなれば我らと同じように念話も出来るぞ。流石に龍には我でも、喧嘩は吹っ掛けないがな。この地が吹っ飛ぶ」

「え、あ、もしかして、家が強化されたのって?」

「アルバンティス王国の奴らがやらかして、こちらに敵意を持たれた時に一撃を防ぐためだな。それさえ凌いだら、我がどうにかできる」


あはははっ・・・これマジの話だ。

父さんと二人先ほどお肉食べて精気を養ったはずなのに、疲れた。乾いた笑いしか出ない。

「だからなマリー。この森を早く掌握するのだ。今この森は深淵の森となり、アルバンティス王国の手を離れておる。あやつらがここに立ち入りできないように、すべきだ」


長がここにあたしを連れてきた本当の目的がわかった。これだったんだ。

「長・・・アルバンティス王国の手から離れたとは・・・どういう?」

「ウム。この世界には宝玉という土地を管理する物が存在する。どこからどこがその国の所属かを示すものだ」

「なるほど」

「王はこの国が魔物で滅ぼされないように、此処を放棄した。そのお陰で今はまだ森に呑み込まれずに国が維持できている。そうでなければスタンピードは早い段階で発生していただろう」

「放棄したら、魔物は入れないの?」

「魔物除けがされているからな、弱いものは入れない。ただ強き者は入れるが、普通の土地には魔素が少ない。だから長く生きられないから奥地から出て行かない。だが、こうやって魔物同士が争いキング、またの名を魔王と呼ばれるものが出てくれば別だ」

「ああ、なるほど。それらが率いれば簡単にスタンピードは起こる」

「そうだ。後一週間放置しておれば、間違いなく誕生しておっただろう。それだけこの土地は穢れていた。だから・・・なマリー。この森を浄化して聖女の森としてしまうのだ。そうすれば馬鹿な奴らがこの土地に攻め入ることは出来なくなる。ドラゴンを怒らさないで済む」


話が大きくなりすぎて、一瞬何を言っているのか理解できなかった。

でも、やらなければ妖精族を奴隷扱いする奴らだ。それ以上に被害が大きくなることは、目に見えていた。

「わかった!でも、今日は帰ろう?まだ時間に余裕はあるんだよね?」

「ああ、我らが頑張ったからな、一カ月ほどか」

「だったら、正直このあと母さんの説教が待ってる。あのお肉出して機嫌直してもらって、どうせなら母さんも一緒に暴れてもらったほうが効率がいいと思うの」


確かに。


その言葉に一同頷いたのを見て、帰る準備を始めた。

ここまで来たら覚悟を決めた。国と武力で争わないでいいだけ助かる。この際1つ森が増えたぐらい問題ない。そのうち精霊村も1つの国として、他の国と取引するようになる。その時の駆け引きの材料なるのは、いいことだ。


今日ある程度癒した土地に結界を施し、村に戻った。

当然のように激おこだった母さんを諫めるために、狂牛の肉を解体してきたことを話し、焼き肉奉行に徹することになったのは、仕方のないことだ。

もちろん、大トロのことは内緒である。

読んで頂き、ありがとうございました。

ブックマーク&評価が増えて、とても嬉しいです。

嬉しくて書いてみました!


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